第124話

「っし」

「やった!」

「むぅ」


僕はとりあえずマモンに手を振って


「マリア、お疲れー」

「ん、アリアもお疲れ」

「まさかマリアがあんなに強くなっているなんて気付かなかったよ」

「籠手の矢を使っていないしまだまだ余裕はあるよ」


そう言うマリア。実際その通りだろう。


「相手が妙に人間臭かったからなんとか勝てたよ」

「あ」


中の人がいたって言おうか迷う。すると


「あ」

「お」


目の前に表示されたのはレグルスの時と同じ、アイテムだ。《アストライアー》、知らない名前だ。


「アリアちゃーん!」

「っと」


上から降って来たマモンを避ける。途中で降りてたのにまた上ったの?


「やったね、マリアも!」

「そうだね」

「これでマリアもトッププレイヤーかな?」

「え⁉︎」


驚いたマリアの背後からアジアンが忍び寄り……目を塞いだ。


「ふぁっ⁉︎」

「おめでとう!」

「その声……アジアン?」

「アジアンって誰よ、他の女?」

「え⁉︎」


多少声を変にして、アジアンが言うとマリアが過剰な反応をする。


「……ちょっと待って。まさかマリア浮気しているのそうなのどうなの何か言ってみなさいよ!」

「ちょ、落ち着いてよ」

「これが落ち着いていられるの?」


そうは言ってるけど落ち着いているじゃん。とりあえずメニューを開いてアイテム欄の《アストライアー》をタップ。前と同じように選択肢が現れる。


「……うーん」


《真天アスタリスクハンマー》は一線級の武器だから良いし《真炎龍の天魔剣》と《真風龍の天魔剣》もそうだ。つまり選ぶのは武器じゃない!


「アクセサリー……靴……服?」


服は《裁縫》スキルで作るけど……まだ性能はあんまりよくない。だから選ぼうとしたけど


「え?」

「どうしたの?」

「うん……この装備、鎧とか全部統合した見た目になるんだって」

「つまり?」

「こんな堅苦しい鎧じゃなくてキューティでプリティな装備が着れるんだぜ!」

「……リアルだと地味な服を好むのにね」


マモンが何か呟いたけど聞こえなかった。とりあえず無視して……ホワォ⁉︎ デザインは後からでも変えられるの⁉︎


「っし」

「ん、決めたの?」

「服」

「「は?」」

「服」

「「……」」


2人が黙っちゃった。


「……僕はエストックで」

「私は……んー、眼鏡かな」

「眼鏡?」

「dex補正があるから命中精度が上がるもん」

「十分高いと思うんだけどね」


《アストライアーの羽衣》を装備する。イメージはこの前亜美たちと買った長い深緑色のスカートに薄緑色のワンピース。


「どう? 似合う?」

「アリアちゃん、結婚して」

「マモン⁉︎」

「マリアも可愛いと思うわよね!」

「え⁉︎」


マモンがはぁはぁ、言いながら迫る。若干怖くなり、駆け出すと何かにぶつかってこけちゃった。


「わっぷ」

「うわ⁉︎」

「あたた……」


実際には痛くないのについつい口走ってしまう。あんまり熱くないのに触れて思わず「アトゥイ」と言うような感じだ。


「もー! 誰なのさ!」

「私よ……降りて」


エミリアの上からどくと


「可愛い!」


との叫びが。そしてぎゅーって抱き着かれて


「私の妹にならない? あ、義妹にならない?」


なんで言い直したのか分からないけどとりあえず首を横に振ると


「アリアちゃんは私のお婿さんなの」

「マモンは女のままなんだ」

「そうよ」


よく分からないけど取り合いが始まった。


*****


「ねぇ、マモン」

「なーにー?」

「どうして弓を選ばなかったの?」


それを聞くとマモンが微笑んで僕の頭を撫でた。


「アリアちゃんが作ってくれた《真にゃんにゃんボウ》があるからね」

「むぅ、性能は段違いだと思うんだけどね?」

「そんな事言わないの。仮想の虚構のデータよりも大事にしたい物なの」


なんでか分かんないけど嬉しくなった。すると


「《アストライアー》は女神の名前……乙女座の神話の説の一つだって」

「え」

「アスモ情報だから間違いないと思うよ」


もうちょっと余韻に浸っていたかったなー、と思いながら


「ふーん」


と、頷く。


「……ねぇ、マモン」

「なに?」

「好きな人ってどうやったらできるの?」


派手な音が聞こえたので顔を向けるとマモンが椅子から落ちていた。もぅ、何しているのさ。


「……好きな人の作り方って事?」

「うん」

「……なんでいきなり?」

「この前部屋を掃除していたらなんかラブレターっぽいのが出てきたの」

「……誰宛の?」

「僕」


マモンが黙った。何で?


「いつの?」

「分からない」


マモンが呆れたようにため息を吐いて


「好きな子、好きな子ねぇ……考えてみると私にもいないなぁ」

「流沙とかどう? 身近でしょ?」

「……うーん、流沙かぁ……言っちゃ悪いけどバレバレなんだよね」


え、と驚くと


「流沙もベルもなーんか私に気を遣っているし……なんとなくだけど分かっちゃったんだ」

「……それじゃあ……?」

「教えない。この気持ちは私だけの気持ちなんだから」


マモンは微笑んで


「それでも私は停滞を望む」

「……あっそ」


苦笑してこの話題を止める。


「それよりも好きな人の作り方を教えて」

「そうね、好きって思えるようになれば良いんじゃないかな?」

「それが出来ないんだけどさ」

「……うーん」


マモンが少し悩んで


「シンとかどう? 意外にリアルでもカッコ良かったし」

「意外……」


ちょっとだけ呆れていると


「ただいまー」

「っと、当人かぁ」

「え?」


シンが驚いている。まぁ、そうだよね。


「何の話なの?」

「アリアの恋愛相談」

「ほぅ」


シンが興味深々って顔をしているけど


「アリアとシンが付き合っちゃえば良いのにね」

「「は!?」」


2人で同時に驚いた。しかし


「ま、お似合いとは思うわね」

「レヴィまでそんなことを……!?」

「私も思うわよ」

「お姉ちゃん!?」


四面楚歌……三面楚歌だ。慌てて逃げ出そうとすると


「あふん」


思いの外高く跳び過ぎて天井に激突。そして誰かとぶつかって唇に柔らかい感触。まさか……!?


「アリアちゃん……積極的」

「マモンとアリア……どっちが攻め?」

「アリアが攻めているのに途中から逆転じゃない?」


ダメだこいつら。そう思いながらマモンから降りる……つもりが抱きしめられ


「やっぱりアリアちゃんは私が貰うわ」

「ええ!?」

「シェリルと結婚したら義妹になるわね」

「ナイスレヴィ!」


ダメだこいつら、マジでダメだ。


*****


「くちゅん!」

「あれー? シェリ姉、風邪引いたの?」

「うーん、熱は無いなぁ」


誰かが噂でもしているのかな、と思いつつ


「ほら、これで大丈夫なはず」

「ありがとー」


算数の宿題の解き方を軽く纏めてエミに渡す。どうもデータで渡すより紙を挟む方が記録保存性が高いと思う。個人的な主観だけど。


「とりあえず……うーん」


最近ソーニョばっかりで明日から学校って実感が無い。そう言えばアリアちゃんが誰かと戦うって言っていたような……

そう思っているとアリアちゃんの部屋から物音が。なんとなく覗いてみると変な顔のアリアちゃんが。


「どうしたの?」

「マモンとキスしちゃったの……」

「は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る