ジョウトシティ

第19話 理不尽で平凡な日常


「……はぁ。なんでうちのプレイヤーはあんななんでしょーか……」


 おはようございます、パネ子です。

 朝起きて皆さんが最初にやることはなんですか?

 体を起こす、とか、目を開ける、とかではなく、もうちょっと先。

 伸びをして気合を入れるとか、朝ごはんを食べるとか。

 皆さんいろいろあると思います。

 そして私の場合はこのクセっ毛の髪の毛をセットする、です。


「……んー、相変わらずの可愛げのない猛反発っぷりです……」


 ブラシでいくら押さえつけても、なんか反抗的な私の髪。毎朝結構な戦いだったりしますが、これでも女の子なので気を使うんです。まぁ、結局ある程度で妥協してしまうんですけれど。

 そうして朝ごはんに村で取れた卵や野菜を適当にたべたころ、この村のプレイヤーさんがやってきます。


「おはようパネ子。今日も元気そうだねぇ」


 そうです、私に「パネェ」なんて変な名前をつけたプレイヤーさんです。

 見た目からして雪だるまの顔にPLと書いてあるような簡素でふざけた外見です。

 好きか嫌いかといわれると、嫌いではないけど嫌いです。

 村づくりの基本的なところでは案外マトモなプレイヤーさんなので嫌いではないのですが、私に変な名前をつけたり村を廃村にしようとしたり、根本的なところで不真面目なのでそこが嫌いです。


「じゃ、今日から新しい村を作ってくけど、近場だし、せっかくだから一緒に行く?」

「え?いいんですか? 行きます行きます」


 そうそう。先日この村は新しく別のところを開拓したのです。この村を首都として、あっちの村は副村。

 ある程度大きくなった村は、新しく村を開拓できるのです。

 そして副村からさらにその副村を開拓、というように、村をどんどん開拓していきます。

 副村を何個も持つことで、村……いえ、街として一人前になるといっても過言ではないのです。

 そして、この村もついにその大きな一歩を踏み出したのです。


「さぁ、いざいかんジョウトシティへ!」

「あれ、結構マトモな名前付けたじゃないですかプレイヤーさんにしては」

「いいセンスでしょ? まぁ譲渡をカタカナで言っただけだけどね」


 ……

 そうそう、訂正します。うちの村は一歩を踏み出してはいませんでした。

 一歩踏み出していたとしてもムーンウォークで二歩下がっていました。


「ちょっ、副村をある程度発展させたらあげちゃうって話本当だったんですか?!」

「えっ 心外な、これが嘘つきの目に見える?」

「すみません、重ねた大福にPLと書いてあるようにしかみえません」


 ちなみに、開拓したり他の副村を占領するために必要な軍旗は、つくるのに莫大な資源を消費します。

 さらに村を発展させるとなれば、その分大量に資源と労力を使うことになります。

 それをタダであげる気満々なのです。

 無論相手も占領のために軍旗を作るだけの資源を消費しますが、それは新しい村を作るための普通の必要経費。しかもいい具合に育った村を引き継いで、そこからラクラク発展していけるのです。


「こまけぇこたぁイーンダヨ! 副村なんざくれてやるよ! って言っちゃったし」


 冗談かと思ったら本気だった。

 よくあることです。


「まぁ、とりあえず……ジョウトシティ? いってみますか」


 そういえばうちの村は資源Lvが全部10になったら廃村にする、とプレイヤーさんが吠えていましたが、先日この副村譲渡計画を思いついたとかでやっぱりしばらく無しで、ということらしいです。

 それに伴って、昨日、プレイヤーさんは夜遅くまでかけて村の名前を変えていました。

 私はまだそれを見ていません。

 今まで資源の平均Lvをとって「Lv○廃村」と表記されていたこの村の名前。

 これからはどういう名前になってるのか楽しみでもあり、マトモな名前になるかどうか不安でもあります。

 おそらく不安の方が当たってるに違いありませんが。

 私は村を出たついでに、振り返って村の入り口の看板を見ました。

 新しい名前は 「Lv10廃村?」 でした。

 ……

 はい、ちょっとここから怒りますよ~。


「なんですか!? ハテナつけただけじゃないですか!?」

「えっ、なんかまずかった?」

「せめてっ、せめて廃村はとりましょうよ! っていうか昨日あれだけ考えててコレ!? 他の候補は?!」

「えー、そのうち廃村とか、超廃村?とか、まだだけど廃村とか……」

「なんで全部廃村入ってるの!?」

「それがうちの特色かと思って」

「いろいろ酷い! 殴らせてください!」

「ん? 闘技場いってくる? ジョウトシティいかなくてもいいの?」


 くそう、プレイヤーじゃなかったら必殺のみこみこアッパーが炸裂しているところですよ!?

 私は頭を抱えて、溜息をつきました。

 なんでこんなプレイヤーさんなんでしょう。もっとマトモな人がよかったです、ホント。


 さて、そんなこんなでジョウトシティに到着しました。


「あれ? なんで人口がもう14人……あ、16人なんですか?」


 私が見ている前で、村の人口が増えました。建物のLvがひとつ上がるごとに人口は2人増えます。

 つまり、村のどこかで建物の建築が完了したということ。

 それにしても早い。


「ああ、昨日寝る前に少しやっといたのと、移動の時間の間にもちょっと建築命令だしておいたからね。もう資源は肉がLv2になって、倉庫もLv1、あと今建て終ったのは官邸……副村だと公邸か。Lv5になったみたいだね」


 いつのまに。気づきませんでした。


「じゃ、次は議会建築させるか」

「あれ? それじゃ首都のときと建築の順番が全然違くないですか?」


 そもそも最初は資源からスタートするものです。次が倉庫で、次が兵営? あ、先に司令塔か。


「お、気付いた? 理由は分かる?」

「なめないでいただきたい! こう見えても私は勇者、村のことについてはちゃんと勉強してます!」

「じゃぁここの方針を答えてみ。90%以上の正解出せたら首都村の名前から廃村を取り外してあげてもいい」

「なっ、いいんですか?! 本気で答えますよ!?」

「おまけにヒント、議会はLv3まで上げて次の建築物つくるよ」

「ふふふ、いいんですかホイホイヒントだしちゃって。私は容赦なく答えてしまいますよ!」


 私は頭をフル稼働させます。

 さっきのヒントは、プレイヤーさんの性格からしてヒッカケか本当か。うん、読めません。

 まぁ、仕方ないので信用することにしましょう。議会Lv3……

 私の勘では少なくともLv3の数字に意味は無いでしょう。肝心なのは、その低いレベル……ッ!


「確か、譲渡の約束してて…………その条件は200人くらいになったら、でしたよね?」


 そうだよ、とプレイヤーさんが頷きます。

 なるほど、すべては繋がりました。


「ははーん、プレイヤーさんも悪ですね。つまりこういうことですっ! 『安くて早く作れる建築物をチョイスしてしかも低レベルでじゃんじゃん建てまくり、人口をひたすら増やしてサッサと明け渡す』! どうですかっ!?」

「おしい! 大外れ! %でいうと2%だ、2%」


 えー、それって全然おしくないじゃないですか。


「正解は『議会Lv3で建築可能になる建築工房(効果:建物レベルに応じて建築時間を減らす。最大レベルで50%OFFになる)をソッコーで建てて、効果で建築時間を減らしてがっつり建築していく』でしたー」


 わー、おしい。大外れてましたー。


「わかるかぁ!? というか建築工房って、そんな効果があったんですね。私が知ってる効果って工兵からの施設破壊耐性UPだけでしたよ」

「いや、むしろそっち知らない人の方がおおいよ。でも……勉強してるのに分かんないだなんて……」


 プレイヤーさんが「ぷっ、くすくす」と笑っています。

 ううう……屈辱ですっ。

 しかもせっかくの村の名前をマトモにするチャンスを……くっ!


「まぁ資源Lvは後回しにして、どんどん倉庫のLvを上げてくよ」

「えっ。な、なんですかその方針? それじゃ資源が足りなくて……え、それってもしかして……」

「うん、首都から資源を輸送しまくってガッツリ消費するよ? お、来た来た。搬入こっちねー」


 ちょうど首都からの資源が届き、倉庫の限界ギリギリにまで詰め込まれました。


「……すごい、あふれてない」

「計・算・通・り! よし、さらに議会Lvあげろー」


 そして人口もいつの間にか18人。

 着実に発展しています。凄い勢いで。


「ちょ、ちょっと待ってください!? この村って、人にあげちゃう村なんですよね!?」

「え、そうだけど」

「なんでそんなに本格的に作るんですか?! しかも自分ちの資源を消費しまくりでっ」

「パネ子。……人にあげるからこそ、手抜きはできないんだよ……!」

「言ってることは正しいと思うけど、うちの村のことも真面目に考えてくださいっ!」

「いたって真面目だけど?」


 ああもう……頭が痛いです、どうにかしてください。



  *


「ということがありましてねー、ほんと。プレイヤーさんには困ったものです」

「まぁ。それは大変ね」


 私は闘技場に来ました。闘技場はモンスターと戦って経験値を稼ぐほか、主にこのストレスを発散する場でもあります。

 そして、お友達も一緒です。


「紅茶のおかわり、いる?」

「はいっ♪」


 種族は鬼人、勇者名は黒衣の呪術師。名前はシャーロット。

 ちぢめて「シャロさん」と呼んでます。

 お料理が得意で、いつもおいしいオヤツとお茶を用意してくれます。

 でも実は、私の村の近くにある廃村の勇者で、戦闘不能状態なのをいいことに勝手に出歩いているのです。

 いやまぁ、その。戦闘不能状態にしたのも勝手に出歩かせてるのも私なんですけどね。


「ふふ、パネちゃんの話っていつも面白くて好きよ」

「んー、私もシャロさんのクッキーやケーキ、大好きです」

「……もう一回言ってくれたら次はパネちゃんの好きなチョコチップクッキー作ってきてあげる」

「えっ、ホントですか? えへへ、シャロさんのクッキーやケーキ、大好きですよ~♪」

「ええ任せて。パネちゃんの為に絶対おいしいの作ってくるわね」


 そういってシャロさんは頬に手を当ててやわらかく微笑みます。最近よく笑うようになりました。笑顔が素敵で憧れちゃいます。

 お姉さんみたいな感じで落ち着いてるシャロさんがいるからこそ、私もプレイヤーさんの突拍子も無い行動に耐えられるといってもいいです。とくにシャロさんの作るオヤツはどれも絶品で、私を究極的に癒してくれます。


「期待してますっ! あ、そろそろ次の試合の時間ですね。……ふふ、次はラドンか。腕がなります」

「がんばって行ってらっしゃい、前はやられてたけど、今度はもう大丈夫よね?」

「はいっ! 新必殺技、みこみこキックをお見舞いしてあげますよ!」


 本当はシャイニングサマーソルトとか太陽脚とかカッコいい名前をつけたかったのですが、みこみこアッパーに続いてこちらもプレイヤーさんに「みこみこキック以外認めない」と言われてしまい……

 まぁ、その怒りをぶつける相手は闘技場のモンスターにしましょう。

 恨むならプレイヤーさんを恨んでくださいね、モンスターさん。



 *


 闘技場から帰ってくると、もう夜になっていました。


「よーし、今日はこのくらいにしておくか……ふう」

「あの、プレイヤーさんが真面目にしてると凄い違和感があるんですが……おつかれさまです?」

「え? ああ、ちょっとイラストロジックやってた」

「なんだ。いつも通りでしたね」


 ほっとしたような、イラっとしたような。


「ま、とりあえず1鯖とか覗いて今日は寝るよ。おやすみー」

「はい、おやすみなさいプレイヤーさん」


 プレイヤーさんはそういって別の世界……別のサーバーに行って、そのまま寝るようです。

 プレイヤーさんが帰ったところで、私も寝るとしましょう。

 というわけで、大体こんな感じで一日が過ぎていきます。

 さて皆さん、皆さんが寝る前に最後にやることは何ですか?

 明かりを消す、とか、まぶたを閉じる、とか、もうちょっと前。

 トイレに行っておくとか、日記を書くとか。皆さんいろいろあると思います。

 そして私の場合は、官邸の窓から村を眺める、ですね。


「……んー、酒場とかはまだ明かりついてますね。新村開拓の宴会でもしてるんでしょうか?」


 気がつけば、この村も結構発展していたりします。

 毎日気付かないうちにどこかの施設のレベルがこっそり上がってたり。

 プレイヤーさん、ほんと素直じゃないというか捻くれてる。

 なんだかんだいってもやっぱり、私はこの村が大好きです。プレイヤーさんのことも、嫌いですが嫌いじゃありません。

 ……まぁ、もっと真面目にやってほしいですけど。


 私はランプの明かりを消して、ベッドに入りました。

 また明日もプレイヤーさんに振り回されるんでしょうね。

 はぁ。まったく。

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