廃村宣言

第1話 廃村宣言


 世界が始まったその日、私はプレイヤーさんと出会いました。

 私とプレイヤーさん、まずは人口2人での村作りです。

 えへへ、実は私、嬉しくてたまりません。

 だって、たくさんいる中から私のことを勇者に選んでくれたんですもん。


「はじめまして!これから一緒に村を発展させていきましょうね♪」


 とびっきりの笑顔でご挨拶。太陽の巫女は、笑顔がトレードマークなのです。

 プレイヤーさんは、ぽりぽりと頬をかいて、ちょっとだらしなさそうです。

 でもまぁ、これから長いこと一緒に過ごすわけですし、このくらいのほうが気が休まると思います。

 ちょっと頼りないですが、私はこのプレイヤーさんに大器の器を見ました!


「ああ、うん。よろしく。…あのさ、」

「はい、なんですか?」


 プレイヤーさんはちょっとばつが悪そうにいいました。


「この村廃村にするから」


 ……


「え?」


 聞き間違いでしょうか。廃村にする、と聞こえましたけど。


「実は1鯖にメインで鬼人村持っててさ。…正直この3鯖にアカウントは作ったけど、本腰いれてやれるほど暇じゃないと思うから廃村にする。OK?」


 私は、頭が真っ白になってしまいました。

 なんですか? ハイソン、はいそん。廃村…?

 それは確か指導者たるプレイヤーが居なくなり、放置されて荒れ放題になった村のことを指す用語です。

 廃村はひたすらモヒカンの兵士たちに略奪されつづける奴隷のような生活をするしかないと聞きます。


「な、なんでですか!?」


 いざ村を作っていこうという初まりの時。そこでいきなりの廃村宣言。

 縁起が悪いどころか、いきなりゲームオーバー。


「……や、本気いれると実生活に影響でまくるし。実際1鯖だけで手一杯なんだよね」

「それでもっ、はじめたからには責任を持ってくださいよっ!」


 廃村となった村は、略奪され、世界の法則により跡形もなく消滅(クリア)されるしかありません。

 もしくは一思いにプレイヤーの手で……


 ……嫌です。

 消えるのは嫌です。

 そんなのは、嫌です!


「プレイヤーさん! お願いです、どうか私を見捨てないでくださ って、あれ?プレイヤーさん?」


 既にプレイヤーさんは目の前に居ませんでした。

 ……つまり、もう、この村は……廃村? できて数分しか経っていないのに?

 もう、プレイヤーさんは私たちのことを……見捨ててしまったんですね。


 ……このまま、消えるのを待つしかないんですね。

 いいんです、私が夢見すぎてただけなんです。


 できれば魔王に一太刀あびせて、名実ともに勇者の役目を果たしたかったなぁ……

 私はしゃがみこんで、地面に「の」の字をぐりぐり書きました。


「あのーちょっとそこどいてくださーい。木資源とおりますんでー」

「あ、すいません」


 ここはちょっと邪魔だったみたいです。落ち込む場所を変えましょう。


「……って、あれ?今の、誰? この村にはもう私しかいないはずじゃ」


 ふと村の人口をみると、10人になっていました。



 プレイヤーさんは私をほったらかしにして、現場でメニューを見ながら指示を出していました。


「よーし、全資源Lv1になったな。次は官邸のLvUPだ、いそげー」


 それも全力で。全速力で。建築が終わったとたんに次の建築を指示していました。


「あ、あの。何をしてるんですか?」

「え、何って初期クエストだけど?」


 なんで? と思いました。


「廃村にするなら、ふつーそんなことしません…よね。あ!もしかしてやっぱりやる気に!?」

「逆だよ。廃村にするから、資源Lvを上げるんだ」


 ???

 私の頭にハテナが浮かびます。さっぱりわかりません。


「……どういうことなんでしょうか?」

「1鯖での経験からして、廃村ってのはほかの村の発展を助けるための重要な要素なんだよね。廃村があることにより有人村同士で潰し合いをせず育つことができる。……廃村にある資源を有効活用して発展していく。これ最強」


 ふふん、と自慢げに笑いながら、別の指示をだすプレイヤーさん。


「えっと…ごめんなさい、やっぱりわかりません」

「廃村から出る資源は多いほうがいい。人口2人の廃村より4人の廃村、20人の廃村より100人の廃村のほうが役に立つ。まぁ、100人超える廃村なんて戦争で滅ぼされた村しかいないけどね、普通」


 プレイヤーさんは、今度は胸を張って堂々といいました。


「というわけで、目標は全資源Lv10+資源系施設MAXの超絶廃村だ! パネェ!」


 な……なんですかそれ!?


「人口200人越えの廃村があったらさぞかし凄いと思わないか?!」

「いやいやいや!? そんなことするならまじめにやってくださいよ!?」

「無課金でランキング200位以内に鎮座ましましてるのがお好みか? だが断る! そんなの1鯖でしか無理!」

「ふぇええー!? やってんの!? なにそれアンタなにもんですかッ!?」


 それが本当ならこのプレイヤーさんは、確かに大器の持ち主かもしれません。ある意味、と前置詞がつきますが。


「おっと。俺はニートではないとだけ言っておく……あ、世界の役に立つこと、これも魔王との戦いのひとつだぞ、パネェ」

「なんか後ろ向きな戦いですねぇ!? …っていうか、ぱねぇってなんですか。確かに半端無いことだとは思いますけど……って、いつの間にか私の名前が『パネェ』になってるーッ!?」


「某所の聖女から由来する由緒正しい名前だからね。あ、元の名前忘れた」

「こんな名前嫌ですーー!! ていうか、やるなら真面目にやってくださいよ!?」

「ははははは、いいじゃない別に。おっと、それじゃメインの1鯖のほうに行くから。建築終わるころに様子見に来るから散策ヨロー」


 そういって、プレイヤーさんは帰って、いや、他の世界へ行きました。


 私、いったい、どうなっちゃうんでしょう。どうしたらいいんでしょうか。

 この村は本当に廃村になるんですか? プレイヤーさん。


 ……

 とりあえず散策に行きながら考えるとしましょう。

 廃村にしないでほしいなぁ……あと、名前も変えてほしいな、と願いつつ。


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