第7話
「アリア、今日は私忙しくて一人でお昼お願い!」
手を合わせる朝日に
「良いから行ってらっしゃい。急ぐんでしょ?」
「それじゃ!」
朝日が駆けて行って先生に走るなと言われているのを眺めて
「私も食堂に行こうかな」
五分後
「うん、今日は定食にしようかな」
「あ、二階堂さん」
振り向くと……この前席良いかと聞いてきた三人組の一人だった。確かきりって呼ばれていたような。
「一緒にお昼しても良いですか?」
「……あの二人は?」
「えーっと……部活で忙しくて無理だって」
えへへ、と笑うきり。そして
「今日の定食は何ですかねー?」
「確かハンバーグ定食と野菜炒め定食」
「うーん、どっちにしよっかなー」
「私はハンバーグ定食にする」
「じゃ、私もそうしよっと」
そして食券を買ってテーブルに向かい合って座り
「いただきます」
「いただきます」
少し食べて
「二階堂さんって髪の毛凄い綺麗な色だけど地毛なの?」
「え?」
「そんなに真っ赤な髪の毛、リアルでは初めて見たんだ」
そうかな? 肩にかかる髪を指でクルクルして
「お母さんがヨーロッパ系の人でね、遺伝だよ」
「へぇぇ」
「シェリ姉もエミも髪の色は同じだよ」
「シェリ姉って3年の?」
「うん」
「そう言えば同じようなカーマインの髪の……毛……あれ?」
きりの目が驚愕に見開かれて
「二階堂さんの名前って……何かな?」
恐る恐る聞かれたので
「アリア、二階堂アリア」
「やっぱり⁉︎」
「……やっぱり?」
驚きの表情のきりは
「アリアさんって……SSOってプレイしている?」
*****
「リアル割れするなんて……」
私は屋上で放課後に話すと言って食堂から逃げるようにして教室に戻った。そして今は屋上にいる。いつも通り授業の内容はチンプンカンプンだった。
「ほんっと、何やってんだろ」
ガチャリ
「二階堂さん……」
「遅かったね」
「ホームルームを抜けて来た人に言われたくありません」
……え
「その表情だとホームルームを忘れていましたね?」
「うん、完全に記憶に無いや」
「まだ先生は初年度なんですから困っていましたよ」
「後で探して謝るよ」
私は空を見上げて
「それで? リアル割ってどうするつもりなの?」
「え、何もしませんけど?」
「嘘はためにならないよ」
僕は出来るだけ視線を険しくして睨みつける。すると
「そんな顔をしても可愛いだけですよ」
「え」
「二階堂さんは分かっていなくても可愛いですよ」
「そうじゃない! 僕のリアル割ってどうするんだ!」
「どうもしませんよ」
きりは笑顔で言う。だけど信じられない。
「過去に何かあったんですか?」
「……傘下のメンバーがリアル割れしてリアルアタックされた。幸いマモンは武道経験者だから叩きのめして警察にプレゼントしたけど……」
「リアルアタック……そんな事がありえるんですか⁉︎」
「人の感情は複雑怪奇、何が起きるなんて分かるはずない」
「二階堂さんも?」
「僕もだ」
だからこそ
「君を警戒しているんだ」
「……そうですか」
「僕もこんな事をするつもりはなかったけど……」
きりは目を丸くして
「二階堂さん、一人称が僕になってますよ」
「え、あ、ふぁっ⁉︎」
僕じゃない! 今は僕じゃない! 今は私だ⁉︎
「落ち着いて!」
「二階堂さんが落ち着いてください」
私の言葉に冷静な突っ込みが。それで落ち着いた。
「……アリア」
「え?」
「二階堂の苗字も嫌いじゃないけど私の名前はアリアだもん」
私の言葉に苦笑して
「分かったよ、アリア」
「おおう」
一気に距離を詰めて来た。とりあえず
「本当に何もしない?」
「はい」
「信じて良い?」
頷くのを確認して
「それじゃ、また後で」
