閑話:恋心


「それにしても……」


 パネちゃんのごまかす時のあの態度。

 ……可愛かったなぁ、本気であれでごまかせた!って思ってるのかしら。

 あれでは、完全に肯定しているも同然。というか、あれでごまかせるわけはない。


「そうか……あの男のこと、意識して絡んでるのね……」


 最近どうもサクに会うと思ったが、パネちゃんが仕組んでいたのか。

 どうしてかしら?

 思い当たる節が私にはまったくない。

 しかし考えたくはないが、ひとつ思いつくことがあった。

 パネちゃん、もしかしてあの男……サクが好き……とか?

 とりあえず、思い返してみる。


 まずは闘技場のこと。

 ……大好物のチョコケーキをあげようとしてたわね、しかも食べかけ。

 これは非常に疑わしい。食べることが大好きなパネちゃんが好きでもない男に好物をあげるか?


 次に料理対決をした時のこと。

 私だけじゃないどころか、先にあの男が居たわ。しかも結果は引き分け。

 これも非常に疑わしい。甘いものが好きなパネちゃんが、あんなパスタと私のデザートを引き分け?


 そして花を買ったときのこと。

 最初からあの男を頼りにしてた……わ。

 …………


 ああ。

 どうしてだろう、否定する要素が思い当たらない。


 思い出していって 一番初めに違和感を感じたのは、私が我慢できずにパネちゃんに握手した時だ。

 あの鈍いパネちゃんが、私に聞いた。「なんで握手したの?」って。

 これはもしかして、牽制だったのだろうか。

 好きな人をとられるかも、という、本能レベルで反応したのかもしれない。


「……どうしよう」


 迂闊だった。

 あの男、サクは、自分のプレイヤーであるフェンに恋している。

 しかしそんなこと、サクに恋しない理由にはならない。

 パネちゃんがサクのことが好きだとして、私はどうすればいいの?

 私には、パネちゃんしか居ないのに。

 パネちゃんだけが、私の全てなのに。

 それとも、私のこの気持ちを押し潰して、二人がうまく行くように願うべきだろうか?

 パネちゃんが幸せになれば、それでいい……と、思えるほど私は聖人ではない。

 私のこの想いは、人に譲れるような軽い気持ちじゃない。

 ……

 パネちゃんは可愛い。サクがプレイヤーのフェンが好きだといっても、パネちゃんの可愛さでころりと乗り換えてしまうとも限らない。

 困った。どうすればいいのだろう。

 そうならないためには?

 私は、頭を働かせる。

 そして、ひとつ良い手を思いついた。


「サクをフェンとくっつけさせればいいのよ、完全に! 揺ぎ無い程に!」


 そしてその様をパネちゃんに見せ付ければ、おとなしく諦めるかもしれない。

 もし諦めなくても、パネちゃんがサクとくっつくことは無くなる。

 失恋状態のパネちゃんを、あわよくば私が慰めるとかいうことになるかもしれない。


「『男なんて……やっぱり、女には女ですよね、シャロさん!』……なんてことになったら……最高よね」


 流石にそこまで上手くはいかないだろうが、名案には違いない。

 しかし、この策を実行するにはパネちゃんに秘密にする必要がある。

 私がパネちゃんの恋路を邪魔したと知られては、そこで嫌われてしまうからだ。

 だから、パネちゃんには絶対に秘密にしなければ。

 こっそりサクとコンタクトを取る必要もある。

 そうだ花がある。花のことを聞きに行けば、不自然じゃない。

 パネちゃんに買ってもらった花のことを利用するのは少し気がひけるが、それどころではない。


「ごめんね、パネちゃん」


 鉢植えの中の球根に向かって謝る。

 こっちのパネちゃんは、土の中で黙ったままだった。

 



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