第3話 はじめての廃村狩り
一週間の保護期間があけました。
うちの村も結構立派なことになってきています。
まぁ、相変わらず名前が『Lv4廃村』とかなんですけど。
ちなみに保護期間っていうのは、ゲーム開始から一週間(例外アリ)の間、
戦闘に関する行動は行われないという、いわゆる保障期間です。
保護期間中は魔物ひしめく秘境に行くこともできないし、闘技場にもいけません。(あ、闘技場っていうのは経験値稼ぎが安全にできるところです)
その間兵士にできることといえば散策にでてエレメントと呼ばれる資源の元を集めることだけ。
(尚、10エレメントで約1資源となります。序盤ではあまり多くは手に入りませんが、いざというときのための蓄えになります)
さて。いよいよ保護期間が明けたということは、私や兵士が戦えるようになるということです。
それと逆に、誰かに襲われることもあるということ。
特にうちの村の名前はこんなだから襲われやすいんじゃないかと凄く不安です。
「さて……とりあえず、プレイヤーさんの言いつけどおり、あの村にいってくるか……」
あの村。そう、それは2つ向こうにある本物の『廃村』。
結局あれから人口が増えることはなく、完全に放置されていたみたいです。
正直、気が進みません。
いつか廃村になるというのに、他の村を襲ってもいいものなのでしょうか?
ともあれ、到着しました。してしまいました。
相手の勇者さんは鬼人の、通称「ジト目」と呼ばれている魔法使いタイプの勇者でした。
事前のステータスチェックによると、お互いLv1です。
「よく……着たわね」
ジト目さんは私の到着を聞きつけて、門の前で待ち構えていました。
初めての戦いです。緊張します。
「は、はい。きてしまいました。申し訳ありません」
「何故……謝るのかしら……? 私は、こう見えて嬉しくてしかたないのよ」
鬼人は戦闘に特化した種族だと聞きます。
つまり戦闘することが喜びなんだ、そういうことだと思いました。
しかし、そうではなかったのです。
「誰かと話をするのは久しぶりよ。本当に、嬉しいの」
そうではなかったのです。
「そうそう、あなたてふてふ……えっと、蝶々もってたりしない? 本当は私が村の外に行った時に取れればいいのだけれど、これでも勇者だから命令なしに村の外には出られないのよ」
「え、ぁ、えっと……すみません。もってません」
ジト目さんはくすっと微笑みました。
「……まぁ、でしょうね。そうだ、お茶飲んでいかない? 食料あまってるのよ。……まぁ、他の資源も全部溢れるほどだけど」
「そ、そういうわけにはいきませんって! 私、一応戦いに着たんだし」
「あなたのところのプレイヤーの話を聞かせてくれたら戦ってあげても……良いわ」
そう言って、ジト目さんは村の中へ入っていきました。
私も仕方なくジト目さんについていきます。
村の中は、とても閑散としていました。
建物と呼べるものは官邸しかなく、これは本当に村かどうかが怪しいほどに。
けれど、そういえば私たちの村も最初はこうだったんです。
今でこそ倉庫や交易所が立っていますが、最初は……
そう、この村は最初のまま、ずっと時間が止まっているのです。
「お茶を入れるわ。お菓子、食べる? 本当はうちのプレイヤーさんと一緒に食べたかったんだけど、特別よ」
「……」
私はなんていっていいかわからなくて、固まってしまいました。
そんな私の目の前に、ティーカップが置かれ、さらにおいしそうなクッキーまでついてきました。
「聞かせて頂戴。あなたのプレイヤーさんがどんな人か」
そして私は話しました。
溢れるように、日ごろの不満や鬱憤を爆発させるように。
「だから私、いってやったんですよ! 真面目にやってください!って!」
廃村宣言のこと、発展させてること、そして、この村を攻めろと言われたことまで。
今日までの一週間のことを全部、話しちゃいました。
まぁほとんどがプレイヤーさんへの文句です。ちょっとスッキリしました。ふぅ。
「と、まぁこんなところなんですよ。まったく」
「いいプレイヤーね。かなり変わり者だけど、羨ましいわ」
