第2話 発展


「よーし、これで全部の資源がLv2になったな」


 プレイヤーさんは満足げに報告書を見ていました。

 しかし、私は気が気じゃありません。


「ん? どうかした?」

「あ、あの……全資源Lv2になったってことは、これで初期クエスト終了、ですよね? ってことは、廃村にするならこのタイミングが丁度いいのかもしれないなぁ……って思っちゃって」


 そうです。このプレイヤーさんは最初の日にいきなり廃村宣言をしたプレイヤーさん。

 キリのいいところで切り上げて、やっぱ今廃村にするとか言いかねないのです。


「なんで? 今資源がいっぱいもらえたところでしょ。それじゃ次は綿のLvUPねー」


 どうやら、杞憂だったみたいです。

 人口も30人近くなっています。もう立派な村、でしょうか。

 もしかしたらプレイヤーさん、この村を廃村にする気もなくなってるかも?


「というわけでこの村の名前は現在Lv2廃村になりましたー、ぱちぱちー」

「!?」


 気がついたら村の名前が本当に『Lv2廃村』になっていました。

 ダッシュで村の入り口のところにある看板を確認しにいったらしっかり『ようこそ!Lv2廃村へ!』と。

 しかも『2』の部分はパネルで取り替えられるようになっている仕様でした。


「な、なんでこんなことするんですかぁ!?」

「いやぁ、だって現在資源レベルの平均が何レベルかわかったほうが親切でしょ? 情報開示ってやつだよ」

「村の内部情報はフツー極秘事項ですっ! 特に資源Lvはたとえ偵察兵が来ても死守する情報ですよ!?」


 しかし、プレイヤーさんはあっさりといいました。


「いいじゃん、そのうち廃村にするわけだし」

「~~ッ!!」


 私はもう、なんて言ったらいいかわからなくなりました。

 プレイヤーさんは、真面目にこの村を発展させていく気がないのです。

 所詮本命1鯖での息抜き程度としかみていないんです。

 いえ、息抜きならそれでもいいんです。ただ、せめてもっと真面目にやってほしいんです。

 私はふてくされて、ぷいっとそっぽを向きました。


「……」

「……」


 私が怒っているのが伝わったのか、プレイヤーさんも黙ってしまいました。


 少しやりすぎたでしょうか? いえ、このくらいでいいはずです。むしろもっとやるべきだと思います。

 そうしてしばらく黙っていると、プレイヤーさんが沈黙を破りました。


「ねぇ、パネェ」

「……」

「おーい」

「…………なんですか」


 二度話しかけられて、ようやく返事ができました。


「気づいてる? あっちに2つくらい先に村があるよね」

「え?……新しい村、ですね」


 名前からして『新しい村』という名前の新しい村。そして人口は4人。


「あっちのほうには散策に行ってないから今気がつきましたが、ご近所さんですね。挨拶してきましょうか」

「必要ないと思うよ。だってあの村、この村ができたときにあったけど人口変わってないもん」


 !!


 私たちが村作りを始めたのは三日前。つまり、あの村はできてから三日間、放置されている。

 すなわち、それは――


「よく見ておくといい。あれ、たぶん初期廃村だよ」


 初期廃村。


 とりあえずアカウントだけはつくっとこう、という、軽い……ほんとうに軽い気持ちで作られた村。


「たぶん、鬼人のジト目勇者や、エルフのおっぱいさんがどんなもんか見てみたいなー、とかそのぐらいで、作っただけで満足した村なんだろうね」

「そんな……! 私たちは、みんな、世界のためにここの世界にいるんですよ!? なのに、そんな……」


 無課金でお金も使ってないし、時間もかけない。

 だから捨てることにも抵抗がない。


「ああいう廃村は結構多いんだ。初期クエストをやってみたけど時間を待つのがめんどいからやめた、自分にはこのゲームは向いてない気がする、思ってたより動きがなくて面白くない……理由はいろいろだね。1鯖では、バグがひどすぎるっていうのが一番多かったけど」


 プレイヤーさんは、遠い目をしていました。きっと、あの廃村について思いをめぐらせているのでしょう。

 あの村のプレイヤーは帰ってこない。でもずっと、それをずっと待っているのです。

 あんな悲しい廃村に比べたら、たしかにこの村は幸せかもしれません。


「プレイヤーさん……」


 私はプレイヤーさんのことを誤解していました。

 プレイヤーさんはとっても優しい人です。

 それに、なんだかんだいいつつもしっかり村を発展させてくれてるじゃないですか。

 初期クエストも最短でこなしながら、今もまた頑張ってくれています。


 そして、廃村に対してこんなにやさしい顔ができる心優しい人。

 私はやっぱりこのプレイヤーさんでよかったな、と思いました。


「あの……プレイヤーさん。私――」

「あ。保護期間あけたら早速あの村に攻め込むからね♪」

「え?」

「3日かぁ。今ごろは資源は……各5資源毎時として72時間だから、360くらいかぁ。フフフ」


 あれ?さっきのやさしいプレイヤーさんはどこへ行ったのでしょうか。

 目の前にはおいしそうな餌を目の前に、その味を想像してよだれをたらす悪魔しか居ませんでした。


「……あの、プレイヤーさん?」

「あ、ごめん。何の話だっけ? ああ、そうそう。ああいう初期廃村を見つけたら、きっちり報告してね。狙いどころだから」


 どうやら誤解は勘違いだったようです。このプレイヤーさんは鬼です。悪魔です。廃村フェチなんです。

 弱き者に手を差し伸べるふりをしてジャイアントスイングで投げ飛ばすそんな人なんです。


「廃村は村の発展には欠かせない要素だからねぇ、要チェックだよ」


 あの悲しい廃村のことなんて、ただの踏み台くらいにしか考えていないようです。


「もういいです。プレイヤーさんに夢をみた私が馬鹿でした」

「え、何?なんのこと? あ、そうそう。パネェっていちいち半角で呼びにくいからパネ子って呼ぶね」


 だったら名前をちゃんとしたものにしてくれればいいのに。


「それじゃ、別鯖いくから。あ、散策よろしくね!」


 そういってプレイヤーはいつものように別の世界へ行きました。

 なので私は仕方なく散策にいくことにしました。


 ん?


 保護期間あけたら攻め込む、っていうことは……

 とりあえず、保護期間明けても続けてくれるってことです、よね?

 ということは、まだまだしばらくはプレイヤーさんと会えるってこと……

 そう考えたら、嬉しいような、頭が痛いような、そんな気持ちになりました。 


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