第5話 襲撃


「ええ!? 襲撃を受けた!?」


 その日闘技場から帰ってきた私は、プレイヤーさんからその衝撃的な事実を聞かされました。

 恐れていたことがついに起きたのです。

 この村に敵意を抱いた襲撃者。

 攻められることを想定しておらず外壁もないこの村からは、たっぷりと資源が奪えるでしょう。

 味を占めた相手はおそらく再びこの村を襲います。

 資源は枯れ、兵士は全滅し、官邸に火が放たれるでしょう。

 そしてこの村は焦土と化し、プレイヤーさんに捨てられて完璧な廃村になってしまうのです。


「ど、どうしましょう……!? そ、そうだ!とりあえず篭城しましょう!壁つくりましょう! ああっ、でもどうしよう、なにからどうしたらいいんでしょう、食料あつめて、武器用意して? それとそれと、戦死した兵士さんたちのお墓もつくらないとっ、お葬式とお坊さんの準備をっ!?」

「ん?ああ。心配しなくていいよパネ子。別に兵士に被害も無かったし。ちょっと官邸が傷ついただけで」

「そ、そうか、兵士さんたちは基本みんな散策行ってますもんね」


 よかった、兵士さんたちはまだ無事みたいです。

 ということは、まだ戦力が残っているということ。戦力があれば、反抗ができます。

 戦争は嫌ですが、降りかかる火の粉は払わねばなりません。


「まぁ資源はごっそり持ってかれたけど」

「それって結構だめじゃないですか!?」


 恐れていた事態の流れになってしまっています。このままでは、このままではいけません。

 流れを変えるには、そう、ただちに反撃しなければっ!


「メールは送っといたよ。ご利用ありがとうございます、って」

「えーーー!?」


 どういうことなのそれ!?

 襲撃されてありがとうございますって、プレイヤーさんひょっとしてただのマゾってやつなんじゃ……


「いや、ほらうちって廃村にする予定でしょ? 遅かれ早かれこうなるのは分かってたじゃん」


 ふと、いやな予感が頭をよぎりました。

 襲撃を受けて、それをきっかけに発展をあきらめる人は多いと聞きます。


「……えっと。……それってつまり、この村は今からもう廃村にするってこと、ですか?」

「えっ、何いってんのさ。まだLv5廃村じゃないか。目標のLv10廃村に遠く及ばないよ?」


 すみません。プレイヤーさんこそ何言ってるのか良く分かりません。

 ですが、一応つまりそれは


「……ま、まだこの村に居てくれるってことなんですか? 襲撃受けたのに……?」

「えっ、そのつもりだけど?」


 けろっとした顔でプレイヤーさんは言いました。


「ほっ。よかったぁ~、プレイヤーさんいなくなっちゃったら、私じゃどうしていいか分かりませんからねー」


 プレイヤーさんの思考回路は相変わらずさっぱり読めないですが、

 とりあえずはまだ一緒に居てくれるみたいです。

 よかった。……よかったのかな?


「それじゃ、戦いの指示をお願いしますプレイヤーさん」

「え? なんで?」

「え?」


 なんでって、それはもちろん敵とは戦わないと生き残れないのがこの世界だからでして、まだこの村に居てくれるということは、敵と戦ってくれるということじゃ……?


