第21話 闘技場での恋

 

 それは、シャロさんがサクさんに恋してるとプレイヤーさんに報告した次の日のことでした。 


「雑貨屋がレベル上がってきてからサクさん遠くの闘技場に通ってるらしくてあえないんですよねー。どうにかして会えないものでしょうか……?」

「それならサク君と闘技場で会えるようにしといたから、シャロさん連れて行ってくればいいよ」

「マジですか!?」


 なんですかその有能っぷり。あなた本物のプレイヤーさんですか?中身替わってたりしますか?


「フェンにちょっと一緒に闘技場やらないかって言ったらすぐOKしてくれたよ」


 ちょ、上位ランカーのフェンさんのこと呼び捨てですか。


「それで、私はどこの闘技場に行けばいいんでしょう?」

「え? いつものとこだけど?」

「こっちが遠出して出向くわけじゃなくて、サクさんを近場に呼んだんですか?!」


 何それ、どんだけ豪気なんですかプレイヤーさんってば。

 いやはや、予定を狂わせて付き合って協力してくれるフェンさんに感謝です。


「まぁその代わり、シャロさんの反応を事細かに逐一教えてくれればいいから。反応を見逃すなよ?」

「うーん……報酬ってことでしょうか。まぁ、いいでしょう。それじゃ、行ってきますね」

「おう、恋する乙女なシャロさんに優しくてやれよ!」


 なんかプレイヤーさんがニヤニヤしていましたが、まぁ見なかったことにしました。



 私は闘技場に行く前にシャロさんの廃村に寄りました。


「シャロさーん、闘技場行きますけど、一緒に行きますかっ♪」

「行くわ! そろそろくると思ってたからお茶の準備も万全よ!」


 早っ、さすが恋してる乙女は違いますね。


「んー、やっぱり予感めいたものを感じているということでしょうか?」

「予感? 昨日ぐっすり眠れただけよ」

「ほほう……そいえば、手は洗いましたか?」

「! や、そのっ……うん、洗っちゃったわ」


 ふふふ、わかりますよその反応。私越しにとはいえサクさんと握手したのに、洗っちゃったんですか。

 そのことを私に見抜かれて動揺したと見ました!

 うん、やっぱり恋しちゃってるみたいです。確定ですね。

 親友の恋路、私は陰ながら全力で応援させてもらいますよ。


「そーいえば、今日は闘技場にサクさんが来るらしいですよ?」


 私は限りなく自然な流れで言いました。


「えっ、嘘、最近来てなかったじゃない。なんでくるのかしら……うーん、今日はやめようかしら?」


 そうですよね、いきなり好きな人に会えるとなったら逆に臆病になることもあると思います。

 うん、プレイヤーさんも恋する乙女に優しくしろって言ってましたし、ここは手助けです。


「シャロさん、手をつないで行きましょうか?」

「え!? あ、じゃぁ、その。……行くわ」


 シャロさんは、私の差し出した手をきゅっと可愛く握ります。

 落ち着かせるのに成功したみたいです。

 私はそのままシャロさんの手をひっぱって闘技場に行きました。

 シャロさんはもじもじと始終恥ずかしそうでした。きっと、サクさんに会うのが恥ずかしいのでしょう。


「到着ですっ、あ、いました。サクさーん♪」


 闘技場につくと、既にサクさんが待っていました。


「パネ子殿。それに、シャーロット殿も一緒か」

「…………久しぶり。なんでいるわけ? 帰れば?」


 これがツンデレってやつなんですね、はじめて見ました。

 先程まで会うのすら恥ずかしそうだというのに、本人を目の前にしてつっぱねちゃってます。


「まぁ、今日は試合が組まれると思うが、よろしく頼むぞ、パネ子殿」

「ちょっと、前から思ってたんだけど、パネちゃんの事なれなれしくパネ子とか呼ばないで頂戴」

「そうです! 私のことばっかりじゃなくてシャロさんのこともシャロ殿にすべきです!ですよね?シャロさん」

「えっ、あ、えと、そうね?」


 私、シャロさんのツンをナイスアシスト!

 見事です。見事に読みきりました。『私のことほっといて他の女とイチャイチャしないでよ』ですよね!

 ふふ、実は昨日プレイヤーさんから少女マンガを借りて読んだのです。だから予習はばっちりです!

