第121話
「で、だ。いよいよ明日星獣が来るわけだ」
「魔王、作戦は無いのか?」
シンの言葉に魔王は頷く。呆れたシン。そして
「各自自由に行動してくれ。俺からは以上だ」
「……特に何も無さそうだし解散して良くね?」
「一つだけ……不安って言うか懸念があるよ」
僕はソファーから立ち上がって
「シンとエミリアに復讐しようとしている奴らがいる。そいつらが僕たちにいちゃもんをつけてくるかもしれないから」
「注意しろ、か。俺たちが恨みを買うのはいつもの事だ」
「恨みのバーゲンセールが多いんだよな」
アスモの言葉に苦笑して
「他に無いなら……解散!」
「お前が言うのかよ」
「えへへ」
前から魔王みたいにリーダーっぽくしてみたかったんだ。
*****
カーマインブラックスミスの朝は早い。
「おはよー」
「もう11時よ」
朝は店長による朝礼がある。
「いつも通りねー」
仕事は多い。
「僕のターン、ドロー!」
残業も多い。
「そろそろログアウトしたら?」
「今良いところだから待って! もう少しだけ!」
各自が雑談をする余裕も無い重要な仕事を任される。
「マリアー、今度の日曜日デート行こう」
「どこに行くの?」
「観たい映画があるの」
……
「そうアリアちゃんは思い込んでると思うの」
「「「ないない」」」
マモンの言葉を否定すると
「だってほら、朝礼……うん、朝の挨拶の時に無駄に無い胸張っているし」
「あんたが言うな」
「おぅ……だからそんなとこ見てると店長らしさを出そうとしているんじゃないかな?」
「一理ある……けど無いわね」
そう言ってレヴィはアリアを指差し
「アレがそんなのを考えると思うの?」
「……思えないね」
ルフのお腹で丸くなり、ひよちゃんを抱いて寝ているアリア。目は開いている。こっちの声は聞こえていないようだ。
「星獣の出現っていつだったっけ?」
「後30分後に最初の街の近辺で」
「はいはい。早目に行っとく?」
「ポーションの量産も自動化出来ましたしね」
僕が、《錬金術》を習得しているプレイヤーが脚で踏んでいるだけで汲み取り、蓋をする機械を武器を組み合わせて、創り上げたらしい。ちなみにみんな呆れていた。
「ポーションを作る素材とスキルだけで無限に精製出来るってチート臭いね」
「でもポーションは今4種類だし2人必要だから」
「だからアリアはしょっちゅう踏みながらデュエルしているのね」
雑談しながら仕事を大体終わらせて
「アリア、そろそろ行くわよ」
「はーい。ルフたちはお留守番ね」
『うぉん!』
『ちぃ!』
『ちゅう!』
うん、と満足そうに頷いたアリアは転移アイテムを取り出して
「最初の街へべぶっ」
天井に頭をぶつけて落下して来た。それ、前も見た。
「ベランダからじゃないとダメよ」
「うぅ……忘れてた」
ベランダに出てからアリアが転移する。それに続いて
「うわ、やっぱり賑わってる」
「マリアはギルドの子たちと一緒にやるんでしょ?」
「はい」
「それじゃあまた後で」
レヴィたちと別れ、周囲を見回していると
「あれが噂の《小道具師》か……」
「状況に応じて毒や麻痺にしてくる恐ろしい奴らしいぜ」
「目ぇ合わせたら襲われるらしいぜ」
「ひぃぃ」
心外だ。そう思っていると
「マリア!」
「トマト……みんなは?」
「アジアン以外いるぞ……っと、来たようだな」
視線の方を向くとアジアンが。手を振ると気づいたようで小走りになった。
「しかし一体どの星座が来るんだろうな」
「さぁ?」
開始20分前になってもその情報は明かされていなかった。
*****
「よぉ、アリア。今度は俺たちがMVPを取らせてもらうぜ?」
「やれるもんならやってみなよ」
ちなみに3項目の1項目でもMVPになれば星獣装備はもらえるらしい。そして一人が2項目以上をとっても一個しかもらえないらしい。
「つかアレだ、お前んとこってPKを勧誘している感じなのか?」
「ううん、たまたまだよ」
「にしちゃ強いPKが加わってんじゃんかよ……アビスはいないっぽいけど」
「アビスは今でも《シリアルキラーズ》らしいしどこかでまだやってるんじゃないかな?」
「シンとエアリミは?」
「もうしないって。したら僕がえいっ、てするから大丈夫だよ」
スカイは笑って……目を細くした。
「うちのメンバーも何人かやられた。報復には気をつけろって伝えてくれ」
「スカイはそれで良いの?」
「やられたほうが弱かっただけだろ」
そう言って白黒の鍵剣を抜いて
「来たぜ」
「ん」
空に大きな亀裂が生まれ、広がった。そしてそこから降ってきたのは……
「何だあれ……」
「……女の子?」
「女の子……乙女座か?」
亜美と同じくらいの身長の女の子は両手で一本の巨大な剣を握って
『《バスター》』
振り下ろした。そしてその軌道上のプレイヤーがダメージを受け、次々に全損していく。そして
「小さいって……やり辛いかもな」
「僕ならいけるさ」
戸惑うプレイヤーたちを飛び越えて前に出る。すると確かに今、僕を確認して笑った……ように見えた。
モンスター名『ヴァルゴ』……体力99,999,999? 約一億って……少なくない?
「っ!? 何もしていないのに!」
何故か僕を執拗に狙い始めたヴァルゴ。驚きながら高速で駆け回る。僕のほうが速い。それに被弾しても余裕がある。
だけどヴァルゴは僕だけに集中するかと思っていると背後のプレイヤーたちを薙ぎ払った。AIも進化したなぁ……優さんが何か言っていた気がするけど忘れちゃった。
「《スナイプ》」
「《ポイズン》《パラライズ》《スプレッドアロー》!」
上空から降り注ぐ弾丸と矢を器用に避けるヴァルゴ。プレイヤーのようにフェイントも入っている……けどぎこちない。あ、優さんは確か中の人って言っていた気がする。人間のような行動で良いんだ。
「っとと」
「《デスペラード》!」
シンの剣がヴァルゴを切り裂こうとするけど先端を地面に刺すようにした大剣に防がれた。
「ミスったか!?」
「いや、ナイスだ」
魔王のナイフ、《真スカーレット》が閃く。大剣に数回斬り付けて離れた。
「アリア、耐久はどれくらいだ!」
「大体1億」
「体力と武器の耐久が同じくらいか……」
魔王が呆れたように呟いた、瞬間ヴァルゴは振りかぶった大剣を投げた。
「っぐ!?」
咄嗟に跳んだ魔王の足を薙ぎ、背後のプレイヤーたちも切った大剣は地面に刺さって動きを止めた。それに驚いたのも束の間、
「何だこいつは!?」
「中の人がいるらしいよ!」
「マジか!?」
咄嗟に高く跳んだシンと僕は回避したけどスカイがぶっ飛ばされて、僕たちと同じくらいの高さに。
「ラグビーかよ!?」
「アメフトじゃない?」
肩からの体当たり、タックルはどっちにもあるなー、と思っていると
「嘘だー」
跳び上がって追撃を加えようとするヴァルゴ。やばい、全損するかも。そう思った瞬間、
「《グラビティバレット》!」
「《グラビティアロー》!」
二つの黒い線がヴァルゴに当たり、高度を落として攻撃を不発に終わらせた。
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