第125話

「とりあえずアリアちゃんはこれから何かあるんでしょ?」

「あ、そうだった」


シェリ姉の言葉に我に帰る。


「それじゃ先に行くね」

「はいはい」


階段を上って……デバイスを被る。そのまま横になって……目を閉じる。脳裏にマモンとキスした瞬間が映った。


「っ……意外と嫌じゃない」


なんとなーくこれも良いかなー、と思いつつ


「リンクイン!」


……カーマインブラックスミスだ。


「お帰り。マモンが謝りたいって言ってたわよ」

「レヴィ……そっか。今どこにいるの?」

「キッチンよ」


言われた通りに行くと……なんか暗い表情のマモンが。それなのに手元のパフェは色彩豊かだ。


「マモン」

「アリアちゃん……さっきはごめんね?」

「良いよ。偶然だし……それに、庇ったんでしょ」


なんとなくだけど、あの瞬間、マモンが動いていたのが分かった。ダメージも無いのに。痛みも無いのに。


「ありがと、マモン」

「……どういたしまして」

「それじゃ行ってくるね」


《転移の翼》を取り出して


「にょもっ⁉︎」

「二度ある事は三度あるとはよく言ったものね」


天井め……そうまでして僕の道を阻むか。


「八つ当たりしていないで行くんでしょ?」

「うん。マモンも来る?」

「それじゃ観に行こうかな」


ベランダに出て転移する。行く先はみんなでトーナメントをしたあのコロシアムだ。


「うーん、殺気立ってるねぇ」

「シンに恨みを持っているからって僕に八つ当たり組がこんなにいるとは思わなかったなぁ」


呆れつつ、中心に立ち、ぐるりと見回す。たくさんのプレイヤーが僕らを囲んでいる。


「《天弓》は出て行ってくれないか?」

「んー?」

「マモン、ここは僕だけでやるよ」


マモンが頷き、その姿が闇に包まれた。そして闇は高速で観客席に移り、マモンが出て来た。カゲオ、また成長しているみたいだ。


「そっちはみんな揃ったの?」

「ああ」

「それじゃ」


二本の天魔剣を抜いて


「開戦だ」


*****


「馬鹿だなぁ」


観客席から見下ろし、呟く。どうしてアリアちゃんと正面から戦おうとするのか。


「そう思わない?」

「え⁉︎ あ、はい」

「だよねー」


見知らぬプレイヤーの同意を得つつ、眺める。


「残念だけどアリアちゃんに勝つにはシステムの範囲じゃ無理なんだよね」


高速の18連撃が繰り出され、吹き飛ぶプレイヤーたち。今のはスキルじゃない。それなのにスキルのような結果を出す。


「システムオーバー……!?」

「うん、やっぱり優さんかぁ」


その視線の感じで予想はついていた。しかし


「直美さん……出来ればこちらで名前は止めてください。今はただの観測者ゲイザーです」

「あっそ」


苦笑しながら眼鏡をかける。覗ける景色には鮮やかな少女が嵐のように切り回っている姿が見えた。あまりにも速すぎて……また観測者が呆れの息を吐いた。


「システムを凌駕している……やっぱりアリアさんのデバイスか……脳に仮想領域でも存在しているのでしょうか?」

「……アリアちゃんに何をするつもりか知らないけど、危険があったら許さないわよ」

「分かっていますよ……可能性の一つですが、人格の乖離が原因で……仮想領域が生まれ、そこを利用した無意識下の……いえ、覚醒の無意識ですかね。そこを経由し、情報がデバイスへ送られていると考えれば……」

「アリアちゃんに言ってもそれは通じないでしょ……アリアちゃんの思考を計測しない限り。あの子は頭で考えるより行動のほうが速いのだから」

「知っていますよ」


優さんの言葉と同時に、アリアちゃんの動きが加速した。一瞬で加速して、吹き飛ばした。スキルでも同じようなのがあった。それなのに……それを越える速度で、だ。もはやアリアちゃんを縛るシステムという名の鎖は緩んでいる。


「だからこそ観測者は見に来たんですね」

「そうですね……このままでは計画通りに行きません」

「ふーん、どんな?」

「あまり明かせませんが……サーバー間トーナメントで日本全国でトッププレイヤーを決めます」

「ん……つまりアレかな、最終的には全世界かな」

「ご想像にお任せします」


言いながら眺めて……


「何あの動き……システム内の限界に喧嘩を売っているような感じですね」

「ふーん。ちなみに私たちの中だと誰がそこまで行ってる?」

「気になりますか?」

「はい」

「……今現在、システムオーバーと思われる、もしくはその可能性があるのはあなたとアリアさんだけですね。達也は……失礼、坂崎は例外です」


擬似深層接続者プシュードディープリンカー》は例外……ね。私とアリアちゃんだけが《深層接続者》ではない。もっとたくさんいるのにね。


「とりあえずアリアの動きが人間を越えているのもよく分かる。だからと言ってシステムを上回っているとは思わないけどな」

「おや、ツゲ……シンさん、お久しぶりです」

「やっほ、シン。それよりもどういうこと?」

「え」


シンは突っ込まれるとは思っていなかったような表情で驚いた。


「……アリアなら、決まった範疇の中で強くなる。アリアじゃなくてシステムの方に何かあるのかもしれない」

「……参考にさせていただきます」

「秘剣、花の型!」


アリアの高い声と同時に舞い散る花びらのような斬撃が、コロシアムの中に残るプレイヤーたちを切り倒した。


*****


「と、言うわけで《アイドル》を取ったよ」

「はぁ?」

「歌っているとエンチャントがかかるんだって」

「はぁ……使い道に困るね」


アリアの言葉に頷き、考えてみる。


「僕が守りながら歌ってもらうより2人で行った方が早いからなぁ……歌いながら戦える系女子?」

「うん、そのつもり。それに装備が少し煌びやかになるって特徴もあるんだよ」


見せ付けるようなアリア、可憐だ。だけど


「そのワンピースとスカート、気に入っているんだ」

「うん。ツゲと亜美と一緒に買った服だからね」


だからと言ってこっちに持ち込まなくても。そう思ったら


「どう? 綺麗?」

「……えーっと」


綺麗というより可愛いだ。綺麗って言うのは16歳以上に通用するからだ。ごく稀に例外あり。


「可愛いよ」

「むぅ、綺麗じゃないの?」

「うん、綺麗だよ(服が)」

「そっか、綺麗かぁ(僕が)」


アリアがちょっと顔を赤くして、僕の顔を見る。どうしたのかな……?


「惚れた?」

「NO!」

「そんなはっきりと言わなくても良いじゃん!?」


何故か悲しそうだ。僕にどうして欲しいんだ……


「褒めてくれても良いじゃん」


褒めるのと惚れるってのは別ベクトルなのが分かっているのかこの子は……呆れつつ


「ホレタホレタ、チョウキレイ」

「えへへ、そう?」


嬉しそうにくるくる回転しているアリア。しかしその頭の上にはひよちゃんが。ひよこになったひよちゃんが。幼体に戻るけどステータスはそのままらしい。だけどレベルが高いため、この姿から変更はできない、そう思っていると


「わ」


前の《ブリザードフェニックス》の姿になった。そして飛び、地下に向かっていった。驚いていると


「何で攻め込まないのよ……」

「口説け……口説くのよ!」

「頑張れシン……応援しているから!」


扉の向こうから不穏な気配を感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る