第12話 湖畔?
そして、私たちは平地に着きました。
「……あれ?」
「えっ」
座標を確認します。
はい、確かに間違いなくここです。
地名も番地もあっているはずです。
なのに、これはどういうことなのでしょうか?
なぜ木が二本の平地にたどり着いているのでしょうか。
『あっしまった、ついいつものクセで』とかそいうことでしょうか。たぶん。
プレイヤーさんは勇者の往復三日をどう考えているんでしょうか。
「……どうする?パネちゃん」
「どうするもこうするも……うーん、とりあえず、オヤツでも食べましょうか……」
仕方がないので私たちはシートをひろげ、オヤツを食べることにしました。
シャロさん特製チーズケーキです。おいしいです。
「くちどけふんわり……もぐもぐ」
「でも、あれね。プレイヤーさんが間違えてくれたおかげでまたパネちゃんと旅行できるわね」
「……そうですねぇ、そう考えれば、まぁ。でも、プレイヤーさんが間違えた事実は消えませんけど」
とりあえず、帰ったら一言文句言っちゃいましょう。
「……隣が湖畔みたいだけど、勝手にそっち散策したらダメなの?」
「ここの散策がプレイヤーさんの指示だし、守らないといけません。嫌味もこめて」
くすっとシャロさんが笑います。
「信頼関係があるのかしら?……まぁ、私が勝手に隣を見に行く分には関係ないわね」
「あぶないですよー?」
「大丈夫、一応、私も勇者なんだから」
といって、シャロさんはすぐ隣の湖畔にいきます。
「……うん」
だめです、戦闘不能の勇者は一般人とほとんど変わりません。心配すぎます。
というわけでプレイヤーさんの命令からは外れますが、シャロさんについていきましょう。
「あら、パネちゃんも来たのね」
「やっぱり心配ですもん」
「ふふっ、ありがとう。パネちゃんはほんと優しくていい子ね」
シャロさんはにっこり微笑み、私の頭を撫でます。
「……ほら見て、綺麗な湖」
いわれて見渡すと確かに、一面透き通るような水が風に揺れ、太陽の日差しで宝石のように輝いています。
「これならきっとセイレーンも居るわね」
「でも居ても戦う必要はないですよ。飛ぶときに抜けた羽を一枚もらうだけでー」
「あら。私に任せて。儀式でうまくやってみせるわ」
どんな儀式なのでしょうか。
「カゴとパン、それと紐のついた木の棒を使って……木の棒をこう、伏せるようにしたカゴにひっかけて、パンを少しちぎって点々とカゴの中に向かっておいていくの。最後にパンに木の棒の紐をくくりつけてカゴの下において、完成よ。これが、先日プレイヤーさんに教わった『鳥を捕まえる儀式』よ」
といって、カゴにバスケットを、木の棒はそこらで拾った枝、パンのかわりにチーズケーキの残りを少々、紐は用意してあったものを使いその儀式の形式を作っていきます。
……なんともまた、胡散臭い儀式ですねぇ。代用品とかですが大丈夫でしょうか?
