第27話 サブ勇者
なにやら、プレイヤーさんがまた妙な手紙を見ていました。
「なんですか? それ」
「ん? ああ、これね。新機能実装に伴った新クエストだよ。サブ勇者とかいうので、勇者の補助をしてくれる勇者が仲間になるらしい」
見ると、人探しクエストのようでした。
変な博士が妙な兵器をつくったので、探しにきて見つけてくれたら兵器をあげちゃうぞ、という内容です。
「ヒントは人の住みやすそうな場所……平地ですかね?」
「だと思うよ。というわけでちょっとこの座標行ってきてくれ」
私はプレイヤーさんから座標のメモを受け取ります。
距離はそう遠くなさそうです。日帰りで帰ってこれますね。
「人探しなら人手が多いほうがいいですね。シャロさんをつれてっちゃいましょう」
今日は議会にハンカチを受け取りに行く予定なので、待ち合わせをしているのです。
プレイヤーさんに呼ばれて行ったぶん、少し時間に遅れてしまっています。
待ち合わせ場所に行くと、すでにシャロさんは居ました。
「お待たせしましたー。すいません、ちょっとプレイヤーさんに呼ばれちゃって」
「ううん、私も今来たところよ。ぜんぜん待ってないわ」
そういうシャロさんは、どこか元気がありませんでした。
「……やっぱり待たせちゃってましたか?」
「ちがうの、なんでもないわ。さ、議会に行きましょう?」
シャロさんはどこか寂しげに微笑みました。
「はい出来てますとも、ささ、こちらが勇者さんの分。こちらが鬼人のお嬢さんの分で、赤いほうがPですよ」
議会へ行くと、議会長さんがハンカチを渡してくれました。
ちゃんと個別にプレゼント包装されているあたり、なるほど、分かってますね。
議会長さんは忙しいのかささっと戻っていってしまいました。
「えっと、パネちゃん。これ、約束のハンカチだけど……う、受け取ってくれるかしら?」
「もちろんです、大事に使わせてもらいますね♪」
私はシャロさんからハンカチを受け取ります。
そして、私もさっき受け取ったばかりの包みを差し出します。
「で、こっちはシャロさんのですよ♪ どうぞっ」
「えっ?!」
シャロさんはキョトンとした顔をして、差し出した包みと私の顔を交互に見ました。
「……わ、私にくれるの? それ」
「はいっ、もうシャロさんのイニシャル入れちゃってあるので遠慮なく受け取ってください!」
「あ、そっか、Sって私の……! ありがとう、とっても嬉しいわ」
シャロさんは笑顔で包みを受け取ってくれました。
「ふふ、家宝にしようかしら、これ」
すっかり元気になったようです。
やっぱりこの刺繍のハンカチ、だいぶ気に入ってたみたいですね。
「そこまで喜ばれちゃうとプレゼントしがいがありますね」
「あ、でもそうなるとこれ余っちゃうわね。……どうしましょう?」
シャロさんが最初に貰っていた包みを見て言いました。
「え? それ、サクさんにあげるんじゃないんですか?」
「……え?」
あれ? 違いましたか??
