閑話:誤解


「まさかあのSが私のイニシャルだったなんて……」


 私は、村に戻ってベッドに仰向けに寝転がる。

 パネちゃんからもらった大事な包みを開けて、ハンカチを取り出す。

 そこには蝶と花、そして私のイニシャルのSが入っていた。


「……うふ」


 あ、やばい。見てるだけでニヤけちゃう。

 恋人への贈り物にも最適――そういえば、議会長さんだっけ?が、そんなことも言っていた。


「それにパネちゃんの、あの、平地での態度……」


 私の好きな人が誰か、バレているらしい。

 それでも私の口から聞きたい、と、身を寄せて聞きにきた。あの、二人きりの時に。


「つまりこの二つを合わせると……パネちゃんも、私のこと恋人にしたいくらい好き、ってこと? それって、つまり……」


 ……両想い、ってヤツかしら?


「…………」


 あ、なんだろう。顔がすっごく熱くなっちゃってる。

 胸の奥、背骨に近いあたりがカァっと熱くて、くすぐったくて、中から溶けてしまいそう。

 で、ニヤけが止まらない。


「ふふ……♪」


 ハンカチをぎゅーっと抱きしめる。

 これは、一生大事にしなきゃ。

 前にもらった蝶のブローチも、毎日欠かさずつけてる。

 ハンカチは……うーん、そうだ。普段は自分用に作ったのを使って、こっちは無くさないように大事にしまっておこう。


「それにしても、まさか私がパネちゃん好きなことがバレてるなんて……」


 自分でも完璧に隠せたなんて思ってなかったけど、いや、むしろ今思えばバレないはずがないくらいにボロボロかな?

 だって、パネちゃんが目の前に居たら、好きっていう気持ちが隠しきれるほど小さく居てくれないもの。

 ……

 ん?でも、パネちゃんが勘違いしてるって可能性もある、のかしら?

 このハンカチをサクに渡そうしてると思ってたみたいだし。


「……んー」


 一応、こんな私だから最悪に近いパターンを考えてみる。

 パネちゃんは私がサクの事好きなんじゃないかと思っていて。

 そもそも、前々からの想像通り、パネちゃんはサクの事が好きだったとして。

 もし私がサクのこと好きだって言ったらライバル宣言してた、とか?


「……あれ……こっちのほうがしっくり来ちゃうわね……どうしよう」


 そもそも私が自分に都合のいいように考えてたのかもしれない。

 ハンカチをもらって浮かれてたけど、その、これも牽制だったのかも。


「うーん」


 パネちゃんが、こんな私を好きっていうほうが無理がある、かしら?

 女同士なんだし、普通に考えれば、サクのほうが好きに決まってる。

 私が性別の壁を越えてパネちゃんが好きっていうほど、パネちゃんは私のこと好きなはずが……


「うう、分が悪くなってきたわ」


 考えれば考えるほど、本当は私パネちゃんに嫌われてるのかも?と思ってしまう。


「……どっちなんだろう、パネちゃんの気持ちは……」


 私は、ハンカチを見つめながら思う。

 どちらにせよこのハンカチは私の宝物なのは違いない。

 意味合いは多少変わってくるけど、それでもパネちゃんからもらった大事なハンカチなのだから。

 ああ、心が読めたらいいのに。


 ……でも、パネちゃんの好きな人がわかる儀式とかあっても、きっと怖くて使えないんだろうな。



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