第26話 議会と刺繍
そういえばジョウトシティの人口もそろそろ200人。
資源も倉庫もバランスよく発展してきています。
建築物は首都の最初の方よりあっさりしていて、公邸・倉庫・議会・建築小屋・交易所の5つのみ。
本当にがっつり副村で発展してます。この村、譲渡後もそのまま優秀な副村として機能するでしょう。
あ、ちなみに最近議会のLvが上がっていました。何かたくらんでいるのでしょうか?
議会……うん、私はあまりよく知りません。発展ポイントを管理しているとかいう話も聞きますが。
確か軍旗を作るときに使ったとか何とか聞きますけど……
「そういえば議会って普段何してるんですか?」
とりあえずプレイヤーさんに聞いてみました。
「議会ではたまに技術勉強会やらするけど、普段は集会所かな? 公民館みたいな……ってか、勇者なのに知らないの?」
「……いやその、普段闘技場ばっかですからね?」
「まぁ、見てくれば?」
と、私はプレイヤーさんに言われて、議会を見に行くことにしました。
「私も興味あるわね。一緒に行っていいかしら?」
途中で会ったシャロさんも連れて行きます。
「お邪魔しまーす」
議会の中では数人の人が黙々と針仕事をしているようでした。
「これはこれは勇者さんじゃないですか。ドレスをお求めで?それともハンカチ? 軍旗を作るにはまだ人数がたりませんよ」
議会で働いてる人がお出迎えしてくれました。なんか細ヒゲがくるんと偉そうです。たぶん、議会長さんでしょう。
「ドレスにハンカチ?そういうのもあるんですか?」
「ドレスはあまり受注がないですが、ハンカチはかなり需要が高いですよ。おひとつどうぞ勇者さん」
そういって白いハンカチを一枚くれました。
見ると角にかわいらしくピンクの花の刺繍が入っていました。ハンカチの機能を損なわない実用さが伺えます。
「……これは……綺麗な刺繍ですねぇ」
細かく丁寧で、文字通り一糸の乱れもありません。
あれ、これ。どこかで見たことある花ですね。
「えーっと、たしか……毎朝鏡見ながら頭にセットしてるヤツ。名前なんでしたっけ? ハナ?」
「薔薇ね。これ、パネちゃんの髪飾りがモチーフかしら」
「ええ。今度の軍旗は勇者の肖像を入れようと思っておりまして。練習も兼ねています」
なるほど、軍旗に刺繍を入れるための練習ですか。
「本当は技術勉強会や合宿をやっていただきたいのですが、まぁ、そこまでしなくてもこれだけの腕なら十分次の軍旗が作れます。とはいえ、人手が足りないので時間が間に合いませんな。1日で間に合わせるにはあと数人欲しいです」
「1日で全部作るの? どうせ時間はあるんだし、もっと時間をかけてじっくり作ればいいんじゃないのかしら?」
シャロさんがぽつりと言いました。
しかし、議会長さんはそれにすぐさま反論します。
「いいえ、軍旗とは開拓の象徴です。『短時間によくこれだけのものを作れるものだ。あの期間でこれほどの物が作れるならば村を開拓することも出来るはず』と開拓者にそう思っていただくため、1日で作れなければないのです。1日かけて刺繍を施し、さらに本当にそのデザインでいいのかを検討、若干の修正を加えつつ、ようやく軍旗が完成するのです。失敗は許されない、それまでの積み重ねがすべてそこにかかるのです!
そう、軍旗とは村の芸術と努力の集大成、そして次へ繋ぐバトンなのです!」
握りこぶしをつくって熱く叫ぶ議会長さん。
溢れんばかりの情熱の塊。旗ひとつに人生をかける職人魂が主張にあふれていました。
「デ、デザインなんてどうでもいいから適当で、じゃ駄目なのね……」
「当然です。どなたから見られても恥ずかしくない軍旗でなければ開拓の象徴にはなりえないのですよ、鬼人のお嬢さん」
満足げな議会長さん。たしかにジョウトシティを作るときに作ってもらった軍旗はとても綺麗な刺繍がはいっていましたっけ。あれ、思わず見とれてしまいました。
「というわけで、その技術をふんだんに使った刺繍入りハンカチなどは如何でしょう? お安くしておきますよ」
あ、そうやって商売するんですね。
言いながらいくつかの刺繍入りハンカチを取り出して見せる議会長さん。
さっきもらったハンカチと同じものもありますね。
「あら素敵、でもあまり持ち合わせがないわ」
「……軍旗は案外どこの村も作ってるでしょう? 価格競争激しく本当にお安いですよ。まぁそもそも軍旗の練習をしているだけで本来無料で配ってもいいほどですし。なんならその美味しそうな匂いをさせているバスケットの中身と交換でも良いです」
そういえば今日のおやつはまだでした。チョコレートクッキーの香ばしく甘い匂いがしています。
「え? でもこれはパネちゃんのために作ったオヤツだし……」
「恋人へのプレゼントなどに如何です? オーダーメイドも可能ですし、イニシャルもお入れますよ」
ほう。
それは良いことを聞きました。
「私なら構わないですよシャロさん。どうぞそのクッキーをつかって好きな人へのプレゼントでも!」
「え、恥ずかしいわよそれは。でも……お言葉に甘えちゃおうかしら? この刺繍、本当にかわいいし」
シャロさんはうっとりと、私の髪飾りをモチーフにしたという花の刺繍を見つめています。
ところで今、好きな人へのプレゼントっていうのに否定しませんでしたね。
「この花の刺繍に蝶を加えて、イニシャル入れた物を2枚、とかでもいいかしら?」
「おや、ずいぶん値切られましたな。よろしいですよ。イニシャルはなんにしましょう?」
「それぞれSと、……ぴ、Pで」
2枚で、一枚目のSは愛しのサクさんですよね。もう一枚がPなのは、もしかして私にもくれるんでしょうか?
「パネちゃんのオヤツで作ってもらうから、よ? その。ええ」
「嬉しいです、大事にしますね♪」
あ、でもそうなるとシャロさんだけハンカチが無いのはちょっと仲間はずれみたいな感じがしてきます。
そうだ! 私からもハンカチをシャロさんにプレゼントしましょう。
「私ももう一枚いいですか? いまのと同じ刺繍で、イニシャルはSで!」
さすがに3枚分は時間がかかるとのことですが、明日には出来るらしいのでまた明日いくことになりました。
「完成が楽しみですねー」
「そうね……」
あれ、なんかシャロさんのテンションが低いですね。
気に入った刺繍と離れ離れになってつらいといったほど気に入ったのでしょうか?
「あ、そういえばプレイヤーさんの分も作ってもらうべきだったでしょうか?」
「……別にいいんじゃないかしら? 飾りとか好きそうなイメージが無いわ」
「確かにあの無駄の無い見た目は……」
それにイニシャル入れるにもプレイヤーさんの場合「プレイヤーさん」でPでいいのかどうかから……? あ、Pなら私と被りますね。
まぁ、とりあえず明日もう一度行きますし、それまでに聞いておいて見ましょうか。
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