第25話 国家勧誘


 その日、プレイヤーさん宛てに手紙が2通来ていました。


「……?」


 知り合いからの手紙でしょうか? 私はその手紙をプレイヤーさんに届けます。


「ん?手紙か。んー、知らない人からだなぁ」


 どうやらプレイヤーさんも心当たりがないようです。名前を見て首を傾げています。プレイヤーさんは早速その中身を読みました。


「……ほほう。パネ子、国家勧誘だコレ、2通とも」

「こ、国家勧誘ですか!?」


 なんと、ついにうちの国にも国家の勧誘がきました。

 廃村にする、と最初に言われたときから一生縁がないと思っていた国家。

 ほかのプレイヤーと交流し、協力しあうという国家。

 国家バリアとかいうものもあるらしいですね。実際にそういうシステムというわけではなく、集団になることで襲われにくくなるとか。


「さて、こいつは少し考えないとな」

「そうですね、慎重に決めないと!」

「それじゃぁ手紙書くから、まぁ適当に闘技場でもいっててよ」

「あいさー! 了解ですプレイヤーさんっ!」


 ああ、なんという光景でしょう。

 プレイヤーさんがマジメです!いつになく真剣です!

 おそらく今後は国家に所属し、そして協力プレイで世界を守るのです!

 そうなればもう廃村プレイ目指すなんてしなくてもいいんです、私の心労もぐんと減ることでしょう!



「というわけなんですよ、どう思いますかお二方っ!」


 えへん、と私はサクさんとシャロさん相手に事を話してみました。

 あ、ちなみに闘技場はちゃんと済ませて、今帰りに寄り道です。結構遠回りですが。


「それで今日はなんか嬉しそうでみこみこアッパーにキレが無かったのね」

「国家か……うむ、うちの村も所属している。結構上位でな、同規模の村々と切磋琢磨もできて中々……」


 ふむ、サクさんちも国家所属してるんですねぇ。


「国家所属したら、協定結んじゃいましょう協定! 不可侵条約でもいいですよっ」

「……それは我々の一存ではできないな。国家というものは、さまざまなしがらみが存在してくることもある」


 サクさんはやや俯きながら言いました。


「まず、自分以外の村が仲間になることにより、頼る分にはいいが、頼られることがある。うちの村は特に上位のほうだから戦力として期待されているな。……いざとなれば、この期待に応えなければならないだろう」


 ふむぅ、そんなこと考えたこともありませんでした。


「みんなでわいわい楽しくやるだけじゃないんですねぇ」

「もちろんそういう国家もあるだろうが、大きいところは特にピンキリだな。人口の少ない所が追放され、餌場にされるという話もある」


 なんと、それは恐ろしいですね。


「特に戦争はあまり好ましくないな。潰し合いになって両国家全員共倒れ、というケースもある。辛く勝っても横から第三国がまとめて掻っ攫うということもあるしな……何が起きても気が抜けない、それが国家だ」


 サクさんは溜息をつきました。

 やはり相当苦労しているのでしょうか?


「ねぇパネちゃん。勧誘された国家ってどんなところなの?」


 シャロさんが私に尋ねます。


「そうですねぇ、そいえば見てませんでした。どういうところなんでしょう? えーっと」


 私は2通の手紙を取り出します。あ、これはコピーですよ、プレイヤーさんから貰ったんです。

 ひとつ目の国家は、どうやら規模の小さいところのようです。


「こっちは勧められないな。非常にまずい」

「そうね、パネちゃんのとこより人口少ないところしかないわね。これは……泥舟臭がプンプンするわ」


 うぅん。私もそう思います。

 もうひとつの国家を見てみましょう。


「……こ、この国家は……」

「いわゆる胸部の脂肪をさした言葉が国家名なのね」

「つまり……って、なんですか!? お、お、『おっぱい』!?」


 まさしくダイレクトにその名前でした。飾りも何もありません。


「あら、はしたないわよパネちゃん」

「何ですかこの名前っ」

「いや、しかしまて、この国家……中々の規模だぞ?」


 確かにメンバーは50人を超えています。しかもメンバーも人口が中々多い人がちらほら居ます。

 しかし、あきらかにこの国家名はふざけているとしか思えません……!


「この国家には……プレイヤーさんみたいな人が集まってる感じがプンプンします」


 きっとこんな国家に入った日には、私の心労がストレスでマッハでしょう。


「あら、ということはこっちの国家のほうがプレイヤーさんに合うんじゃない? 規模もいい感じだし」

「ほう……パネ子殿は、お……すまん、言うのは恥ずかしいな。この国の所属になるのか……」

「ぜ、絶対阻止してきます! サクさん、お邪魔しましたっ」


 私は急いで村に帰りました。



 村に帰ると、プレイヤーさんが手紙を出し終えたところでした。


「お……遅かったか……」


 プレイヤーさんが返事を出したということは、すでに所属を決めたということでしょう。


「おかえりパネ子ー」

「お……おっぱいですか?!」


 私は国名を聞きました。


「ああ。確かにおっぱいはいい。貧乳巨乳普通超乳微乳無乳、すべからく平等に愛がある……!」

「や、やっぱりおっぱいなんですね……」

「だけどなパネ子。お前を選んだのは別におっぱいじゃなくて聖女にあやかってであってな」

「いえ! もういいです。私はもう何も言いません。国家所属、いいじゃないですか。いっそ名前には目をつぶりましょう。……わ、私も今後恥ずかしがらないでお、おっぱい、って言えるようにしますから……! 国家名だから恥ずかしくないもん!」

「? ああ、なんだ国家所属の件? それなら二つとも断ったよ?」


 あれ?


「え、じゃぁ、その。何を考えてたんでしょう、そんなに」

「そりゃ、このすばらしい国家にどういうお断りの返事をすれば失礼じゃないか……ってね! あ、ちなみに小さいほうのは適当に断った」


 つまり、プレイヤーさんは最初から国家所属する気はなかったようです。

 ……ほっとしたような、なんか腹立たしいような。

 あ、でも将来的にも国家所属はやっぱり無しなんですね……


「っていうかすばらしい国家扱いですか……ちなみになんて返事したんですか?」

「国家プレイはメイン鯖だけでおっぱいおっぱいなので、申し訳ありませんがお断りさせていただきます」

「……うわぁ、それは……その、なんでしょう?」


 普段なら喧嘩売ってるとしか思えないのですが、今回ばかりはなんかしっくりきてしまう気がしました。

 うん、今日は言及しないことにしましょう。


「ところでパネ子、「いっぱい」の「い」の字を「お」に換えたら何になるかな?」

「おっぱい……って何言わせるんですかプレイヤーさん!?」


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