第120話

「要望、ねぇ」

「ありますか?」

「ひよちゃんたちを元に戻して欲しい」

「それは……検討しかねます」

「だろうね」


分かっていた事だ。だからため息を吐きつつオレンジジュースを飲む。


「亜美さんと柘雄さんは?」

「……ちょっとアクセサリーのデザインをイメージだけ、は嫌ね。常に構想があるわけじゃないもの。デザインの素材から構成できたりしない?」

「出来ると思います……が、アクセサリー精製はレア度最高峰のガチャ出現率零コンマ……いえ、デザインだけなら他の店売りスキルでも……?」

「あの?」

「亜美、優さんはいつもこんな感じだから」


亜美がえ? って顔をする。


「考え事に集中しているの。今は何を言っても無駄。すぐに戻ってくるし」

「……亜美さん、検討してみますね」

「ほらね?」

「うん」

「柘雄さんは?」

「……モンスターの強さのバランスがおかしい」

「と、言いますと?」

「僕は参加していなかったけどかつてのレグルス戦、あれを越えた人なら感じると思うけど《結晶の塔》の、弱過ぎたよ」


エミリアが《リンク》スキルを使ったのは焦ったかったから。結局最後以外特に危険は無かった。


「最後も最後で僕たちのデータをコピーして上書きしたんだろうけどさ、アリアが最強たる所以はそんなちゃちなものじゃないよ」

「では、なんと?」

「諦めず、挑み続けて、積み重ねる。それだけじゃない。もっと何か……絶対的なセンスがある」

「ではセンスが無ければ弱い、と?」

「いや。AI相手ならそれでも構わない。だけどPVPなら話は別だ。レグルスのようにワンパターンを繰り返してもアリアには一生勝てない」

「……貴重なご意見です」


優さんは一瞬躊躇って


「ここだけの話ですが……次の星獣は中の人がいます」

「「「え?」」」

「レグルスはあくまで試験。本来なら強過ぎる、などの情報が広まり、調整する予定でした。が、アリアさんが2度目の挑戦で倒してしまったので……」


顔を逸らすけど2人の責めるような視線を感じる。


「まぁ、テストでしたからね。それで今回はレグルス以上のステータスを持ち、さらに中の人がいるモンスターが相手です」

「誰?」

「教えません」

「ゾディアック……獣帯……十二宮……獅子座……うーん、予想出来ない」

「11分の一ですからね」


優さんはそっと微笑んで


「お腹が減ったらどうぞ、お好きなものを」

「じゃアップルパイ」

「アリア……」

「あのね、亜美。優さんはこんな優しそうな感じだけど企業勤め、その上人気MMOの運営だよ?」

「はい。たんまりお給料が入ってホクホクです」


一瞬で恨めしそうな表情になった2人。そして


「なら僕も何か頼もうかな」

「どうぞどうぞ。財布は気にしなくて良いですよ」

「それ言われるとメニュー全てって言いたくなるわね」

「お酒もありますよ? 大丈夫ですか?」

「……あんまり」


10分後


「本日は貴重なご意見をお聞かせくださり、誠にありがとうございました」

「こちらこそ」

「ありがとうございました」

「頑張ってね、優さん」

「はい。そちらも星獣に負けないよう、頑張ってください」


そう言って地下鉄の駅に消えて行く優さん。ふぅ、と一息吐いて


「それじゃ行こっか」

「うん」

「そうね。色々試さなくちゃ」


博多に友だちと行くなんて夢だったしね。直美や瑠璃だと姉というか保護者というか……うん、忘れよう。


「まずはアリアに可愛い服ね。柘がプレゼントしなさい」

「え?」

「え、これじゃダメ?」

「女の子が無地に妥協しないの。チェックとか色々あるでしょ?」

「むぅ、派手なのはあんまり好きじゃないんだけど」

「髪の毛鏡で見てみなさい」


窓ガラスに映ったのは


「カーマインだね」

「carmine、すっごい派手でしょ?」

「うん」

「アリアの服も派手にすれば派手じゃなくなるわよ」


ほう、それは凄い!


「なら行こー!」

「ちょろ……」

「柘も何か見繕わないとね」

「僕は良いよ」

「私も選ぶよ」

「全力で遠慮するよ」


むっ⁉︎


「どうしてさ」

「アリアのセンスが信じられない」

「戦闘センスは褒めていたのにね」

「それとこれは別」


怒っている。私はとーっても怒っている。なのに


「ほら、こんなのはどう?」

「……むぅ」

「そんな顔しないの。可愛い顔が台無しよ」

「……私より亜美の服を選べば良いじゃん」


薄い水色のシャツに濃い青の前開け上着(ブルゾンって言うらしい)を羽織り、ズボンは薄紺。ファッションを気にするのは亜美だけだよ……


「柘雄、もうちょっと穏やかな雰囲気のプリーズ」

「この真っ赤なのとか?」

「穏やかの意味をぐぐってみなよ」


呆れつつ亜美の選んだ服を試着していく。どうも選ぶのがスカートっぽいのが多い。


「深緑色のスカートに薄緑のワンピース、ねぇ」

「嫌?」

「なんだかこんなのは初めてだから不思議な感じ」


スカート翻して鏡を見てみると……普通の女の子が移っていた。踝まであるスカートなんて初めて履いたよ。


「似合う?」

「とっても。柘もそう思うでしょ?」

「……うん」


ぷいっ、て横を向いた柘雄。呆れているんだろうなぁ……でもこの服とスカート気に入っちゃった。


「亜美も何か着てみたら?」

「私よりも柘が先。あの子、全然服のバリュエーション無いから」

「……変なのはアリ?」

「多分このお店には無いと思う」


残念、と思いながら見回す。落ち着いた雰囲気の柘雄に似合うのは……


「明るくない色……ウーン」

「カーマインとか?」

「それも良いかもね」

「止めて」


結局灰色と黒のチェック模様の秋用の服を買ったようだ。試着すれば良かったのに……


*****


「でもアリア、それ結構高かったでしょ? 足りたの?」

「うん」

「2万くらいしていなかった? 値札見てマジビビッたんだけど」

「うん、19800だったね。でもそれくらいなら大丈夫だよ」


この子の金銭感覚が心配だ。


「一体どこからそのお金が?」

「んー? ちゃんと私が稼いだお金だよ」


正気を疑った……よし、


「今なんて?」

「私が稼いだお金だよ」


幻聴であって欲しかった。


「どうやって?」

「私たち、《魔王の傘下》や僕はその性質上テレビに出ることも多いからね。何度か出ているから使わないお金が溜まっていくんだよ」

「そういうものなの?」

「うん」


アリアが言うには次の星獣でも終わった後に出演依頼があるらしい。もっとも倒せたら、らしいけどね。


「久々の僕たち全員での戦いだ。精一杯やろー!」

「おー!」


アリアが手を上げたので乗ってみたら


「作戦ってあるのかな……」


ぼそり、と柘が。そしてそれに顔を逸らすアリア。


「……僕たち、作戦とか考えないから……」

「「え?」」

「下手に作戦とか立てるより個人で動くほうが強いから」


……言われてみれば私もそうだ。柘も。


「だからさ、いつも通り一人一人が勝手に動いて精一杯やるんだ」

「それってギルドの意味があるの?」

「……多分ね」


アリアの回答に不安しかなかった。


「僕たちならどこまでも行ける……ううん、どこまでも行ってやる。だって僕が、僕ら全員で最強なんだから」


道端で何を呟いているんだろう……この子……

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