第24話 モンスター襲来


 最近、シャロさんがこっそりサクさんの村に行っているのを見かけました。植木鉢を持っていってたので多分花関係のことでしょう。


「ううん、上手く行くといいですね」

「そーだねぇ」


 プレイヤーさんとのほほんとお茶を飲みながらシャロさんのことについて話しています。報酬というか、まぁ、先日「何か欲しいものがあったらサクさんちの雑貨屋使えばいい」という提案をくれたお礼?でもあります。

 ジョウトシティを好きに使っていいという許可もくれましたし、なんか最近すごく協力的です。プレイヤーさんがいい人に見えます。

 いや、実際いい人なんでしょうけど、そう思わせないところ多いじゃないですか。


「それにしても二人が上手くいったら私仲間外れになっちゃいますねー……それはちょっと寂しいですけど」

「あー、大丈夫大丈夫」


 プレイヤーさんがいい加減な態度で根拠無く慰めてくれます。

 投げやりすぎてあまり嬉しくはないです。


「それにしてもなんか平和ですね。いいことだと思いますがすこしつまらなかったりもします」

「じゃぁ1時間後にモンスターが攻めてくるけど」

「じゃぁってなんですか!?」

「むしろあと59分で来るよ」


 進軍状況を見ると、いつもの散策兵のほかに侵攻が確認できました。


「うわぁああ本当だ!? なんで!何で急に!?」

「いや、平和すぎてつまらないって言ったから」

「確かに言いましたけど!悪いとはいってないじゃないですか!」


 モンスター、ああ、思い出すのは闘技場、いえ、この場合は敵も複数軍隊でくるはずだから秘境でしょう。

 手強かったラミア、ハーピーの大軍、炎を吐き空を飛ぶドラゴン、木を引っこ抜いて振り回すひとつ目の巨人サイクロプス。その他も手強かった記憶ばかり。

 奴らが自ら攻め込んでくるというのでしょうか。

 想像するだけでもぞっとします。


「……お茶うめぇ!」

「どういう態度だそれはァ!?」


 ああもう、こうしてはいられません。早く防衛準備を整えなければ!

 まず何をすれば良いんでしょうか?

 私は外壁へむかいますが、うちの村には建築される予定のない外壁建設予定地があるだけです。

 うん、ここにいても無駄、仕方ない、兵営に行ってみましょう。

 兵営に行くと兵士たちが出撃準備を整えていました。


「おおっ、やる気ですね皆さん」


 流石は戦闘のエキスパートとして村にいるだけのことはありますね。


「がんばって防衛しましょう!」

「はっ! 勇者殿! 我々一同、これより散策に行って参ります!」


 兵士の一人が答えました。


「え?」


 散策? なんで?


「て、敵前逃亡ですかっ!? 普段何のためにご飯食べてるんですっ」

「でも先程プレイヤーさんがいけって。全員で」

「……」


 ああ、そういうことですか。プレイヤーさんの命令なら絶対ですもんね。

 って、うぉおい!


「何考えてるんですかー!?」

「さぁ? まぁその、頑張ってください!」


 びしっと敬礼して、兵士たちは散策に出てしまいました。

 全員。

 兵営には私がぽつんと一人だけ残されました。


「……えー……」


 何をどうすれば……

 いえ、そうです。この村にはまだ隠された余剰戦力がありました。


「秘境防衛軍……! あの人たちを呼び戻せばっ」


 以前秘境を占領したとき、数人を秘境の防衛にと兵力をさいたのです。

 私は指令塔へ向かいます。

 うちの指令塔はLv1とかでとてもしょぼいですが。


「お願いします、秘境防衛軍を呼び戻してください!」

「いや、ダメだよ。プレイヤーさんがさっき絶対に呼び戻すなよって」

「また先回りされました!?」

「まぁ、そもそもプレイヤー命令じゃないと呼び戻せないしー」


 ぐぬぬ、なんということでしょう。

 これではこの村がモンスターたちにメタメタにされてしまいます。

 プレイヤーさんは、なんでこんなジャマを……

 とかなんとか走り回って居る間に、時間も迫っていました。


「ど、どうしましょうっ!」

「あらどうしたの?」


 振り向くと、シャロさんが居ました。

 私はシャロさんに泣きながら抱きつきました。


「シャロさん……助けてくださいー!」

「えっ、何、どうしたの?」


 事情を説明しました。

 村に敵が迫っていること、プレイヤーさんが防衛する気がないこと。

 シャロさんはそれを聞いて言いました。


「まぁその……とりあえず、パネちゃんだけでも立ち向かってみるしかないわね」


 やっぱりそれしかない、ですか……

 まぁシャロさんは防衛もなにも、戦闘不能の非戦闘員ですから頼ること自体間違ってますが。


「わかりました……こうなったら私だけでも村を守ってみせます!」


 私は村の入り口でモンスターを待ちかまえます。

 いったいどれほどの強敵がくるかは分かりませんが、全力で、できるかぎり撃退するしかないでしょう。


「がんばってーパネちゃん」


 シャロさんも応援してくれています。

 そしてついに来ました。


「ゴブー」


 ゴブリンが先頭で突撃してきました


「いきますよっ! 覚悟しなさい、モンスターどもっ」

「ゴブブー」「ゴーブー」

「って、ゴブリン……のみ?」


 よく見ると敵はゴブリンだけでした。数もわりと少数。

 あれ?ドラゴンは?ハーピーは?サイクロプスは??


「ゴブー、ブゴブッ!?」


 私はとりあえず目の前のゴブリンを叩きのめしました。

 すると敵が明らかに怯むのが分かります。


「……」


 プレイヤーさんは知ってたんですね、敵の侵攻が大して強くないこと……最弱のモンスターゴブリンのみによる小隊であること。

 そして私一人で十分撃退できるということ。

 倒したゴブリンをつかみ、ジャイアントスイングでほかのゴブリンをなぎ倒していきます。


「だったら先に言えーーー!」


 対多数技、みこみこサイクロンの誕生した瞬間でした。



  *


「新クエストどうだった? いい経験になったろ」


 全部終わった後、プレイヤーさんがひょっこり出てきて言いました。

 私はすこし反撃を食らったものの、ほぼ無傷で撃退に成功しました。

 ……ほんと、先に言ってくれればふつうにいい経験だったでしょうよ。

 でもよく考えたら、つまり、信頼されていたんでしょうか私。

 そう考えたら悪い気もーー


「案外なんとかなるもんだなぁ、もし押さえられなかったときのために兵士全員避難させといたけど」

「……」


 ああ、なるほど。逆でしたか。


「プレイヤーさん、やっぱり一発殴らせてください」

「モンスターなら闘技場行って好きなだけ殴ってきて良いぞ。……ところでシャロさん来てなかった?」


 あ。

 見回すと、シャロさんはなぎ倒したゴブリンの下敷きになっていました。


「……私も兵士避難させて正解だったと思うわ。巻き添えくらうもの」

「す、すみませんー!」


 次からはもっと周囲に気をつけて戦おう、と思いました。




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