第127話
「アリア、装備の依頼あるわよ」
「ほいほい。素材は?」
「《アストライアー》の。アリアも素材使わないの?」
「あー、うん。なんか今はまだ良いかなーって思って」
レヴィに応えつつ、依頼リストに目を通す。素材持ち込みじゃないと予約は出来ない制度にしたけど何の問題も無さそうだ。目の前で作った方が良いらしいし。
「ま、アリアはその羽衣で十分ね」
「うん」
なんと防御力だけでなく、全ステータスが高くなるという。さらには特殊スキル《アストライアーの加護》、これは遠距離からの攻撃の命中率を下げるという近距離プレイヤーに限らず全プレイヤーにとって良い装備だろう。可愛いし。
「ん、とりあえずこっちこっち」
依頼人を鍛治部屋に連れ込んで
「系統や見た目、ステータスに料金とか細かく設定してくれても良いよ?」
「可愛い装備が良いな」
「……僕のアイデアに頼るのはやめた方が良い。jpgファイル無いの?」
たまにこういった客が現れるけど大体順調だ。
*****
「む」
シンがログインした。そして
「アリア、ちょっと良い?」
「……うん」
「顔赤いけど大丈夫?」
「……うん、気にしないで」
シンは少し気遣うように
「昼休みの、大丈夫だったの?」
「え」
知っているの?
「噂はすぐに広まるからね……大丈夫だった?」
「あ、うん。一回殴られたけどね」
「……大丈夫じゃないよ、それは」
「そうかな?」
「アリアは可愛い女の子なのにね、そんな事があったらダメなんだよ」
こやつ、女の世界を知らんな。
「気にかけてくれたのは嬉しいけどね、大丈夫だよ。ありがと」
「あ……」
シンが躊躇うように辺りを見回して
「1人での登下校が怖かったら僕や……あの時の友だちとかシェリルを頼るんだよ?」
「うん」
あ
「ねぇ、シン」
「なに?」
「彼女いる?」
ぶぅっ、と噴き出した。
「いないよ⁉︎」
「なら僕の彼女になってよ」
「え、僕が?」
「うん」
「アリア、男だったの?」
「ぶん殴るよ」
シンが苦笑している。僕、何か間違えたかな?
「アリアの彼女にはなれないよ。僕は男だからね」
「そりゃそうだよ。何言ってるのさ」
「え、僕が悪いの?」
「それで? 僕の彼氏になれるの?」
きょとん、とした表情だ。そんなに驚く事無いじゃん。
「……自意識過剰みたいだけどさ」
「うん」
「アリアは……その、僕が好きなの?」
「分からないんだ」
本当に、分からないんだ……
「好きなのか分からないんだ」
「……そっか」
*****
告白なのか分からないけど……嬉しかった。
「アリア」
「……ん」
「好きじゃない人にそう言うのを言っちゃダメだよ」
「むぅ」
アリアは頬を膨らませて
「好きかもって思えるくらいには好きなの」
「……」
なんだろうね……少し、嬉しいって思った。だけど
「僕で良いの?」
「シンが……ツゲオが良いの」
「っ……まったく」
頭に手を伸ばしてみる。きょとん、と手を見つめるアリア。そのまま手を伸ばして頭に載せてみる。疑問の表情だ。
「あ……」
「ごめん」
頭を撫でると驚かれたので止める。すると
「え、なんで止めるの?」
「……続けたほうが良かった?」
「うん」
えへへ~、と上機嫌に笑うアリア。その顔は凄く……可愛い。
(いやいやいやいや!? ちょっと待ってちょっと待って!? アリアは年下だ!? なんで僕は……)
「シン?」
「え」
「大丈夫? 凄い悩んでいるみたいだけど」
「……うーん、そうかもね」
手を頭から下ろし……ふと気配が。咄嗟に扉を開けると
「マモンとエミリア……何しているの?」
覗き二人が所在無さげな表情で笑った。それにため息を吐いて
「何しているの?」
「あ、あはは……」
「シンとアリアの会話がたまたま聞こえてたまたまマモンがやって来てたまたまずっとここにいてたまたまずっと聞き続けちゃっただけよ」
「……お姉ちゃん」
「なに?」
「誤魔化す気無いでしょ」
「うん」
アリアがあはは、と笑って……僕の手を取った。そして
「そう言うわけだから僕たち、付き合うことになったから」
「おめでとー!」
「おめでとう」
ありがとう、と応えるのもおかしい気がした。すると
「それはこっちだけで?」
「ううん、リアルでも。同じ学校だし」
ちょっと驚く。学校でもそれを貫く……いや、そうか。そっちか。
「学校でちょっと色々あってね、アリアを守れる立場がいるからさ」
「へぇ」
「ふむ……」
「守って……くれるの?」
何その上目遣い……可愛いじゃん。
「僕を守ってくれるって言うの?」
「……彼氏だからね」
「「ヒューヒュー」」
二人の外野のせいで台無しだった。
*****
「アリアちゃん、江利くん来てるけど何かしたの?」
「江利……ツゲオ?」
「うん。知り合いだったの?」
ふふん、
「私の彼氏」
「へぇ。門の前で待っているから早くしなさいよ」
「うん!」
さっさと着替えてカバンを持つ。
「行って来ます!」
「「はーい」」
シェリ姉とお母さんの声を背中で聞きながら家を出る。そして
「おはよー!」
「おはよう。元気だね」
「うん。ツゲオはそうじゃないみたいだけどね」
「今日プールの授業あるし」
「あー、なるほどね。確かにやる気でないよね」
一緒に並んで通学路を歩く。
「初めてだなぁ」
「なにが?」
「好きな人と一緒に学校に行くの」
「……そっか」
困ったように笑われた。うーん、やっぱり僕と付き合うのは嫌だったのかな……
「僕も初めてだよ。こうやって彼女と一緒に学校に行くの」
むぅ。ニマニマしちゃったじゃん。嬉し過ぎて……さ。
「ツゲオ」
「なに?」
「す……お昼ご飯、一緒に食べよ」
「分かったよ」
さすがにまだ、正面から好きとは言えなかった。
昨日、ログアウトした時から何かが変だ。ツゲオと一緒にいたくて顔が見たくて頭を撫でて欲しくて……どんどんそんな気持ちがあふれ出してくる。とめどなく、流れ出してくる。
「迎えに行くよ」
「ありがと……良いの?」
「一人で食べるのと大差無いし」
ふーん、と思いながら校門を潜る。時間には余裕がある。だからのんびりと歩いて行ける。
「おはよー」
「おはよう」
「その子誰?」
「僕の……彼女」
少し照れながらツゲオは言った。そして話している多分上級生は僕を見て……笑った。
「可愛い子ね。何年生?」
「一年生です」
「ふーん。それじゃ、また後でね」
そう言ってその先輩は走って行った。
「人気なんだね」
「そうかな?」
「そうだよ」
一緒に昇降口まで着いて靴を履き替えて階段を上り、途中で分かれる。そのまま教室に入ると
「……あれ?」
人数が少ない。それも女の子だけ少ない。
「何があったのかな……?」
「あの場にいた女生徒全員が2日の停学だよ」
「きり……あの時録画していたって言ったよね」
「うん」
「いつから見てたの?」
「最初から。だからまずシェリルさんにメールを送って録画を開始したの」
呆れた。つくづくきりの思い通りになったみたいで。
「次にこんなことになったら教えてよ。後殴られる前に止めてよ」
「はいはい」
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