第356話
「リョーマが斬られた!?」
「ご主人様!?」
「ヤバいかも……っ!」
《ヴァルキュリア》シリーズに身を包んだエレナは身の危機を感じながら、剣を振り下ろす。しかしその剣は、手刀で相殺されて――返しの拳が放たれる。咄嗟に突き出した盾で衝撃とダメージを相殺して
「……ヤバ」
『中々やるな! だが――遅い!』
「遅いのはテメェだ!」
『お前に言っているのだよ!』
《アスクレピオス》の蹴りが、スカイの二本の剣を受け止めた。さらにそのままエレナの盾を掴んで、エレナをスカイに叩きつけた。
「ご主人様!?」
「ヴィクトリア! 私よりも《アスクレピオス》を!」
「――はい!」
『奇妙な武具を持つな! 貴様!』
「メイドのヴィクトリアと申します、ご主人様!」
箒による斬撃を手刀で逸らし、拳をフライパンで止められる。返しの蹴りが、膝に止められて、ヴィクトリアは舌打ちをしたい気持ちを堪えながら背後に飛んだ。
『お前もやるな!』
「お褒めに預かり光栄です――が、あなたのメイドはここで辞めておきましょう。私はメイドとして、選ぶ立場にいるとします!」
『選べる立場があるとでも?』
「ええ、現在は選んだ主の元にいます故」
そう言うヴィクトリアの視線はアリアに向けられていた。そしてアリアとシンは《アスクレピオス》に襲いかかったが――《アスクレピオス》が手を振るった瞬間、二人はそれ以上近づけなくなった。
「これは……!?」
「結界のような物、かな?」
「アリアたちは見守っていて!」
「こっちはなんとかすっからよ!」
「任せてください、ご主人様!」
「みんな……」
アリアが驚いていると、シンはその肩を叩いて
「今は《アスクレピオス》を観察しよう。どこに隙があるかも分からないからね」
「う……そうね」
スカイは両手の剣を交差させて手刀を受け止めた。そしてそのまま反撃として連続して斬りつけるが、《アスクレピオス》は全て、右手で防いでしまった。さらに大きく拳を振りかぶって、殴りつけようとしたが
「《ソードリバーサル》! からの《クロスエンド》!」
「響け、《ゴスペルスラッシュ》!」
「ご奉仕します、メイド
交差して放たれた斬撃が、振動する斬撃が、神速の箒が《アスクレピオス》の体に触れそうになった、その瞬間だった。
《アスクレピオス》は高速で手を振るい、三人の攻撃を防ぐ透明な壁を創り出した。そしてそれに全ての攻撃が当たり――止められた。
「っ!?」
「そんな!?」
「――今の感じ、多分風よ! スカイ、ヴィクトリア! 燃やして!」
『ほう、今の一瞬で見破るとはな……なるほど、プレイヤーはどいつもこいつも油断大敵とはよく言ったものだ』
「誰が言ったんだ? そんなこと」
『母様方さ』
スカイが言葉を交わしながら剣で斬り合っていた。そしてその隙にエレナは両手で剣を握りしめ、大きく振りかぶって
「《
『なんと!? 燃え上がる剣か!』
「この剣には様々な属性があるだけですよ! 《白刃一閃》!」
最速の剣を放つ。それは受け止めようとした《アスクレピオス》の掌に食い込み、大きな傷を作り上げた。しかしそこで剣は止まらない。何故なら、その剣の背を押す物があるからだ。
「《ファイナルアルカナム》!」
『ぐ、ぬぉぉぉぉ!』
振るわれた腕が、スカイごと剣を弾き飛ばした。そしてそのままエレナも弾き飛ばしたが――ヴィクトリアの振り上げた箒が、《アスクレピオス》の額を刺し貫いた。
「やったか!?」
「やった!?」
「……」
ヴィクトリアだけが何も言わず、その結果を眺めていた。そして咄嗟に箒を引いたが、再生する速度には敵わずに箒が埋め込まれた。
『隙を創るための大技か……なるほど、油断大敵と分かっていても、これか……ふ、ふははははは! 愉快だ、愉快だぞ貴様らは!』
《アスクレピオス》は高笑いをして、
『貴様らの最後の手向けだ! 全てを墜とし、我が元に参れ!
瞬間、螺旋大陸に全ての星獣が一体ずつ、出現した。
*****
「……《アスクレピオス》と戦えなくなっているのはこれが理由だったか」
「死者をも蘇らせる医者、さすがね」
「名前初登場の星獣ばっかりだなぁ」
「メタい」
マモンの脇にレヴィの指が突っ込みを入れ、悶えている。それを呆れと共に眺めながら、ベルは大きくため息を吐いて
「魔王、どうする?」
「決まっている。殲滅だ」
「……もう少し、魔王らしく言ってみようぜ」
「……我らに刃向かう愚か者共を殲滅せよ!」
「くくっ」
「ベル、後で覚えておけ」
魔王は舌打ちをしながら右手を掲げて
「来い、闇鴉」
『きゅるぃぃぃぃぃぃぃ!』
「行け」
魔王がテイムモンスターに飛び乗る。それを眺めていると
「ベル、お前はレグルスを叩き潰せ。俺は《アフロディテ》と《エロス》を殺してくる」
「ああ、良いぜ。でもよ、魔王。俺ら二人だけで行くのか? 他のみんなも暇しているんじゃないのか?」
「あいつらもすでに抗戦準備に入っているそうだ。だが、あいつらはあいつらですでに戦いたい相手のところに向かっている。俺たちはむしろ出遅れた側だ」
「うわ、マジか。それはそれで大分面倒な気がしてきたんだけどよ」
そして5分後、闇鴉に乗った魔王は双魚宮、《アフロディテ》と《エロス》による暴虐の嵐吹き荒れる地に降り立った。
風と美の神、《アフロディテ》が巻き起こす突風がプレイヤーを吹き飛ばし、水と愛の神、《エロス》がプレイヤーを押し流す。魔王はそれを眺めながら二本のナイフの間で手を迷わせて、一本を選んで抜く。
アリアの作り上げたナイフの一本、《雷》。それに付いている特殊能力の一つは触れた物を感電させる。そしてそれは魚である《アフロディテ》と《エロス》にとって特攻だろう。
「さて」
風を切り裂き、流水を避ける。もはや流水と言うよりは鉄砲水のような気もするが、魔王はそんな細かいところに気を遣わない。そして《エロス》の喉元に飛び込んで、喉を切りつける。そのまま切り開いて
「――他のプレイヤーはどこに消えた?」
全損しただけなのだが、魔王はそれに気付かずにナイフを振るう。《エロス》の体力がぐんぐん削られていくと同時に、その体力がどんどん回復していく。その量は魔王の攻撃が優っているが
「《アスクレピオス》の仕業か? 医者という者は凄いな」
おそらく世界全域の医者が聞いたら首を横に振りそうだ。魔王は内心で少し笑いながら、地面を蹴る。そのまま《エロス》の鰭による斬撃をナイフで逸らしながら、《アフロディテ》の腹下に飛び込んで、切り上げる。そして手首を捻って抉りながら走り続ける。
「――以前よりも硬くなっているな」
切れないわけじゃないが――随分と強化されている。改めてそれを理解しながら魔王は大きくため息を吐いて
「星獣と一対一か、面倒な」
*****
「あー、出来れば俺は無視して好きに戦ってくれても構わないんだけど」
「お前が死ぬのは構わないが、俺がたったの一人になるのは余り好ましくないんでね」
ブブの言葉にアスモはため息を吐いて
「義兄殿は孤独が苦手のようで」
「五月蠅い義弟」
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