「コツとしては、パンと木の棒をつなぐ紐をぴんと張って、パンが動いたら棒が倒れるようにしておくこと、らしいわ。他にも、鳥に向かって両端に石をくくりつけた紐を投げつける、とかあるらしいけど」
あ、そっちは前に猟師の人がやってるのを見たことがある気がします。
なるほど、あれって鳥を取ってたんですね。遊んでるのかと思ってました。
「とりあえずセイレーンが捕まえられたら私がどうにかしますね」
「えっ、いや、私の儀式だから、最後まで私がやるわよ? 小鳥相手に何度も練習したから慣れてるし」
「セイレーンは魔物ですし、万一のこともありますから」
「あら。私だって勇者だもの、大丈夫よ」
「ダメです」
「……どうしてよ」
私がきっぱり言うと、シャロさんはすねたように言いました。
なので私は思っていることを伝えます。
「シャロさんが怪我したら、私、悲しいですから」
シャロさんは一瞬驚いたような顔をしました。
「……パネちゃん……」
「だからお願いです。私に任せてください」
「うん……わかったわ」
素直にこくり、とうなずくシャロさん。
「よかった♪ 大好きですよシャロさんっ」
「……っ!」
シャロさんが私に抱きついてきました。
「ふえ? どうかしましたか?」
「それ、反則……」
ぎゅーっと抱きしめられます。
シャロさんの、どくんどくんと鳴る心臓の音がこちらにも響いてきそうなくらいに。
「……ぁ」
シャロさんの整った顔が私のすぐ目の前に来たと思うと、次の瞬間、
ちゅ、とシャロさんは私の左頬にキスをしました。
……
私は一瞬固まってしまいました。
「……にゃう!?」
私の声に驚いたのか、シャロさんが慌てて離れます。
「わっ!? ご、ごめんなさい、私、つい、その、がまんできな、じゃなくて、その、うれしくてっ、あっ、これ鬼人の愛情表現でっ、深い意味はないの!本当よ?!」
シャロさんがあわあわと置き場に困ったかのようにせわしなく手を振りつつ、顔を真っ赤にしています。
「あ、いやっ、そのっ……え、えっと、うー……?」
私は言葉が出てきません。
キスされたほっぺがなんかじんじんするので手で押さえつつ、顔が赤くなっているのを感じます。
「す、すみません、ちゅーされるのとか、初めてなもので戸惑っちゃいました……」
「!……ご、ごめんなさい。いやよね、私なんかにキスされるのとか」
「えっ、いやそのっ、そんなことはないですよ! その、や、柔らかかったですしっ、私こそこんなほっぺで!」
「パネちゃんのほっぺは、その、き、気持ちよかったわよ?」
お互い何を口走っているのかちょっと分からなくなってきました。
でもまぁ、ここが誰も居ない場所で助かりました。もしこれを誰かに見られてたら、きっと恥ずかしすぎて三日くらいお布団から出られないでしょう。
と思ったら、ガサッ、と音がしました。
「!?」
音のしたほうを見ると、バスケットに頭をはさまれながらチーズケーキをもぐもぐ食べるセイレーンと目が合いました。ぢーっとこちらを見ながらもぐもぐと食べています。
「……えーっと……」
セイレーンは、チーズケーキを食べ終わるとバスケットをどけて立ち上がり、ぱっぱっと埃を払って、飛び立っていきました。
「……み、見られちゃったわね」
「そうですね……な、なんか恥ずかしいですよ!? いつから見てたんでしょうっ」
「それにしても、セイレーンにはやっぱりこれだと小さかったみたいね……あ、でも羽落としていってるわよ」
セイレーンが飛び立ったときに、羽を落としていったのでしょう。
「……まぁ、クエスト達成、かしら?」
「い、いいのかなぁ、こんなので」
私たちは、帰路に着きました。来た道をそのまま戻り、エルフ村に寄り一泊して帰りました。
今度はベッドが二つある部屋でした。なにやらミミさんがサービスしてくれたみたいで。
シャロさんはなぜか不満そうでしたけど。
あと帰り道、シャロさんの顔をまともに見れませんでした。いやその、恥ずかしくって。
「おっ、お帰りー。いやーごめんごめん。いつものクセで平地だったよー……ってあれ? 羽手に入れたの?」
「いやまぁ、シャロさんのおかげで」
「へぇ。詳しく聞きたいねぇ」
「黙秘権を行使します!」
詳しく思い出すと、顔が熱くなってきます。とくに、左のほっぺたが。
「じゃ、次はドラゴンの抜け殻を取ってきてもらおうかな。大丈夫、今度は平地じゃなくてちゃんと山岳だよ。またシャロさんといっといでー」
「ぇ、ぁー、は、はい。いってきます」
というわけで、次は山岳に向かって片道一日半の旅となります。
シャロさんの顔、まともに見れるでしょうか? というのがちょっと心配ですけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます