閑話:戦争回避の裏側


「フェン……少し良いか?」


 Lv5廃村との会談の後、帰り道でサクはある疑問が浮かんだ。


「なーに、さっくん?」

「普段なら、攻めた村がその後兵士を作っていても強引に攻めているよな。……それなのに、何故今回に限って、しかも相手の村までわざわざ出向いて挨拶を……?」


 そう。普段であれば、廃村と思って攻め込んだ村が廃村ではなく、その後攻め込んだときに兵士が増えていたとしてもかまわず攻め倒す。相手が廃村になるまで。それがフェンの政策だった。


「ああ、それね。理由はいくつもあるよ。まず、人口が普段襲ってる村より多いこと、それにヒーローのLv上げをきちんとやっていること……あと偵察で見て、施設建築に無駄が一切無かった所とかもかな。……っていうか、サクはホントに策士なの? 最低でもこのくらい思いつかないの?」


 どうせ戦争気配を感じてビクビク震えてて考えるどころではなかったのだろう、と、フェンは笑った。

 策士とは本来臆病なものだ。臆病ゆえに、不安を探り、策を張り巡らせる。

 冷徹を気取っていてもそれは表情がうまく出せないだけで、サクはまさしくその典型だった。

 たまに許容量以上の不安を感じると、こうしてまったくの役立たずになるけれど。


「す、スマン。面目ない」


 立派な体をしていても、しゅん、と落ち込むさまはまるで子犬のようだ。

 それがあまりに可愛いものだからフェンもついつい意地悪をしてしまう。


「でも、一番大きい理由は、手紙かなー」

「……今まで襲った所からも手紙は来ていたと思うが……?」

「いや、だってさ。サクも見てたでしょ? 


 こちらの兵士が到着するとほぼ『同時に』手紙が来たんだよ。

 『ご利用ありがとうございます。^^』って。ただ一行。


 対応が早すぎる。しかも内容もすごいし。なんだよ『^^』って。襲われておいて笑顔? ありえないよ。どんだけ強気なんだよ。こっちはランカー上位陣だっていうのに、2000位以上順位の離れた僕らの村にコレだよ? あの名前も含めて罠だったんだ、嵌められたって思ったよ」

「……そんな内容だったのか……道理で、フェンも慌てていたわけだ」


 今まで襲った村から来た手紙は、2,3日してから……それも内容は、「やめてください」、「廃村じゃないです」、程度の手紙だった。これではフェンにとっては「自分の村は初心者で戦力も無いから襲ってください」と言っているのと変わらない。


「僕も常に張り付いてるわけじゃないから、ログインしていないときにゾンビアタックされ続けたらひとたまりも無い。そういう戦争の仕方を知っているプレイヤーだ、あれは」


 ゾンビアタック、というのは……比較的安価で強力な戦力、勇者を復活させまくって、何度も自爆特攻で攻めていく戦法だ。プレイヤーの時間と引き換えに、相手に多大なる迷惑をかけることができる。

 雪ダルマにPLと書いてあるようにしか見えなかったが……

 そしてふと、サクもある事実に思い至った。


「もしや……ふむ。あの村は資源レベルを公開しているが、あれは実は『資源をすべて奪われても、これだけの時間が空いたら勇者が復活できるぞ』と宣言しているわけか?……お、恐ろしいな」

「かもしれないね、サクもようやく頭が回るようになってきた? あわてて敵意の無いことを手紙に書いて送ったよ。ほとんど平謝りでさ。挨拶に出向いたのは、どんな相手か見てみたかったっていうのもあるけど……余計分からなくなったね。でも、あれほどの相手が何故かそのうちあの村を廃村として公開するよーって自ら言ってくれてるんだ、わざわざ戦うことは無い。おいしい廃村になってからいただけばいい。……だろ?」


 考えれば考えるほど、やはりあれは恐ろしい相手だったのだという実感がわいてくるサク。

 なるほど、やはり敵にしなくて正解だ。


「それじゃ、早く帰ろうか。といっても帰ったらまたすぐ闘技場行ってもらうけどね。お弁当のカ□リーメイトは何味にする?」

「ああ……チョコ味がいい」


 それにしても、慌てながらもそこまで考えが巡るフェンがプレイヤーで、本当に良かったとサクは思っていた。




 フェンたちが帰還しているそのころ、パネ子たちは今回の件について口論していた。


「なんなんですか!? 『ご利用ありがとうございます。^^』って! 今回は相手がたまたま敵意もってなかったからよかったようなものの!」

「丁度THE・コンビニのプレイ動画みてたのでコンビニを意識してやった。後悔はしていない」


 ちなみに、たまたまログインした直後に襲われたらしい。ヒャッホウとテンション上がってそのノリでメールしちゃったそうだ。

 本当にこのプレイヤーさんはやることなすこといい加減だ、とパネ子は思った。


「少しはフェンさんを見習ってくださいよっ!……もうっ、闘技場いってきます!」

「えー、もっとゆっくりしていけばいいのに」

「今きっとスゴイみこみこアッパー打てるんで。ラドンでも倒せる気がしますんで」


 シュッシュッとシャドーボクシングをするパネ子。いつにもましてキレがあった。


「いってらー」


 プレイヤーさんは迷わず見送った。



 案外、この世界はこのプレイヤーさんくらい適当なほうがやっていけるのかもしれない。



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