「どこがですか!……って、ぁ……ごめん、なさい」
そうです、この村には、プレイヤーがいないのです。来ないのです。
話がひと段落ついたら、急にそのことを思い出して、
なんて無神経な話をしてしまったんだろう、って恥ずかしくなってしまいました。
「謝らなくていいのよ。とても楽しい話を聞かせてもらったわ。とくにその、廃村宣言?……でも、いいじゃない。ちゃんと、それも毎日頻繁に顔出してくれるんでしょ?」
「は、はい……」
まさか、廃村宣言が「いい」とかいわれるとは思わなかったのですが、それ以上に何か気まずい空気を感じていました。
一言で言うと、嫉妬……いえ、羨望でしょうか。
ジト目さんは、諦めと羨ましさが混じった視線をこちらに向けていました。
「うちのプレイヤーさんはね……今でもはっきり覚えてるわ。私にとって、たった一人のプレイヤーさんだもの。たとえそれが一日…一回だけしか会ったことがなかったとしても、ね。あいにく、肉資源のレベル上げただけですぐ居なくなっちゃったから私から話せることなんて何もないのだけれど」
気まずいです。ひたすら。
なんというか、助けてくださいプレイヤーさんって感じです。
しかしジト目さんの前ではこうしてプレイヤーさんに助けを求めるのすらイケナイ事のように思えて、罪悪感すら感じます。なんとか、なんとかしなければ。
「で、でもほら。ジト目さん、シャーロットとかすごく可愛い名前じゃないですか! 私なんてパネェですよ、パネェ!」
「……デフォルトネームよ」
うわっ、これ地雷でした。
気まずくて気まずくて何も話せないで居ると、ジト目さんが紅茶を一口飲み、口を開きました。
「資源もね、集めてくる子はずっと働いてるの。もう倉庫もいっぱいだし、プレイヤーさんも来ないからそんなに働かなくてもいいって言ってるのにね。話を聞かないのよ。……プレイヤーさんがいつきてもいいように、って。まぁ、おかげでご飯には困らないんだけどね」
私も、ぽり、と少し湿気たクッキーを食べます。
甘くて、だけれどどこかしょっぱい気がしました。もしかしたらジト目さんの涙でしょうか。
「さて。……それじゃ、そろそろ戦いましょうか。私も、一応勇者の務めを果たさないとね」
「え? あっ」
そうです。すっかり忘れていました。
私は、この村にとって侵略者だったのです。
「溢れさせるくらいなら貰ってってくれても構わないんだけど、私もまだこの村にプレイヤーが帰ってきてくれるって信じてるから……」
ジト目さんは、悲しそうに微笑みました。
* * *
戦闘はあっさりしたものでした。
二人して致命傷を与え、食らい、相打ちで地に倒れました。
それだけです。
本当に、それだけです。
そして私たちのお別れも、間近でした。
ちゃんとした形でまた会えればお友達になれると思いましたが、
私はともかく、ジト目さんには復活させてくれるプレイヤーさんがいないのです。
復活させてもらえない勇者は、ずっと眠ったままなのです。
「私たちのことは踏み台にしてくれていい……だから、私たちの分も……世界を救うため、がんばって、欲しい……わ」
ジト目さんが傷口を押さえながら、つぶやきました。
私にはもはやそれに返事をする力すら残っていません。
「てふてふ……」
ジト目さんも、もうほとんど力が残っていないみたいで、弱々しい息も乱れています。
「蝶々があれば、儀式ができるの。またプレイヤーと会えるおまじないの儀式……」
ぐっ、とジト目さんが苦痛に顔を歪めます。
私の目はもう開いていることができませんでした。
「ほ、ほら、蝶の羽は、一対でしょ……? プレイヤーと勇者も、一対だから……だから……てふてふは……」
重いまぶたを閉じ、意識が遠のくのを感じます。
ジト目さんの声も、聞こえなくなってきました。
「……プレイヤーとまた会うための……おまもり……なの……」
私の意識が戻ったとき、目の前にはプレイヤーさんが居ました。
「うーん、やっぱりLv1だと相打ちかぁ。お、起きたな。よし、次はLv2にするため闘技場へ特訓へいくんだ!」
「…………」
私は、じーっとプレイヤーさんの顔を見つめました。
「な、なに? 普段の勢いなら『起きて一言目がそれかー?!』とか、『ねぎらいの言葉もなしかー!?』とか言うと思ったんだけど」
「……ぁー……そうですね。でも、今はそんな気分じゃないんで。……私がいった村、どうなってます?」
私は、ジト目さんのことを思い出しながら聞きました。
「散策用に作ってた兵士をピストン運用して資源はこんでるトコ。やっぱり資源MAXまでたまってたねー♪
……ところで、戦闘開始まであと00:00:00でラグってたみたいだけど、何かあったの?」
ラグって……ううーん、この人ってば情緒もなにもないなぁ。
「ただ、ちょっと話してただけです。プレイヤーさんの悪口とか」
「うげ、それはちょっと恥ずかしいなぁ。でもそれなら絶対量少ないからせいぜい数秒のラグのはず……」
プレイヤーさん、どれだけ自分に悪口される謂れが無いと思ってるんですか。
「まぁ、とりあえず。パネ子、お疲れさま」
プレイヤーさんは、ぽむぽむ、と私の頭を撫でてくれました。
なぜか、じわ、っと私の視界がぼやけてきます。
「ど、どうした!? 傷が痛むのかっ!?」
「い、いえっ、だ、だだ、だいじょうぶですっ!なんでもありませんっ!」
私はあわてて目をごしごしと擦り、にっこりと笑って見せます。
私は勇者なんだから、プレイヤーを不安にさせちゃだめですよね。
プレイヤーさんに不安にさせられることは山ほどありますけど。
「あの、プレイヤーさん。……その、暇があればでいいんですけど、ひとつお願いしても良いですか?」
「ん?何?」
「あの廃村に、ちょうちょを届けてほしいんですケド」
プレイヤーさんはちょっと不思議そうな顔をしていました。
「ちょうちょ? 食べるのか?」
「いやいやいや食べるわけないでしょう!?」
「えー、鬼人のジト目は主食がてふてふって聞いたから楽しみにしてたのに?」
そんなのしりませんよ!?
「まぁいいや。それなら兵士に届けさせるより、自分で届けたほうが良いだろ。道中でつかまえてくとして、闘技場に行く前にお見舞いにでもいってきたらどうだ?」
「え? …いいんですか? っていうか、お見舞いってなんですか?!」
「うちは廃村確定ーって言ってる分だけ時間たっぷりあるからな。少しくらい問題ないさ」
「い、いえ、そっちよりも後半です!」
お見舞いってどういうことでしょうか?
もしかして、またジト目さんに会えるんでしょうか?
「ああ、そっか。初めてだしすぐ復活させたから知らないのか。勇者はやられると自分の村に配送されるんだよ」
え?
「普通に気絶してHPはゼロになるけど、勇者だから死ぬわけじゃない。戦えなくなるだけ。戦闘不能状態ってステータスに書いてあるよ。今頃あっちも官邸のベッドで目が覚めてるんじゃない?」
戦闘不能状態≠死亡。つまり……
「あ、遊びに行ったら会えるんですね!?」
「まぁ、そういうこと。だからいっといで」
私は思わずプレイヤーさんに抱きついてしまいました。
「ありがとうございますっ! プレイヤーさん、大好きですっ!」
「わっ、ちょ、ぱ、パネ子っ!?」
気がついて、あわてて離れます。密着していたことに気がついてお互い真っ赤になります。
「で、でもこの村を廃村にしようっていうのはダメですよ!? 許しませんよ!?」
「い、いや、それはもう決定事項だから!いってらっしゃいパネ子! こっちも1鯖みてくるから! また会おう、アイルビーバック!」
そういって、プレイヤーさんは照れながら他の世界へいきました。
実際のところ、何も言わずに静かに廃村にされるより、きっぱり廃村にすると言ってくれる方がやさしいのかもしれません。ジト目さんを見て、そう思いました。
ですがこの先、プレイヤーさんがこの村を本当に廃村にしてしまったら、私たちはどうなるのか。
ちょっとそれを考えてさびしくなりましたが、
とりあえずは、新しいお友達ができたので遊びに行ってこようと思います。
お土産にちょうちょと、お花を持って。
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