第123話
「遠距離殺しね……もう」
刀をいつでも抜けるようにして、ヴァルゴの斜め右後ろから接近し
「《居合い・羅刹》」
ダメージを確実に稼ぐ。すでに五千万まで少しだ。だからこそ、怖い。半分を割った瞬間に何か起きるのは確実なのだから。
そう、そろそろ慎重にならざるを得ないのだ。得ないはすなのだ。なのに
「あの子たちは……」
馬鹿な弟と義妹(予定)が躊躇無く正面から攻撃を仕掛けている。もはや呆れて笑いが止まらない。
「っ!」
そう思った瞬間、半分を割った。そして……
「スカートの中が見えないだと⁉︎」
「鉄壁……か」
「まだだ! 諦めるな!」
「我ら、紳士同盟は屈しない!」
自重しろ変態ども、と思いつつ足に潰されないように駆ける。トッフスピードに乗る前に振り向き、踵で急ブレーキをかける。そのまま
「《居合い・瞬刃》!」
飛ぶ斬撃はヴァルゴの指先から放たれたミサイルっぽいのを斬り、爆散させた。
「女の子じゃなかったのね……」
「だりゃぁっ!」
「……あっちもあっちで女の子じゃないわね」
女を捨てているわあの子。スカートの中を堂々と晒しながらヴァルゴの体を駆け上がっている。あれ、下からしたら見上げると眼福じゃないの?
「なんにせよ……今の足踏み状態に近づくと振動に足を取られて潰されるかもね」
「だろうね」
「……えっと……セブンスドラゴニックライオネルソード?」
「おいっ⁉︎」
「そうだね。僕はその弟だけど」
サタンとルシファーと言葉を交わして
「今の、どう見る?」
「うーん」
「……近距離殺しかな。さっきは遠距離殺しだったし」
「パターンがあるわけだ……」
中の人の好みかもしれない、というのはこの際飲み込んで
「僕と兄さんが前に出る。手伝ってね」
「……分かった」
笑いながら駆け出した二人。その背後から慎重に着いて行く。
「やっ」
「そりゃっ」
二人が双刃剣を防御、逸らして懐に飛び込み、一撃離脱。そのまま
「《居合い・神薙ぎ》!」
あのヴァルゴの防御力は全体的に高い。だから使用スキルを間違えてしまった。
「《月天》!」
防御無視斬撃。ヴァルゴは一瞬だけ怯んだように見えたが
「っちぃっ!」
振り下ろされる双刃剣に弾かれ、地面を転がる。そのまま勢いのままに起き上がって距離を取ろうとする、と、肩に小さな感触が。するとその感触は一瞬強く肩を蹴ってヴァルゴに飛びかかって行った。
「アリア……」
驚きつつも体勢を立て直し、体力を見る。5割強。ポーションを使って回復した……けど。
「巨大化した女の子に潰されて嬉しそうな悲鳴を上げている……」
ため息を吐いていると
「へいへい、エミリア。何しているのさ?」
「あ、何しているの?」
「え」
サタンとルシファーが何故かまた近くにいた。
「大学生ならなんか作戦立ててくれよ」
「それとも無策で行くの?」
「……面白い挑発ね。なら二人が防御となりなさい。私がダメージ稼ぐから」
挑発には挑発で返す。すると二人は笑って……
「その挑発、乗るよ」
「面白いからね」
同時に二人が駆け出した。さっきまでとは速度が段違いだ。さっきまでは手加減していたと、そういうことなのね。
「っし!」
振り下ろされる双刃剣の隙間に飛び込んで内側から双刃剣を弾く槍。その隙間に飛び込んで剣を振るい、さらに隙間を拡張する二人。なるほどね。
「《雷閃》!」
突きスキルの中級。雷光がごとく煌く突きはヴァルゴの左太ももを刺し貫いた。
「離脱!」
「「はい!」」
とりあえず
「邪魔をするな!」
「ええ!?」
アリアにまた踏みつけられた。何なのよあの子……