 自分で自分を褒めてあげたい。

 ん?自分を参考にすればいいのに、ですか? いやぁ、私、恋愛ってしたことないからよく分からなくて。


「……そうか、ではこれからシャロ殿と呼ぶが、良いだろうか?」

「パネちゃんが言うなら仕方ないわ……」


 ぷいっとそっぽを向くシャロさん。

 私はつい可愛く思えて、シャロさんを撫でてしまいました。


「あ、な、なぁに?パネちゃん?」

「いえ、なんか可愛いなって」

「~~ッ!!」


 シャロさんの顔が真っ赤になりました。

 なるほど、恋する乙女って可愛いですね。


「っと、早速ですけど、ちょっと戦ってきますかねー。二人とも、見ててくださいね!」



 私が闘技場でタロスと戦闘している間、二人で随分話が盛り上がっていたみたいです。

 でも私が戻ると恥ずかしそうにそそくさと離れていってしまいました。


「えへへー♪」


 これは随分と距離が近づいたと見て間違いないでしょう。


「大丈夫? パネちゃん。頭打ってたみたいだけど」

「いやぁ、大丈夫ですっ! それよりシャロさん。サクさんとはどうですか?」


 ちょっとよそ見していい一撃をもらってしまいましたが、何とか勝てたし問題なしです。そんなことよりシャロさんなのです。私はシャロさんのチョコケーキを食べながら、尋ねます。


「どうって、何が?」

「えーっと。……仲良くなれそうか、とか?」

「無理ね」


 ぽつりと言いながら、紅茶を一口飲むシャロさん。

 なんか引っ込み思案になっているようです。ここは、やはり私が一肌脱ぐべきでしょう。


「サクさーん、一緒にお茶しませんかっ!」

「!?」


 シャロさんがお茶を吹きそうになってました。

 うん、私ならきっと確実に吹いていたところでしょう。こぼさないあたりがシャロさんです。


「ちょ、ちょっと、だめよ!」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。お友達と一緒にお茶するくらいー」


 と、向こうの方に行っていたサクさんがやってきました。


「……隣人に招かれては仕方がないな……ご近所付き合いは大切だとフェンも言っていた」

「別に私は隣人じゃないから来なくて良いわよ。それに、今日のオヤツは私とパネちゃんの二人分しか用意してないの。あなたの分は無いわ」


 しまった。そうだったんですか……うーん、しょうがない。

 ケーキには後ろ髪を惹かれますがここは私が引きましょう。


「サクさん。食べかけですけど、よかったら私の食べてください」


 フォークを添えて、食べかけのケーキを差し出します。


「ま、まちなさいパネちゃん! それなら私のをこいつにあげるからそれは駄目!」

「え?じゃぁ私のはシャロさんにあげましょう」

「……いいの?」

「はいっ、それじゃ、私はちょっとおはなつみに! おはなつみに行ってきますね!ごゆっくりっ」


 そして自然に席をはずす私。

 ふふ……これぞ必殺。二人っきりのお茶会です!

 私は隠れて様子を伺う事にしました。

 うーん、ここからじゃ何話してるのか聞こえないですね。

 とりあえずシャロさん、照れているのかサクさんのほうを向きません。

 目をあわせられない、ということでしょうか。

 そして、そのままケーキを差し出します。サクさんが受け取りました。

 そしてそして?

 おお……シャロさんがケーキ食べながらすごい幸せそうな笑顔を浮かべています……やりましたね!

 おめでとうございます、二人っきりのお茶会、成功です!

 私は陰ながら祝福しますよっ!


 私とサクさんの試合も終わり、今日の闘技場終了です。

 うん、サクさんには大差をつけて負かされてしまいました。


「いやはや、遠くの闘技場に通ってる分、多く経験値もらえるんですっけ?」

「ああ……まあな」


 その成果でしょう。私よりレベルがひとつ上でした。


「それではパネ子殿、シャロ殿。また会おう」

「はいっ♪ ……あれ?シャロさん、挨拶はいいんですか?」

「そうね、えーっと。今日はありがとう」


 シャロさんのデレが出ました!デレまぶしいです!

 ふふ、今朝のツンツンした態度とくらべて随分な進歩じゃないですか。その調子ですよっファイト!

 闘技場でサクさんと別れ、私は再びシャロさんと手をつないで帰ります。

 思い出しているのでしょうか。すこし上の空のような、顔の赤いシャロさんでした。



「と、まぁ大体こんな感じですね。分かりましたか?」

「うん、よく分かった。すごいなパネ子。解説がまるで立ち会って見てた気分だ。また機会があったらセッティングしてやろう、その時は報告頼むぞニヤニヤ」

「はいっ、またお願いしますね! ってなに口でニヤニヤいってるんですか」


 なんかプレイヤーさんが協力的だと不安もありますが、確かにいい仕事でした。


「シャロさんの恋、成就するといいですねー」

「ハハッ、そうだねー」


 プレイヤーさんがニヤニヤしながらいいました。

 ……ええ、この意味が分かりました。人の恋路ってなんかニヤニヤしちゃうんですね!

 だってシャロさん見てて、すごく、なんかこう、可愛くてにやけちゃいますもん。

 恋する女の子は可愛いですね! ……私もいつかそういう相手が見つかるのでしょうか?

 まぁ、とりあえず、当面は陰から全力でシャロさんの応援をしちゃいましょう!

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