どうやら違ったみたいで、自分用だったみたいです。言われてみればどっちもSです。
まあ、それならそれで予備にでも使ってもらいましょう。
……ううん、サクさんにプレゼントとかするいいキッカケだと思ったんですけど、
思っていたよりオクテみたいですね、シャロさんって。
私たちはそのまま散策に出ました。
「それにしてもまた旅行かと思ったらそうじゃないのね」
「今回は片道4,5時間でいいらしいですよ?」
「残念。またパネちゃんとお泊りできると思ったのに」
私たちは道中そんなことを話しながら、のんびりと目的の座標へ向かいます。
話をしながらで、思っていたよりもすぐについてしまいました。
「何も無いところねぇ」
「ハズレだったんでしょうか?」
見渡す限り原っぱです。建物もありません。
「まぁ、それならそれで。お茶にしましょう」
シャロさんがシートを広げてお茶の準備をします。
手馴れたもので、あっという間にリラックススペースが出来上がりました。
「今日のおやつはチョコクランチよ」
「最近チョコが多いですね。美味しいんですが、お財布は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。タダでもらったものだから」
シャロさんはくすりと微笑みました。
誰から貰ったんでしょう? プレイヤーさんかな。
私はシャロさんが入れてくれたお茶を飲みながら、チョコクランチのサクサクとした触感を楽しみます。
「あぁ……もー、なんていうか、シャロさんってオヤツ作りの名人ですね」
「そ、そんな大したものじゃないのよ? これもビスケット焼いて、砕いてチョコと混ぜて固めただけだし」
「私が男の人だったら絶対ほっときませんよー」
ごくん、と飲み込んで、私はシャロさんに聞きます。
「シャロさんって好きな人いますか?」
「ふきゅ!?」
あ、むせてます。紅茶飲んでるときに言うべきじゃなかったですかね。
「けほ、な、なぁに突然?」
「いやー、その。やっぱり気になるというか、ですねぇ? ほら、ここには今私しか居ないわけですし聞くなら今がチャンスかなーって思って」
サクさんが好き、ということをシャロさんの口から確認したら、後はもうおおっぴらに後押しできるわけですし。
シャロさんオクテだし、影から応援するより直に応援する方がいいですよね?
「あの、えっ、そ、それってどういう意味かしら?!」
顔を赤くし、分かりやすいまでに動揺しています。
恋する乙女ってやっぱり可愛いなぁ、と微笑ましく思っちゃいますね。
「や、その……そりゃ私だって年頃だし、好きな人くらい、いる、わよ……?」
今度はモジモジと呟くように言います。
「居るんですね、誰なんですか?」
「……し、知りたいの?」
「予想はついてますが、一応♪」
「!?」
シャロさんが驚いて真っ赤になりました。
あわあわと慌て戸惑い照れて、いつものお姉さんみたいな感じではなく妹みたく感じます。
「えっ、あ、あの、そ、その………………ほんとに?」
「隠しているつもりでしたか? ふふふ、こーみえて、勘は鋭いんですよ私」
「~~~ッ!?」
シャロさんが口をぱくぱくとさせています。
おそらく本人としては隠しおおせているつもりだったのでしょう。ですが、私には通じなかったのです。
「でも、シャロさんの口から言ってほしいです♪」
「そ、そ、わた、え? あ、その……えっと……」
「どうぞ♪」
「え、い、言わなきゃだめ、かしら?」
「だめです」
ずいっと、呟いても聞き漏らさないように近づきます。
「わ、わかったわ……い、一度しか言わないから、ね?」
「はい!」
私はさらにずずいっと近寄ります。
シャロさんは、顔を赤くしたまま、それでも私をしっかりと見て言います。
「わ、……私の好きな人、は……」
「よくぞワシを、居場所を探し当てた! お前さんにならこいつを託してもよさそうじゃな!」
突然地面に擬態した丸いふたが開いて、謎の博士が飛び出してきました。
「え、あれ?」
「……あ、ええっと……その?」
戸惑う私たちをよそに、博士はロボットを組み立てていました。
ずんぐりむっくりとした鉄の体に、猫みたいな耳がついています。
「こいつはアルファという。ささ、マスター登録するといい」
「あ、はい」
私はせかされるようにアルファのマスター登録をしました。
「ピピッ ますたー ヲ 確認 シマシタ」
機械的というのでしょうか、ボヤけた、二重に聞こえる声でアルファは言いました。
「ようし、これでお主がマスターじゃ! つれて帰るといい。ではサラバじゃ!」
そう言って博士は地面の穴に戻っていきました。フタも閉じます。
フタはきれいに地面と一体になっており、知らなければそこに穴があったなど思えないほど。
「……で、えーっと。これ、目的達成なのかしら?」
「そ、そうみたいですねー」
残されたアルファが、ピーガガっと心なしか嬉しそうな音を出していました。
帰り道。アルファは私たちの後ろをガションガションとついてきます。
「ところでシャロさんの好きな人、まだ聞いてないんですけど」
「い、言えって言うの?! そのロボットも聞いてるじゃないのっ」
うーん、結局聞きそびれてしまいました。
でも、しっかり好きな人は居るってことは確認できましたし、今回はこれで良しとしましょう♪
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