第128話
「それでね、それでね!」
「はいはい。もう聞き飽きたから仕事をしなさい」
アリアが五月蝿い。どうも私がいない間にシンと、ツゲオと彼氏彼女関係になっていたらしい。しかもイチャイチャしているらしい。
……アリアは彼氏が出来たのに私は……流沙……
「あ、こんばんわ」
「こんばんわ、シン」
「アリアも」
「こんばんわー!」
アリアがシンに飛びかかる。シンは避けようとし、一瞬で考えを改めてアリアを抱きとめた。
「はいはい。落ち着いて」
「うん!」
その姿はまるで彼氏彼女の関係というよりは父親と娘のような関係だ。嫉妬して損した気分。
*****
「シン、とりあえず座りなさい」
「……はぁ」
言われた通りに座り
「どうしたの、レヴィ」
「アリアと彼氏彼女の関係になったってね。それに関してはおめでとうと言わせてもらうわ」
どうも、と言いつつ何故呼び出されたのか……そこが気になる。
「でもね、アリアはシンを……なんて言うのかしらね、父親と接するような感じなのよね。分かる?」
「なんとなくなら」
彼氏彼女と言うよりは懐かれている感じだ。だけど
「それが?」
「アリアに真っ当な恋愛の知識をつけてあげて。それとキスまでなら許す」
「……アリアの親か何かなの?」
「アリアにそういったのをレクチャーしたのは私たちよ。全員がアリアを娘や妹のように思っているわ」
……仲が良いんだ。それだけじゃ説明出来なさそうな関係だけど……
「お願い、アリアの頭を撫でたくなるのも分かるけど、分かるけどそんな父親みたいな事だけじゃなくて……彼氏っぽい事をしてあげて欲しいの」
「……弁当を作ってあげるとか?」
「逆よ。アリアは料理が下手って言ってたけど、シェリルは結構やるようになったって言ってたわ」
そうなんだ、と驚こうとした瞬間、
「話は聞かせてもらった!」
「アリア、仕事は?」
「やってない!」
「やりなさい」
「はーい」
一瞬で現れて一瞬で消えたアリアに苦笑していると
「アリアは多分シンが好き。それはリアルも、よ」
「……」
「でもシンはアリアの事が好きなの?」
「……好きだよ」
「どれくらい?」
「……言葉に出来ないくらい」
本心だ。するとレヴィはキョトン、として……微笑んだ。
「うちの妹、泣かせたらただじゃ置かないからね」
「分かってます」
*****
「羽衣のレベル上げに来たんだけどなぁ……」
最初期段階のアリ一体すら見つからない。そう思っていると
「あ、アリア」
「マリア……何しているの?」
「エストックのレベル上げですよ」
そう言いながら突きでアリを全損させた。
「せっかくだからパーティ組まない?」
「え、良いの?」
「二人のほうが効率的だからね」
マリアの言葉に頷いて……一応レグルスも装備しておく。
「このあたりのアリを狩って……そうだね、100まで狩ろうか」
頷いて同時に地面を蹴る。そのまま左右に分かれてアリに斬りつける。蹴って斬って殴って踏んで、アリの体力を全損させる。だけど
「さっ!」
蹴って倒して……ふと気づく。《羽衣》のレベルが上がっている。それは良いけど
「ステータスも強化されているのか……」
加護だけじゃないんだ。そう思いながら踵落としで潰す。
「……」
なんだか寂しいと思いながら次々と倒して行き……
「100、次はどうする?」
「そうだね……」
成長ツリーを眺めていると
「……ここ、スキルがあるよね」
「あ、あるね」
「これ解放しない?」
「そうだね」
対象は《ヴォルケイノドラゴン》、懐かしい相手だ。向こうからしてみればどう足掻いても絶望なんだろうけどね。
「お願い、ひよちゃん」
『ちぃ!』
ひよこ状態のひよちゃんが翼を広げて……光に包まれた。そして巨鳥になったひよちゃんに乗る。
「マリアも」
「あ、はい」
ひよちゃんが飛翔する。景色が物凄い速度で遠ざかって行き……火山の煙が見えた。そして飛んでいる《ヴォルケイノドラゴン》が。
「ひよちゃん、列の最後に降ろして」
『ちぃ!』
地面に降りて列の最後に並ぶ。ひよちゃんはひよこに戻って僕の頭の上に乗っている。可愛い。
「中々並んでいるね」
「そりゃ200くらいのプレイヤーにとってはこれに勝つのが目標ってのも少なくないからね」
「へぇ……じゃあここが関門みたいなんだね」
「かもね」
僕の言葉にマリアが頷いていると
「あ、パーティが全滅した」
「次のパーティが入って行くね……ここってどういう制度なのかな? 勝ったらそのまま連戦も出来るのかな?」
「三体までならね」
「知っているの?」
「カーマインブラックスミスでバイトを始めた直後に来たことがあるから」
そうなんだ、と思いながら待っていると
「パーティ組みませんか?」
「え」
「僕たちと?」
「はい」
そう言って微笑む優しそうな女性……誰?
「良いけどさ……」
「アリアが良いなら僕も構わないよ」
パーティ申請を受け取り、差出者の名前を確認する。アリスwithテレス……えっと……
「アリストテレス……か」
「ご明察です」
「……」
何をした人なのか知らない。だから無視していると
「作戦を立てたいんですけど良いですか?」
「え」
「いるの?」
「いりますよ!?」
マリアの言葉に驚いているアリス。そして
「お二人のレベルを知らないので遊撃という姿勢を取ってもらっても良いですか?」
「君の装備は……鞭かぁ。それと剣士一人に魔法使いとヒーラー、バランスの取れたパーティだね」
「はい」
「だけど僕たちが遊撃かぁ」
何回斬ったら終わるんだろうか。そもそもひよちゃん一人でも勝てるんだし……とりあえず、手を抜くかな。
「マリア」
「うん」
意思疎通をこなし、武器を変える。200ゾーンが持っているような性能のが無い……とりあえず800ゾーンにしておこう。一番弱いし。
「作戦通りにお願いします!」
「はい」
「はーい」
マリアに続いてのんびりと歩く。《ヴォルケイノドラゴン》がリポップするのは火口だ。そしてここの塒に戻ってくる。黒い影がマリアを覆う。
「マリアさん!?」
「っさぁっ!」
鋭い呼気とともに真上への突き。それは《ヴォルケイノドラゴン》のお腹を貫いた。そして連続して墜落した《ヴォルケイノドラゴン》に斬りつける。体力がゴリゴリ減っていく。
「っと」
ぼさっと見ているなんて出来ない。全力で駆け出して顔面を真下から蹴り上げる。そのまま宙返りしつつ蹴る。さらに《羽衣》に羽を生やして一瞬だけ滞空。そして踵落とし。
「《ライトニングペトネレイト》!」
雷のような高速の突きが《ヴォルケイノドラゴン》を全損させた。
「アリア、何体だっけ?」
「んー?」
「何体狩れば良いんだっけ?」
「100だよ」
僕の言葉にマリアはやれやれ、と呟く。そして
「アリアさん……あなたたちは一体何者なんですか?」
「「え?」」
「とても私たちと同じレベルゾーンとは思えません!」
顔を見合わせて
「何者って言われてもね……」
「カーマインブラックスミスの従業員だよ」
当たり障りの無い答えを言うと
「あのカーマインブラックスミスのですか!?」
どの?
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