「で、相手なんだけどね。また来るって」


 けろっとした顔でいうプレイヤーさん。


「ええっ! た、大変ですっ、資源隠さなきゃ! ああっ、でもどこに隠せばいいんでしょうか!?」

「ちがうちがう。今度は挨拶に、だよ。もしかして、戦争やるとでも思ったの?」

「そ、そうなんですか? 戦争じゃなくても大丈夫なんですか?」

「外敵が全員敵意を持ってると思ったら大間違いだよ。まぁ任せてよ」


 そういってプレイヤーさんは私の頭をなでてくれました。

 プレイヤーさんは、ちっとも慌てていません。そして、任せろと言ってくれました。

 きっと、プレイヤーさんなら大丈夫なのでしょう。なんとかしてくれます。

 そう思うと、少し落ち着いてきました。

 と、伝令が走ってきました。村の外に誰か着たようです。


「もう着たのかな? ふむ、結構早いね」


 相手が挨拶に来たんだろう、とプレイヤーは村の入り口まで歩いていきます。

 私もプレイヤーさんについていきます。

 村の入り口には、人間の勇者「冷静なる策士」と、相手のプレイヤーさんが来ていました。

 私は緊張しながら、恐る恐るプレイヤーさんの後ろから彼らを見ました。


「……!?」


 まず私が見て驚いたコト、それは……


「うわっ……び、美形だ……うちのプレイヤーさんとぜんぜん違う……」


 そう。外見。

 うちのプレイヤーさんが雪だるまの顔にPLと書いてあるようなそっけない外見なのに対し、このプレイヤーは八頭身ですらっと切れ目、兵士でいうと軽騎士に近い顔立ちでしょうか。ですが、明らかに質が違い……上質ってやつでした。

 連れ従う勇者の策士もクールで、かっこいいです。絵になってます。かっこいいです。大事なことなので二回言いました。

 で、この差は何ですか?

 空気がキラキラしてますよ?


「はじめまして。プレイヤーのフェンです、とはいってもメールで挨拶はしたっけ? こっちは勇者のサク」

「……初めまして」


 おお……無愛想な態度もまさしくクールです。冷静なる策士の称号は伊達じゃありませんね!

 これは負けていられません……きりっと引き締めて立ち向かわねば。


「フォォ! さっくん、さっくんキタコレ! フェンさんもよくいらっしゃったでござそうろう」


 プレイヤーさんはなぜか異様に興奮していました。っていうか口調が変です。


「ほら、パネ子も挨拶して」

「あ、はい。……パネ子です、初めまして」


 ぺこり、とお辞儀してご挨拶。

 し、しまった。緊張と名前のせいで微妙な顔になってしまいました。

 太陽の巫女の称号が伊達だと思われたでしょうか?

 しかし、プレイヤーさんの言っていたとおり、本当に思っていたより敵意を感じません。

 いえ、むしろこれは普通に友人と雑談するような、そんな軽い感じじゃないですか?

 いえいえいえ、それでも気は抜けません。特にプレイヤーさんが失礼なこと言わないとも限りません。

 挨拶が済んだところで、プレイヤー同士のお話が始まりました。


「いやぁ、今回は悪かったね。こんな名前してるもんだから廃村かと思ったよ。まさか有人だったとはねー。人口多いからもしやとは思ったけど、完全に騙されたなー」


 何その軽い謝罪。こっちがどれだけ神経すり減らしたと思ってるんですかまったく。


「ハハハ、引っかかったなこやつめ。まぁ、そのうち廃村にするからその時は存分に襲ってくだしあ」


 訂正します。私しか神経すり減ってなかったみたいですね。

 ていうか廃村にするのは変わらないんですか、そうですか。ホロリ。


「変わり者だけど歪み無いねぇ……ところで、ホントに資源返さなくてもいいの?」

「いいヨー。まぁ、まだ廃村として上目指してるから資源Lvとか上げたいんだけど」


 廃村として上ってなんですか!?


