第20話 ジョウトシティでの出来事

「パネちゃーん」


 私がジョウトシティで村作りを眺めていると、シャロさんがやってきました。

 ……お、手に持ってるあのバスケット、あれはおそらく……お手製アップルパイと見た!


「ようこそですよーシャロさんっ」

「ふふ、来ちゃったわ。……へぇ、ここがジョウトシティ……?」

「あー、その、すみません。シティっていうほど発展してないですよね」

 まだまだ村といった感じです。

 ちなみにこの世界の定義的には人口100人で町、300人で街になるらしいです。そして兵士さんたちは人口に数えません。

「なるほど……人に譲るから譲渡シティ、か。プレイヤーさんの好きそうな名前ね」

「……ええ、なんていうかプレイヤーさんの思考を根本的に矯正できる儀式とかありません?」

「ないこともないわ」

「あはは、無理言ってすみません、あるわけな ……えっ、あるの?」


 私は思わずシャロさんに聞き返します。

 いや、あるなんて思わないじゃないですか、そんな都合のいい。


「ただ、私も本で読んだだけなんだけど……相手の頭にわっかをつけて、悪いことしたらそのわっかを締め付ける呪言を唱えて罰を与えるの。その本では、サルを実験体にしていたわね」

「へぇー。で、シャロさんはそれ使えるんですか?」

「……残念ながら使えないわ」


 ああ、そこまで都合よくはありませんでしたか。

 にしても、その話は使えるかもしれません。

 わっかじゃなくて、もっと他の罰でもいいんじゃないでしょうか?

 とりあえず何かすぐ思いつくわけでもないですが、用は罰であればいいわけで。

 プレイヤーさんに直接ダメージ与えるわけにはいきませんから、まぁそのうちいいものを思いついたらやってみましょうか。


「ところでパネちゃん、この村を案内してもらえるかしら?」

「あ、はい。任せてください」


 私は、シャロさんを連れて村を回り……いや、回ろうと思ったんですが、よく考えたら建物少ないです。


「えーっと、手前に見えるのが公邸、右手が倉庫、左手が建築工房、後ろにあるのが議会で、以上です」

「……これまた、コンパクトに纏めてあるわね」


 あとは高台から見て肉資源がLv2ってくらいで、ぶっちゃけ見所もありません。

 建築予定地も柵があるわけでもなく、平原が広がっています。


「交易所もないのね……」

「そうですねぇ、まぁ、人にあげる村だし不便でもいいんじゃないですか?」

「そういうものなのかしら……?」


 シャロさんは不思議そうな顔をしていました。

 と、村の入り口に誰か着たのか、呼び鈴が鳴ります。


「あら、誰か着たみたいね」

「ちょっと行ってきます」


 私が走って村の入り口まで行くと、そこにはこの村のすぐ隣にある街のプレイヤー、フェンさんがいました。

 特徴としては、美形です。男の人ですが、女の人みたいなほどに。長髪だし、うちのプレイヤーさんと違ってバリバリの課金プレイヤーで見るからに有能オーラがにじみ出ています。これが課金力というやつでしょう。

 そして人間の勇者『冷静なる策士』こと、サクさんがいつものようにフェンさんの隣に立っています。


「おおう、お二人してなんの御用でしょうか?」


 となりに村を開拓したのでその件で苦情、というわけではなさそうですが。

 プレイヤーさんは今いないですし、私が対応するとしましょう。


「いらっしゃいませー、何の御用でしょうか?」

「やぁ、偵察だよ。どうせ僕らに渡す村なんだし好きに見てもいいでしょ?」


 フェンさんが笑顔で言います。

 隣のサクさんは何か考え事をしているようで難しい顔をしています。

 そうそう、この村を引き渡す相手はこのフェンさんたちの所でしたっけ。

 そのためにすぐ隣に作ったんですよねー。


「えー、まぁ、その。いいですよ、見所は少ないですが。たぶん、見てがっかりすると思います」

「ふーん?」


 私はフェンさんとサクさんを公邸前へ案内し、4つしかない建築物を見せました。


「…………」


 さすがのフェンさんも、これには言葉を失ってしまったようです。

 少し頭を押さえてから、おもむろに言いました。


「サク、帰ろうか?」

「……うむ」


 あ、サクさん初喋りですね。

 っていうか、もう帰るんですか。無理もない。


「……そうだ、パネ子殿。これからしばらくの間ではあるが隣人になるな……よろしく頼む」


 といって、サクさんが握手を求めてきたので、私はそれに応えます。


「はいっ、こちらこそよろしくお願いします。……あ、そういえば開拓のゴタゴタで挨拶に行くのすっかり忘れてましたね。今度こっちから行きます」

「歓迎しよう」


 村の偵察が済んで、フェンさんたちは帰っていきました。

 ……うん。

 どうですか!プレイヤーさんいなくてもちゃんと対応できましたよ! さすが私です。

 とはいえ、気が抜けてしまいました。ふぅ。一休みしましょう。


「パネちゃん」

「あ、シャロさん。……わ、忘れてませんよ!? 気を抜いていただけですっ」

「私も握手するわ」


 シャロさんが手を差し出してきました。


「え? あ、はい」


 私はそれに応えて、シャロさんと握手します。


「…………」

「あ、あの。にぎにぎされるとくすぐったいです……」

「いやその、えっと。……うん、そうね、この手はしばらく洗わない……」


 シャロさんは満足げに微笑みます。


「や、お料理するときは洗ってくださいねー?」

「! しまった、それは盲点だったわね」


 私たちは握手をやめ、お茶にすることにしました。

 私はシャロさんお手製のアップルパイを食べつつ、尋ねます。


「でも、なんで急に握手を?」

「えっと、その、だって、あの男がパネちゃんと握手したから……?」


 ふむ。それでいて、手をしばらく洗わない……

 なるほどわかりました。そういうことですか。



  *


「えっ、シャロさんがサク君のこと好きだって?」

「はい! 間違いありません」


 私はシャロさんが帰った後、プレイヤーさんに話してしまいました。

 いや、人の恋路話って話さずにいられるものでしょうか、たとえそれが親友のシャロさんのことであっても……いや違います。逆です。だからこそ話すのです。話すことでチャンスが広がるから話すのです。


「というわけなので、なんとかしてあげたいんです」

「ふむ……だけどサク君は既にフェンさんとお似合いの恋人同士だろ?」

「いや、でもそれってやっぱりプレイヤーさんが勝手に言ってるだけじゃないですか。しかも男同士ですってば」

「ハハハ、そうだね。で、まぁ何するの?手伝ってあげようじゃないか」

「えっ、なにそれ協力的すぎて逆にこわいですよ。いや、まぁ、頼むつもりでしたが」


 珍しくプレイヤーさんが親切です。

 いつもならかったるそうに聞き流してるだろうところなのに。


「……面白そうだしね!」


 なるほど、そういうことですか。


「シャロさんの恋路なんですから真面目にやってくださいよ?」

「まぁ、まかせとけー」


 なんだろう。すごく不安です。

 でもせっかくプレイヤーさんが協力してくれるというので、私はそれ以上言わないことにしました。

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