閑話:フェンへの手紙2


 ちょっとサクのツラかせ。闘技場な。

 新クエの都合もあるし、近場ですませる方が良いだろ?

 いつでもいいぜ、かかって来な。


                by Lv10廃村?・プレイヤーさん』


 今回の手紙はやけにあっさりしていた。用件も比較的分かりやすい。

 そのくせ挑発に満ちている。


「……つまり、『新クエスト出たから一回やろう』ってことか?」

「フェン、俺はてっきり『舐められてる、くそっ』と怒るかと思ったんだが」

「いや、もうそれは分かりきってる。それに、怒らされると手のひらで踊らされる」


 冷静な判断だ。素晴らしい。とサクは思った。


「で、どうする?」

「……確かに、現状公式で発表だけされて実装が遅延してるクエストがいつくるか分からない以上、既に出てるクエストは早めに済ませておきたい。それに、この間の闘技場が4勝だったから確かにありがたい」


 今出ている新クエストは、闘技場で10勝すると経験値の実(未熟)が貰えるという代物らしい。

 それ自体はたいしたこと無いのだが、その先に発展する可能性がある以上一度はクリアしておくべきだった。

 尚、もう一つのクエストは不具合が出たとかで現在扱えないことになっていた。

 無論このクエストが可能になり次第やるつもりなので、早めにあと6勝を達成しておきたい。……それが今の状況だった。

 が、通常闘技場では1回5試合だ。これではあと2回闘技場に行かねばならない。1回闘技場に行くと、試合の都合上11時間の滞在時間が必要となる。……なるべく行きたくないところだが、なんと勇者同士で戦えば追加で試合数が増える。

 つまり、あと1回闘技場に行くだけで済むのだ。


「すまない、俺が負けたせいで」


 この申し出は、確かにありがたい。ありがたかった。

 ありがたすぎて、まるでこちらが4勝だったのを見透かされているような。寒気すら覚える。


「……いいさ。それじゃ、行ってきてくれる? たぶん前に使ってたところだ」

「ああ、行ってくる」


 ふと、部屋を出る際にゴミ箱に気がついた。そこには折れたペンが入っていた。

 きっと、この手紙を受け取った際にそのペンに怒りを発散したのだろう。

 そしてそれにより冷静さを取り戻し、部下には動揺を見せないように振舞う。

 

 やはりフェンはプレイヤーとして尊敬せざるを得ないな、とサクは思った。



  *


「プレイヤーさん、ちょっとお話が」

「ん?なんだい?」

「馬鹿ー! 戦争でもする気ですかー!? 馬鹿ー! うわぁぁぁん!?」

「えっ、何、なんで急に泣くの?」

「これです! 手紙です!」


 パネ子は履歴から引っ張り出した手紙を見せた。


「ああ、フェンっちへの」


 何その愛称。かわいい。じゃなくて、


「この喧嘩売ってるしかない手紙はなんですか!? 呼び捨てって!ツラかせって!かかってこいって!」

「いやー、ちょっと不良系のマンガ読んでたらさー、テヘ♪」

「テヘ♪ っじゃないです! フェンさんの大湖畔より広い心に感謝してください!


 これ場合によっては宣戦布告じゃないですか!」


「いーじゃん、要望どおり、さっくんと会えたんだろ?」

「会えましたけどー! うわーん、ツラかせ! 官邸裏な!」


 相変わらず村は平和である。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る