「OK、それじゃ今回は遠慮なくもらっておくよ。こっちとしてもそのほうが助かるし」


 私としては返してもらったほうがいいと思うんですが、プレイヤーさんが言うなら仕方が無いのです。


「少しいいだろうか……?」


 冷静なる策士ことサクさんが口を挟みました。

 いままでずっと黙ってプレイヤーさんたちの話を聞いていたサクさん。

 策士らしく、状況の分析を行っていたのでしょうか。


「……これは……戦争にはならないんだな?」


 ふぅ、とため息をすくサクさん。

 自分の力試しの場が無くなって物足りない、といった感じなのでしょうか。


「……安心したら腰が抜けそうだ。フェン、つかまってもいいか」


 えっ、なにそれ。

 よく見たら足がぷるぷると小刻みに震えていました。

 もしかして、サクさんも私と同じように緊張していたのでしょうか。


「情けないなぁ。いいよほら、肩につかまって」

「す、すまん。ありがとうフェン」


 がしっと抱きつくようにフェンさんの肩につかまるサクさん。

 思っていたよりちょっと情けないかもしれません。

 あ、でも美形同士だからかな。絵になる。美形すごい。


「まぁ有人村と戦争なんてしてたら、ランキングどころじゃなくなっちゃうからねー」

「ハハ、上位陣は大変だなァ」


 って、今さらっとランカー発言がでましたよ? そしてそれを軽く流すプレイヤーさんもアレですが。


「あの、つかぬ事をお聞きしますけど……フェンさんちってランキングでいうと何位くらいなんですか?」

「え? うーん、今のところ200位以内には入ってる感じだったかな? 一応10位以内目指してるよ」

「に、200位ですか!?」


 ちなみにうちは2500位くらいです。圧倒的な差があります。


「うん、資源産出を増やす各資源の精神アイテムや、建築予約できるの大工の精神とか、建築の待ち時間が0になる高速建築とかつかってるから。それでも資源たりなくてこーして廃村巡りしてたり」


 うひゃぁ、とため息が漏れました。

 すごいです。今言ったのは全部課金アイテム。相当お金かかってます。

 そしてさっきから考えていた謎がとけました。

 ランキング上位になったり、課金すると美形になるのです! たぶん!


「ぷ、プレイヤーさん、うちもなんかアイテム買って使ってくださいよ!」

「おいおいパネ子、うちは廃村プレイやるんだから課金ランカーと張り合ってもしょうがないだろ?」

「だったらせめて初期にもらった7日間入手資源10%アップアイテム使ってくださいっ」

「無課金・無アイテム(初期クエストは除く)縛りだから。(キリッ」

「プレイヤーさんがアイテム使わないのは単にもったいなくてケチって使ってないだけじゃないですかー!」


 フェンさんたちが居なければ、思わずみこみこアッパーが炸裂するところでした。

 私たちを見ていたフェンさんが、くくっと漏れるように笑いました。

 掛け合いがツボに嵌ったのでしょうか?


「あー、うん。仲良いね君たち。それじゃ、挨拶も済んだしそろそろ帰ろうか?サク」

「うむ……」


 うむ、とか言いながら、しっかりとフェンさんに抱きついてるサクさん。

 私たちよりよっぽど仲が良くみえます。


「重いんだけど。勇者なんだから一人で立てるでしょ?」

「ス、スマン。つい」


 少し怒ったようにいわれて、サクさんはあわてて離れます。


「それじゃ、失礼するよ。お互い頑張って村を発展させていこう」

「まぁうちはそこそこで廃村にするけどね」


 ランカー上位相手になんか偉そうですよ、うちのプレイヤーさん。


「……」


 サクさんと目が合いました。


「では、失礼する。また会おう……」


 ぽつり、とつぶやきました。


「はいっ♪」


 私も、今度はにこっと笑顔で返します。

 最初のイメージとはずいぶん違ってしまいましたが、やっぱりカッコいいサクさんでした。



「あの二人、すごく仲よさそうでしたね。うちと違って」

「恋人同士って感じだよね」

「いや、確かにフェンさんなんか女の人みたいにキレイでしたけど」


 男同士ですよ? と言うと、

 プレイヤーさんはどこからともなく薄い本を取り出しました。数にして5冊。

 一番上の本の表紙にはかっこいい男性の二人組が描かれていました。どこか雰囲気がフェンさんたちに似ている気がします。


「よしパネ子。次来るときまでにこの本読んどけ」

「えっ」


 闘技場の休憩時間にでも読んでおけ、と押し付けられました。


「何事も勉強だぞ」


 一体何が何事なんでしょうか。

 聞こうとしたら、またいつものように1鯖へ行ってしまいました。

 ……しかたないですねまったく。

 せっかく5冊もあることですし、シャロさん呼んで一緒に読むとしましょう。

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