「うん、また……後で?」
「私は今マモンと近くの鉱山にいるよ」
私はそう言い残して屋上の扉を開けて階段を降りる。そして階段の踊り場に置いた鞄を持って
「センセ、探さないと」
どこかの部活の顧問だった気がする。
*****
「あれ? アリアちゃん、テンション高いの?」
「そうかな?」
「うーん、思いがけない相手が実は身近にいたとかそんな感じ?」
その通り過ぎて固まった。
「ゲームの友だちかな?」
「……なんでそんなに分かるの?」
「アリアちゃんの事ならなーんとなく分かるよ」
シェリ姉は私の頭を撫でる。子ども扱いされているけど不快じゃない。
「今日の晩御飯は何かな?」
「シェリ姉なら分かるんじゃない?」
「そうね……うん、野菜炒めと鮭の塩焼きかな?」
「具体的だね」
うふふ、と笑うシェリ姉。そして
「本当に⁉︎」
「えーっと、どうしてそんなに晩御飯のメニューを気にかけたのかな?」
お母さんの疑問はもっともだった。
*****
「リンク……イン」
少し躊躇って、私は僕になる。そして視界が光に包まれて……鉱山の壁が見えた。すると
「あら、アリアちゃん」
「マモン、先に来てたんだ」
「そうよ。それより今日はどうする?」
「マモン、炉を作れる?」
僕の質問を無視した質問に対して
「うーん、作れるかも?」
「かも?」
「試してみないと分からないよ」
五分後
『簡易炉 質・低い』
「ごめんね、アリアちゃん」
「マモンは悪くないよ。僕じゃ出来ないからね」
僕は持ち運び出来る大型の炉を眺めて少し気分上昇。だから
「インゴットの作り方は?」
「鉄10個を錬金術で合成」
「ちくしょー!」
なんなのよ⁉︎ 金属ってば僕に喧嘩を売ってるの!
「もう分かった。次は錬金術を取るよ」
「あら、いつまでも頼っても良いのに」
「マモンは優し過ぎるから溺れそうになるよ」
「いつでも溺れて良いよ?」
僕はそれを無視してアスタリスクハンマーを構える。蟷螂の頭を粉砕玉砕大喝采する。すると
「あ、レベル15になった?」
「何か変かな?」
「戦闘してないのにレベルが少し上がってた」
「あ、このゲームは壁にもアイテム拾うのもごく僅かに経験値を稼げるのよ」
「そうなんだ」
「それよりレベルが15になったんならパッシブスキルスロットが増えたんじゃない?」
そうだった。
「街に行って買って来……」
「アリアちゃん?」
「うーん、そう言えばここでまた会う約束してたんだった」
「誰と?」
「……リアルの知り合い……かな」
「友だちとは思ってくれないんだね」
「うん、距離感が掴めなくて」
僕は頷いて
「マモン、僕はもう少しここで待ってるよ」
「あのね、アリアちゃん」
「何かな?」
「いるよ?」
「え?」
言われてみればマモンの後ろに人影が。もしかして
「マモンが増えた⁉︎」
「どんな勘違い⁉︎」
僕の言葉にマモンじゃない声が突っ込む。その声は聞き覚えがある。
「えっとアリアで良いのよね?」
「きりだよね?」
「うん」
「それじゃ感動の再会したからこれからどうしよう?」
マモンが僕ときりを抱きしめて言う。きりは驚いている。マモンは前からスキンシップ好きの女の子だった。もっとも年齢を聞いたベルがボコボコにされたのは忘れられない。
「とりあえず僕は錬金術を買いに行こうかな」
「それじゃ三人でレベリングがてら行く?」
「あ、良いのですか?」
「アリアちゃんの友だちならねー?」
「友だちのつもりですよ」
「アリアちゃんは?」
僕は顔を逸らす。まだ何とも言えない。
「……知り合い以上友だち未満」
そんなあやふやな言葉で誤魔化した。
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