「《スターダストスプラッシュ》!」
水飛沫のように上がる星屑がヴァルゴの体を切り裂く。しかし
「普通に地面に降りなさいよ!」
プレイヤーの上をぴょんぴょん跳ねながらヴァルゴをどんどん斬りつけて行っている。
「アリアに負けていられないわね!」
「……アリアに勝とうと思うと絶望すると思うんだけどさ」
「同じく」
「そうなの?」
「うん、今のアリアは魔王に言われて手を抜いているから」
「え」
どう見てもそうには見えない……ううん、結晶の塔でのあの動きと比べると明らかに見劣りする。だけどそれでも手を抜いているようには見えない。
「とりあえず行くわよ!」
「了解!」
「はいよ」
2人に付随して駆けていると
「お姉ちゃん!」
「シン! 手伝いなさい!」
「分かってるよ!」
シンの剣がヴァルゴの双刃剣を受け止め、弾き上げる。その隙間に突っ込もうとした瞬間
『《ウォール》』
地面に刺されたもう片方の双刃剣が幅広くなり、ヴァルゴへの道を阻む。サタンの剣が切りつけるが
「……ダメだ、硬い」
「回り込まないとね」
ルシファーの言葉にサタンが頷く。すると
「総員引きなさい!」
「危ないよー!」
マモンとレヴィの声が。躊躇う暇も無く下がると
「《エレメンタルブラスト》4096!」
極彩色の光が上空から降り注ぐ。それは壁の内側に入り込む。そして爆発を起こした。
「「「やったか!?」」」
フラグ建築士たちの言葉に苦笑しつつ回り込む。しかし
「壁が広い!」
「っ!」
シンの斬撃が双刃剣の壁を斬りつける。傷一つ付かない……そう思った瞬間
「まずは双刃剣を破壊して! 耐久は半分も無いから!」
「《スターダストスプラッシュ》!」
「《イリーガルスラッシュ》!」
「《ブリューナク》!」
「っ、《居合い・羅刹》!」
アリアの言葉に頷きつつ一気にスキルを放つ。すると壁が一瞬揺れた。そのまま連続して斬りつけていると
「割るよ! 《
宙を舞うアリアの手の剣が炎と風に包まれた。そして壁に向けて振り下ろされ……耳障りな音を立てて割れた。
「残り3000万……!」」
アリアのスキルでもない一振りで5桁が吹き飛んでいく。なんなのよホントに……
「《エンドアルカナム》! からの《ラグナロク》!」
高速の連続切りからの無数の光弾が。そして
「《ソーンウィップ》!」
「《ライトニングピアース》!」
バイト仲間の声が聞こえる。それに少しだけ笑っていると
『《エクスプロージョン》』
驚きの声を上げる隙も無く……吹き飛ばされた。
*****
「くっ」
みんなが吹き飛ばされる。咄嗟に足元に投げた《鳥もち》で吹き飛ばないようにしつつ、《鳥もち剥がし》とポーションを握る。爆風を何とか耐えて足元に纏めて叩きつけた。体力満タンまで回復して……顔を上げるとヴァルゴが目の前にいた。
「危な!?」
蹴りを避けて《鳥もち》を4本纏めて抜く。もう片方の手で《濃麻痺煙》を。
踏み付けをギリギリで避け、体重がかかった足に向けて《鳥もち》を投げつける。そのまま《濃麻痺煙》も投げつける。これで……!
ヴァルゴの動きが不自然に固まった。そしてその目が僕を見ている。まるで意思を持っているかのように。
「《液体鳥もち》と《爆弾》、それに《濃毒煙》だ。堪能してね」
エミリアの作ってくれた状態異常にかなりの耐性を持たせるアクセサリーのおかげで僕だけが自由に動け……
『戦闘面 アリア』
『援護面 マリアロージュ』
『救助面 マモン』
……マモン、上から何していたの?
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