第16話 防水防具


「というわけで、これがドラゴンの抜け殻です」


 私はプレイヤーさんに大き目の抜け殻を渡しました。


「よしっ、これでクエストがクリアできるぞ! ……いやぁ、長い道のりだった。まるまる一ヶ月くらいかかったような?」

「気のせいですよー、大体1週間くらいですって」


 でも確かに、こうして自分の村で落ち着いて休むのも久しぶりですね。

 私はシャロさんと手をつないだまま、官邸前の木陰にあるベンチにくってりと座っています。


「っていうかパネ子、なんかシャロさんと異様に仲良くなってないか?」

「そうですか?」


 私は隣に居るシャロさんを見ます。

 シャロさんはにっこりと微笑み、私もそれににっこり返します。


「ふふ、確かに私たちは苦難を乗り越えて絆を深めたもの。そう見えて当然よ」


 と、シャロさんは自慢げです。


「この間の赤くなって帰ってきたときといい、そこんとこ詳しく教えてもらいたいんだけど」

「や、それは黙秘権を行使します!」


 やっぱり思い出すと恥ずかしいですっ!

 っていうか、よくよく考えたら裸で抱き合おうとしてたんですよね、非常時だったとはいえ。

 うん、なんていうかですね、後々からそれに気づいて。

 ミミさんの村で一泊した後そのことに気がついたんですよ。

 だって、私は結局脱がなかったし明かりつけたときにはシャロさん服着てたしっ、脱出に気をとられててっ!

 ……道理でシャロさんもまっかっかだったわけですよね。

 あー、ほんと、思い出すと恥ずかしくて死にそうになります。

 ですが、私はシャロさんとの特訓のおかげで目をそらさずにシャロさんを見ることができます。

 ありがとうシャロさん。確かに絆は深まったと実感しています。


「まぁいいや、とりあえずこれと、羽クエの報酬を使って水着を作るとするか」

「わ、ついに防水防具が手に入るんですかー……って、プレイヤーさんが作るんですか?」


 プレイヤーさんは、セイレーンの羽の報酬に受け取った妖精の糸と、ドラゴンの抜け殻を見ていました。


「……うん、なんかそうみたい。……シャロさん手伝ってもらえる?」

「パネちゃんの体の寸法なら完全に体で把握してるわ、役に立つかしら?」

「な、なんですかそれ!?」

「ばっちり役に立つよ。じゃ、パネ子はちょっと待ってて、作ってくるから」

「任せて」

「ちょ、シャロさーん!?」


 プレイヤーさんとシャロさんは、ふたりだけで官邸の中へ入っていきました。



 数分後。


「できたぞ!」「できたわ!」


 二人が官邸から出てきました。


「早っ、もうできたんですか」

「設計図どおりに縫うだけだったから楽勝だった」

「しかもミシンとかいう魔法の裁縫道具があって……まぁ、着てみて」


 私は出来立てほやほやの水着を受け取りました。

 黄色にオレンジの水玉模様のビキニです。ワンポイントの花が可愛いですね。

 ……信じがたいことにこの裸に近い布面積で防御力が20もあるとか。

 ドラゴンの抜け殻で作っているせいでしょうか?


「あまった分でシャロさんのも作ったけど」

「あ、それじゃ私もパネちゃんと一緒に着替えてこようかしら」


 シャロさんもプレイヤーさんから水着を受け取りました。私のとはだいぶ違うみたいですが。


「それじゃ、ちょっと着替えてきますね」


 私はシャロさんと官邸内の私の部屋に行き、着替えることにしました。


「着替えるとこ見ててもいいかしら? ちゃんと縫製できたのか気になるし」

「は、恥ずかしいのでだめです。あっち向いて着替えてください」


 そして着替えが終わりましたが、……うーん、おへそとか足とか丸々出してて……

 なんかほとんど下着とかわらない感じです。ビキニ、とかいうらしいです。


「シャロさんはどうですかー……って、私のとずいぶん違いますね?」


 シャロさんのは、おへそが出ておらず一体型で、しかも濃い紺色で、胸元に白い四角い布があり、そこに「しゃろ」と名前が書いてありました。


「結構胸がきついわね」

「もしかしてこの白い部分がドラゴンの抜け殻でしょうか?」

「そうみたい。あまった少ない布で急所である心臓をカバーするいい位置どりよね、さすがプレイヤーさん」


 案外考えて作られてるんですね。ふむふむ。


「あ、ところで私のほうはどうでしょう?」


 私はその場でくるっと一回転してみせました。


「……パネちゃん」

「はいっ」

「私以外にこんな可愛い格好見せちゃダメよ」


 ……たしかにこんな下着みたいな水着、裸で抱き合う寸前まで行ったシャロさんくらいにしかまともに見せられないと思います。

 というわけなので、私の水着はシャロさんと二人で湖畔に行ったときに着ることになりました。

 お披露目できないのは残念なような、ホッとしたような気がします。



「あれ?着替えなかったの?」

「よく考えたら村の中で水着になってても仕方ないですもん。湖畔とかに行かないと」

「というわけだから、ちょっとこれから湖畔に水浴びしに行って来るわ」


 シャロさんは水着を入れた小さな袋をもっていました。


「えっ、今からですか? ……いいですか?プレイヤーさん」

「うん、いっといで。まぁこっちはちょっとやることもあるし……」

「やることですか?」


 私は、気づいていませんでした。

 私たちがクエストに行っている間も、プレイヤーさんは律儀にもこの村を発展させていたということに。



「そろそろ綿資源がLv10になるからねー、そしたら綿施設作って、次は木資源だよ」



 気がついていませんでした。

 いつの間にか、この村の名前が「Lv9廃村」であったことに。

 あまりにも平和すぎて、日々が楽しくて、忘れていました。

 この村の目標達成まで、



 あと、ほんの少し。



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