第23話 花
「花を植えようと思うの」
シャロさんから相談を持ちかけられました。
「というわけで花の種が欲しいのよ。……できればパネちゃんみたいな元気な花がいいわね」
といっても、私。花とかぜんぜん詳しくありません。
せいぜいあれです、ヒマワリとタンポポくらいしか知りません。
「……な、なんていうか、その。パネちゃんらしいわね」
「あ、そ、それとこの頭飾りの花とかっ」
「バラっていうのよ、それ」
「知ってますっ、名前をど忘れしてただけで!」
シャロさんが可愛いものを見る目で私を見つめます。
うう、本当ですっ、知ってたんですっ!
「……その、巫女なので、私、歌とか踊りとかは得意なんですが」
「花とか貰ったことないの?」
「……ないです」
酒場で歌ったり踊ったりするとおひねりとかお菓子はたまに貰うんですけど。
「うー、ここはそうですねぇ、サクさんにでも聞いてみますか……」
「なんか最近あいつ絡むこと多い気がするんだけど」
「気のせいです! 決して意図してません!」
「……へぇ」
よし、誤魔化しました。
危ない危ない、あやうくバレるところでした。
「まぁ今回はサクさんちにある雑貨屋で種を買うことになると思うんです。おひねりに貰ったへそくりのエレメントで奢っちゃいますよ」
「あら、そのくらい奢られなくても……ぁ、うん、この間からオヤツにチョコレート系連発してたからもうあまり残ってなかったわ……」
美味しいけど結構高いのよね、チョコレート。と、シャロさんは呟きました。
うん、そしてその美味しいおやつの大半は私の中に……となれば、もう奢りますというか、奢らせてくださいってところでしょう。
「甘えさせて貰ってもいいかしら」
「はいっ!」
たまには私も甘えられたいですし、ね。
で、早速サクさんの村へやってきました。
「ふむ。花の種か……雑貨屋に置いてあったな。とはいえ、あまり種類は多くない。鉢植えなどもあるが……時に、シャロ殿の村はどのような気候だ?」
「えっ、村って、村ごとに気候が違うんですか?」
私は花の話をしていながらそんなことを聞き返しました。
「ああ、プレイヤーの気分次第で晴れたり雨が降り続けたり、常夏や、一年中雪が積もっていたりということもできるらしい。なにもしていなければ年中温厚な気候だな」
知りませんでした。そんなこともできるんですねぇ。
「あと野菜の種も売っている。菜園などをやってみてはどうだ? 自分の作った野菜で作る料理というのも、また良いものだと思うが」
「それ、チョコレートの種はあるの?」
シャロさんが聞きました。
なるほど、確かにチョコレートが自分の村で作れれば食べ放題です。
「……カカオのことか? 残念だが無いだろう。それにアレは熱帯の植物だ、気候的に無理がある」
「残念。……ところで、詳しいわね」
「策士だからな、これくらいは知っている」
サクさんに連れられて、私たちは雑貨屋に行きました。
ちなみに買い物は、基本的には物々交換です。
ですがそれだけでは店側が欲しいものでない場合は困るだけ。
そこで、保存の利くエレメントを通貨として扱う決まりがあったりなかったり……村ごとに違ったりもしますが、このあたりでは大抵はエレメントで買い物ができます。
「いらっしゃいませー」
「花の種ありますか? 温厚な気候で育つ元気なやつがほしいんですけど」
「この子みたいな花をください」
シャロさんが私の肩をもちつつ言いました。
店員さんはふむふむと私を見て言います。
「球根ですけど、チューリップなんてどうですか? えーっと、鉢植えもありますよ。こんな花です」
店員さんが持ってきたピンクの花は、まるで私の着ている服のような感じがしました。あ、もしかしたらこの服ってその花をイメージしてたりするんでしょうか?
「店員さん。これ店にあるだけ全部ください」
「まいどありー、って全部だと……この額ですが」
予算の300倍以上の数値でした。
「ちょ、ま、まってください。この予算で買えるだけで」
慌てて予算を告げます。すると、店員さんは首をかしげました。
「それだと鉢植え一つってとこですね」
なんということでしょう。
「……あ、あれ。結構高いんですね」
「花ってそんなものですよ」
うう、私のお小遣いが少ないんでしょうか?
と、ここでサクさんが助け船を出してくれました。
「まて、種なら安いぞ。球根にすればほかの花の種も買えるだろう、いいのを見つくろってやってくれ」
「そうですねぇ、球根ひとつとー……じゃぁコレとコレと、おまけにコレもつけましょう。肥料もつけて、このお値段! いかがでしょうお客さん!」
見事予算内でした。
「そんなにいいんですか?」
「一応儲けは出てます」
っていうか、鉢植えが高すぎるんでしょうか。
「よその勇者2人組だからよほど裕福だと思われたんだろう、まったく。趣味で仕入れてハケの悪い高い商品を売りつけようとするな」
「へぇ、すいません。でもそれが商売ってもんですから」
サクさんがいてくれて助かりました。さすが策士。
これはシャロさんの中でも好感度跳ね上がっていることでしょう。
「ともかく、買えるみたいですよシャロさんっ♪」
「……この球根を育てればパネちゃんが咲くのね?」
いえ、私は咲かないと思いますが。
「育て方のメモもつけときますねー。ひとつだけだし、鉢植えにした方がいいですよ、持ち運びできると楽しいし、見た目的にもオススメです。植木鉢もオマケしときますね」
まぁ、わからないことあったらいつでも聞きにきてください、と店員さんは言いました。
案外いい人なのかもしれません。
「当然だな。これだけ儲けていれば」
「わーっ、それいっちゃだめー!」
あ、やっぱもうちょっと値引きしてもらいましょう。
花壇の作り方とかも教えてもらい、ついでにちょっと値引きもしてもらいました。さらに植木鉢に土と球根もセットしてもらいました。
「えへへ、よかったですねー♪」
「そうね。……パネちゃん、しっかり育ててあげるからね」
シャロさんは植木鉢に向かって話しかけました。
花は、話しかけてあげるといいらしいです。
「だから私は咲きませんって。……それにしても、なんで急に花を?」
「前から思ってたのよ。花があったら
シャロさんは植木鉢を抱えて言いました。
……って、もしかしてその球根の名前パネちゃんで決定ですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます