第4話
「アーリアー!」
「わっ」
昇降口で背後から抱き付いて来た親友に驚いて
「何?」
「おはよー!」
離れて靴を抜きながらハイテンションに手を突き出した
「おはよう」
「いえー、いつも通りのローテンショーン!」
上履きに履き替えて廊下を歩いて階段を登る。その間も会話は続いていたが
「ふわぁ」
「あれ? アリアってば眠いの?」
「うん」
「まーた、ゲーム? ダメだよ、運動しないとそのまな板もまな板のままだよ」
とりあえず頭を軽く叩いて
「おっはよー!」
「おはよう」
教室に入って窓際の自分の席に座る。そして鞄の中から教科書を取り出して机の中に入れる。
それにしても眠い。結局あれからすぐにログアウトしたのに。
「はぁ……眠」
「えー? 霧たちゲームでろくに寝てないの?」
「あはは」
「うふふ」
「ははは」
「笑って誤魔化しても無駄じゃよ」
朝日がクラスの仲良し三人組に絡んでいた。三人組は三人組で笑っていた。
「何かあったのー?」
「ゲームしてたの」
「三人で?」
「VRMMOだからね」
「はー、便利な時代になったもんですなぁ」
朝日のババ臭い言葉を最後に私は机に突っ伏した。
*****
「木山も厳しくない?」
「ほんっと、あの男はね」
「生理が来ている子に体育の授業をサボリって酷い言い草よねー」
そんな喧騒のする食堂の端っこの席を確保して
「アリアは何にするの?」
「麺類かな」
「うーん、蕎麦とか?」
「そうだね、うどんにしよう」
「私の意見は⁉︎」
朝日をからかいながら食券販売機の列に並ぶ。そして食券を買って食堂のおばちゃんに渡す。
「アリアってばよくからかうよね」
「朝日だって」
「あはは」
「ふふふ」
笑いながら受け取って席に座る。そして割り箸を割って
「今日は珍しく空いているね」
「そうかな?」
「うん、普段よりちょっとね」
ずずず
「朝日は今日も部活?」
「そうよ、昼食べたら即部活なのよ」
苦笑して牛丼を食べ始める朝日。そして
「ごちそうさまー」
「相変わらず早いね」
「それじゃ、5限目にねー」
「頑張ってねー」
次の授業は数学だ。何をしていたのかはすっぽり頭から抜けている。とりあえず蕎麦を啜って
「ここ、良いですか?」
「……良いよ」
私が顔を上げるとクラスの仲良し三人組が。そして三人は座って食べ始めた。
「霧はさ、やっぱ抜けてんのよ」
「えー? 蝶もそうじゃん」
「茜はセーフだね」
目の前で繰り広げられる会話に耳を傾ける。どうもゲームでやり過ぎて寝ていないようだ。三人も一緒ならMMOなのだろう。
「……」
私は食べ終わったら蕎麦の器を少しずらしてスマホを取り出す。そして魔王の奴がやっているブログを見る。彼は攻略プレイヤー、前線を進む者だ。
……またギルドを立ち上げる予定なんだ。多分メンバーはいつもの私を含めて九人……あ、書いてあった。
「私も形だけ所属するのかな」
スマホをしまって蕎麦の器を持ち上げる。そして食堂の端にある流しに置いて
「ごちそうさま」
「あいよー」
*****
「授業で何をしたっけ?」
「睡眠?」
「起きてたと思うけどね」
私は終業後の時間で伸びをして鞄を持つ。そして
「アリアも部活行くの?」
「うん、パソコン部なら幽霊ばかりでのんびり出来るからね」
嘘だ。ただそこに知り合いがいて、ゲームの話が出来るからだ。
「それじゃ、また明日」
「ほーい」
教室から出て階段を登る。そして端っこの扉を開けて
「あら、アリアちゃんも来たのね」
「シェリ姉も?」
二階堂シェリル。正真正銘血の繋がった姉だ。シェリ姉は席を立って私を抱きしめた。
「ちょ、シェリ姉ってばまた大きくなってない⁉︎」
「あら? アリアちゃんはまだ……大丈夫よ、私の妹だもん。すぐに大きくなるわ」
一瞬言い淀んだのを私は見逃さない。とりあえず大きなそれを揉む。
「んっ……アリアちゃん、嫉妬したからって触るのはひゃぅっん⁉︎」
私のと同じ燃えるような赤い髪を振り乱してシェリ姉は悶える。
シェリ姉はその大きなそれのせいでストーカーがいた。しかしそれを撃退して顔を撮影して脅迫した強者だ。
「そこの百合姉妹、部活しないなら帰れ」
「すいませーん」
「はーい」
とりあえず席についてパソコンを起動。パスワードとIDを打ち込んで
「今日は何をするんですか?」
「プログラム構築」
VRMMOがあるご時世にパソコン部という物好き。それは数少ない。私とシェリ姉しか今日はいない。
「ねぇ、ここってどうするの?」
「それよりそこの文章が違う」
シェリ姉の間違いを訂正しながら文字を打つ。最初は手元を見ないと出来なかったけど今では見ないで出来る。しかし
「思考入力の方が早いと思うんだけどね」
「そう言うアリアちゃんだってスマホって骨董品を使っているじゃない」
「あれはあれで使い分けれているから」
「普通二つもデバイスを使わないんだけどね」
現在の主流は思考使用型の腕時計型デバイス。それはそれで使っているけど
「やっぱり思考使用は違和感があるんだよね」
「どんな?」
「自分の体は動いていないのに動くから誰か他の人が動かしているんじゃないかって」
「うーん、アリアちゃんは気にし過ぎだと思うけどね」
シェリ姉は苦笑して文字を打ち込む。C言語と呼ばれる文章は複雑だ。
これからの未来に残るのか分からない。
「あ、そろそろ終わりの時間ですね」
「そうだな、戸締りするからさっさと帰れよー」
顧問の言葉に頷いて鞄を持ってパソコン室から出る。そして
「アリアちゃんは今から予定ある?」
「そうだね、ゲームくらいかな」
「ならちょっと付き合ってよ。美味しいケーキのお店見つけたんだ」
「これから晩御飯なのに?」
「買って帰ってお腹が減ったら、でどう?」
それは良いアイデアなので頷く。
「アリアちゃんが好きな果物のケーキもあったよ」
「果物が好きってわけじゃなくて生クリームが苦手なの」
わいわい言いながら店に寄ってケーキを5つ購入して帰宅すると
「アリ姉もシェリ姉もお帰り!」
「ただいま、エミ」
「ただいま」
二階堂エミリア。やはり血の繋がった妹だ。すると廊下をパタパタと走る音が聞こえて
「二人とも、お帰り〜」
「ただいま、お母さん」
「ただいま。父さんは?」
「後少しで帰るって」
五人家族で女三姉妹。シェリ姉は中3、私は中1、エミは小5と二年ごとに産まれた。これ以上増える予定は無いらしいけど毎晩ハッスルしている音が聞こえる。
「シェリ姉ー!」
「っとと、エミは元気ね」
「お母さん、これお土産」
「あら、ケーキ買って来たの?」
「うん」
シェリ姉に抱きついて胸に顔を埋めるエミ。男なら犯罪だ。
「二人ともそろそろ好きな子くらい出来た?」
「「ノー」」
「もう、男の子はすぐに目移りしちゃうんだから早く捕まえないと」
会話が少しずれている。そう思ったら背後のドアから音がして
「ただいまー、って二人も今?」
「うん、お帰り」
「お父さん、お帰りなさい」
「お帰りー、パパ」
「お帰りなさい」
私の家庭は今日も平和だった。
*****
ハードをかぶる。そして私から僕に切り替わる魔法の呪文
「リンクイン」
それだけで学生から剣士になる。昨日は稼いだ経験値を使ってスキルのアークスラッシュを強化してレベルを上げた。
このゲームでは経験値が蓄積してもレベルは上がらない。蓄積した経験値を使って初めてレベルが上がる。スキルのレベルを上げる、今はそれしか知らない。
アークスラッシュのレベルは3まで上げた。スキルレベルが上がると速度、威力、クールタイムが速くなる。
「でもこの辺りのモンスターは一撃かな」
最初の草原に出る蟻、アントの首を通常攻撃で倒して呟く。街の人からクエストを受けて倒して報告してを繰り返したおかげで金も稼いだ。もっとも余っていたから関係無いけど。
「あ、アリアさん!」
振り向くときりひなたちがいた。
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