第126話
「みなさん、宿題を提出してくださいね」
三々五々の返事を聞きつつ、窓の外を眺める。まだ青々とした木の葉を見ていると
「二階堂さん、次だよ」
「あ、はい」
回ってきたノートに自分のを載せて前の人に渡す。窓際の席は外が見れて良い。
ちなみに男子生徒からは窓の外を眺めているアリアが絵画風という評価をされている。決して綺麗という評価は無く、可愛いである。
「それでは2学期の学級委員を決めたいんだけど……誰か、してくれる人いる?」
「アリアを推薦します!」
「二階堂さんを?」
「はい。アリアは意見を聞いて最善を尽くすので良いと思いました」
「……他はいませんか? ……いませんね、二階堂さん」
あ、葉っぱが落ちた。うーん、自然が残っているねぇ。
「二階堂さん、聞いていますか?」
「センセ、アリア多分聞いてない」
「……二階堂さん」
ぽみゅっ⁉︎ 頭の上に手が載せられた。びっくりして椅子から落ちそうになる。
「なんですか?」
「やりますか? やりませんか?」
「え」
何を?
「アリアなら出来るから!」
「きり……ならやります」
「では女子の学級委員は二階堂さんですね」
ちょっ⁉︎ なんで⁉︎
*****
「きーりー!」
「ふふふ、なんだね」
「私を学級委員に推薦したんだってね」
「ほほう、証拠はあるのかね?」
むぅ、しらばっくれる気か。そう思いながら下駄箱前を歩いていると
「二階堂さん!」
「むぃ?」
「ん?」
聞き覚えのない爽やかな男の声に振り向くとこれまた知らない爽やかな顔が。そして
「俺のラブレターの答えが聞きたいんだ」
「……」
アレかぁ。夏休み最後に発掘された誰かから私へのラブレター。名前は忘れた。
「……ごめんなさい、まだそういうの考えた事が無くて……」
恙無く逃げようとしたら
「それって脈ありなのかな?」
爽やかボーイの言葉にどうしたものか、と思いながらきりを見るとニヤニヤしている。助けて。
「……」
「友だちから、お願いしても良いかな?」
「……」
こいつめんどくせぇ。私が乗り気じゃないのは見て分かるでしょ……もぅ。
「その辺にしておくと良い」
「むぅ?」
新手か、と思ってそっちに顔を向けると
「や、アリア」
「ツゲオ……なんでここに?」
「そりゃ同じ学校だからだよ」
「マジで⁉︎」
「マジマジ」
ツゲオの言葉に驚いていると
「アリア、さっさと行くよ」
ムッとした顔のきりが。
「あ、うん。それじゃツゲオもまたね」
「うん」
「そっちも」
言うだけ言って坂道を降りる。すると
「アリア、江利先輩と知り合いなの?」
「うん」
「どういう関係?」
「ん?」
どうしてきりはここまで突っ込むのかな?
「ツゲオは向こうでバイトしているからね」
「え」
「シンだよ」
「……えー? マジで?」
「うん」
*****
「で、なんで私を部屋に連れて来たの?」
「うん。ちょっとあの知らない人の名前を忘れたからもらったラブレターを探しているの」
「えーっと、確か先輩だったと思うよ」
へぇ、と思いながら探していると
「あ」
「出て来たね……見ても良い?」
「うん」
アリアに許可をもらって手紙を開く。
「……ふーん」
「シンプルでしょ」
「うん」
好きだ、との一言に若干戸惑いつつ
「……八咫先輩かぁ」
「ヤタガラス?」
「ううん。八咫優也って書いてある」
珍しい苗字だなー、と思いながら
「アリアは応えてあげないの?」
「……うん」
「そっか。好きな人でもいるの?」
……ちょっと待って。なにその顔。頬を赤くしているのに無表情って。
「……うん」
「え」
「きりが聞いたんじゃん」
「意外だった」
「……ん、好きって言うか……気になるって言うか……」
「……そうなんだ」
羨ましい。好きな人がいるんだ。
「誰なの?」
「…………言わない」
「えー? ここまで来て言わないの?」
「……恥ずかしいんだもん」
思わずまじまじとその顔を眺めてしまった。真っ赤だ。思春期か……思春期か。
それにしても顔を赤くして恥ずかしがっているのが凄く可愛い。直美が、マモンが可愛いって言っている意味が分かった気がする。
「とりあえずきり、帰ってよ」
「うーん、別に良いけど……明日、大丈夫?」
「え?」
「学校中の女の子に総スカンを食らうかもしれないよ」
一応対策はしとくけど。
*****
「眠……」
ふぁぁ……眠ろうかな。そう思った瞬間
「ちょっと二階堂さん、時間良い?」
「んー? 良いけど何?」
「着いて来て」
昨日遅くまでログインしていたから眠い……そのまま廊下を歩いて階段を降りて靴を履き替えて校舎の裏に……
「何の用なの?」
「……昨日の八咫先輩とどういう関係なの?」
「え」
「惚けないで!」
囲まれている。そう気づいた瞬間、体を押されて校舎の壁際に追い詰められた。
「……どういう関係でもないよ」
「嘘を吐くな!」
何か投げられた。当たらなかったけど……怖かった。
「さっさと言って!」
金切り声。もう言ったのに……ヒステリックな奴らだなぁ。ため息が出た。すると
「っ!?」
蹴られた。痛い。だけど脛を蹴ったから向こうも痛そうだ。ざまあみろ。
「吐け!」
「……何を?」
「関係をよ!」
「だからどんな関係でもないってば」
また、蹴られそうになった。ギリギリで避けて
「なに避けているのよ!」
顔に向かって手が伸びてきた。避けようとしたら
「避けないで!」
「ん」
っつぅ……痛いなぁ、もう。しかも鼻から血が出てるし……
「なんなのさ、きり」
「うん、たまたま動画を取っていたら一人の女生徒を集団で囲んでリンチまがいの事をしていたからね。殴られてくれたほうが先生達も動きやすいでしょ」
「そのために痛い目に遭ったんだけど」
文句を言いつつ、立ち上がる。埃を払って
「それで? センセたちは?」
「今から呼んで来るよ。だからこの場は任せますね、先輩」
きりはそう言って校舎の中に消えて行った。そして入れ違いのように出てきたカーマインの長髪を靡かせる美人。シェリ姉だ。
「校内での虐めがあるかも、と言われてきましたが……そうですね、二階堂さんは保健室へ。他の生徒は先生たちが来るまで待機しなさい」
冷たい声が僕たちを凍てつかせる。動けない。
「二階堂さん?」
「あ、はい」
包囲網を抜けてシェリ姉とすれ違う。その瞬間
「遅れてごめんね」
そう、聞こえた。
*****
「鼻血が出ているなら動かないの。そのまま顔を上に向けてしばらく休んでいなさい」
「はい」
「五限目は休みなさい。六限目は……今日は無いわね」
「はい」
「明日はテストだから早退かここで勉強しても良いわよ」
うげーっと思いつつ、保健室で休んでいると
「やっほ、大丈夫?」
「殴られたのが地味に痛いよ」
「んー、そうだね」
「きりもどうして止めたのさ」
「それはあいつらを停学にするため」
「え?」
「集団リンチまがいだからね、どこまで酷いかはともかく文字だけなら重いし」
「殴られた意味は?」
「殴られる瞬間を撮って先生たちに見せたからね。最低でも停学になるでしょ」
そう言ってきりは笑った。自分でやってよ……私、殴られ損じゃん。
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