閑話:協定


 シャロはこっそりとサクの村に来ていた。

 一応カモフラージュに植木鉢を持って。


「サク、少し良いかしら?」

「シャロ殿か。何だ? 花の相談か?」

「……あなたとフェンの仲を取り持ってやろうと思ってね」

「な、なんのことだ」


 サクがとぼけるように言うが、ぜんぜん誤魔化せていない。


「あなたたちが仲良い方が私にとって都合がいいの。……フェンのことが好きなのよね? 違う?」

「! ……いや、それは、その、確かにそうだが……どうしろというんだ?」

「つき合ってるの?」

「いや……俺自身、以前シャロ殿にいわれて初めてこの気持ちを自覚した程だ、そんなことは考えたことも……そもそも、フェンが俺のことをどう思っているか……」

「私が手伝ってあげても良いわよ、あなたがフェンとつき合えるように」

「なん……だと……!? そんなことが可能なのか!?」

「ええ、可能よ。私の言うことを聞いてくれればね」


 シャロはにっこりと微笑んだ。


「……時にシャロ殿はパネ子殿のことが好きで相違ないか?」

「当然よ。誰にもあげないわ」

「礼と言っては何だが、俺はそれに協力しよう」

「ふうん? 何をしてくれるって言うの?」

「……チョコレートの定期提供などどうだ?」


 こうしてシャロサク同盟が誕生した。



  *


「とりあえず、まずはアプローチしてみなさい。そっと抱きついたり、もたれ掛かったり、脱いでみたり」


 早速そうアドバイスをもらったので、サクは早速試してみることにした。

 官邸で仕事をしているフェンのところへ行ってみる。

 フェンは、真面目に仕事をしているようだった。後ろに回りこみ、抱きつこうとする。


「……」


 が、いざとなるとこう、フェンに触れるのにためらいすら生じてしまう。


(俺の一方的な感情でこんなことをして良いのだろうか……?)


 うーむ、と考えていると、フェンが振り向いて言った。


「サク、最近闘技場ばっかり行かせて会える時間減ってるよね」

「! あ、ああ。そうだな」

「今、あといくつでLv上がる?」

「あと……うむ、8000といったところか」


 順調に育っている。

 それもこれも、フェンの指令の賜物だ。


「……そっか、まぁ、それなら少しくらいは闘技場休んでもいい頃合だね。また秘境取ってもらおうかな」


 秘境か、それはいいな。とサクは思った。

 秘境に行って、やられて、復活するまでの間はフェンと一緒にいられるからだ。


「わかった、どこに行けばいい?」

「……いつも悪いね。ここのとこだけど」


 フェンのためなら、秘境だろうが魔物の巣窟だろうが、喜んで行ってやる。

 たとえ俺が勇者でなかったとしても。と、サクは思った。



「というわけでな、失敗したがしばらくフェンと一緒にいられる時間が増える」

「ふぅん、良かったわね」


 サクは早速そのことをシャロに話していた。場所はもちろん雑貨屋だ。


「……そっちはどうだ?」

「ゴブリンのジャイアントスイングに巻き込まれて倒されたわ。……まぁ、一緒にいる時間はそっちよりも圧倒的に長いんだけどね、私」

「ふむ、うらやましいことだな」


 ここであれば誰からも怪しまれることもない。店員は何か買えば黙ってくれる。

 基本的にはチョコレートを買い、それがそのままシャロに渡ることになる。サクの案だ。


「……ところで水は日中にやらないほうがいいぞ。今はまだいいが、葉が痛むらしい。何故かはしらないが」

「ああ、それはプレイヤーさんから聞いたことがあるわ。水の魔素が葉にそそぐ光で歪み、植物にとって毒になるかららしいわよ」

「なんと……! 魔術の類であったか……」


 地味に花の話もする二人であった。


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