第8話

「錬金術に必要なのは素材、加工前のが基本ですね」

「それは語感から分かるよ」

「私は知りませんでした」


僕たちは町に一回戻りながら会話をしていた。しかし


「僕だけ何もしていないんだよね……」

「アリアちゃんは近接キャラだもんね」

「マモンは遠距離型に徹底しているもんね」


僕はため息を吐いてモンスターを見つけた。そして矢が蟻を貫いて倒した。


「きりも魔法使いだしさ」

「あ、あはは……」

「僕も少しスキラゲしたいなー」

「うん、私より先に倒せたら良いよ」

「僕よりレベルの高い上に遠距離型のマモンに⁉︎」


僕の言葉にマモンは笑い


「錬金術に片手長剣、敏捷を取っているんだから前衛中衛出来るじゃない。遠距離型で詰められたらオワタな私よりバランス良いと思うよ?」

「マモンはプリーストとれば良いじゃん」

「回復スキルかー、あれintに比例するからね」


マモンは苦笑して


「ほら、街だよ」


気づかない内に街に着いていた。


*****


「マモンさん、私はどんなスキルを買ったら良いでしょうか?」

「うーん、ベータの時の話ではプリーストとマジシャンをガン上げすれば賢者ってのが買えるようになるって」


きりは虚空をタップして


「買いました」

「そう」

「アリアちゃんは?」

「錬金術とスロットがあったから剛腕」


剛腕はレベルアップの際のステータス上昇に影響を与える上に単純にステータスボーナスもある。これは敏捷も同じだ。シリーズとしては堅牢と秀才がある。


「アリアちゃん……やっぱり脳筋になっちゃった」

「鍛冶屋のスキルにstr結構要求されるの」

「へぇ、知らなかった」


五分後


「それじゃきり、炉に火をつけて」

「はーい」


炎の魔法の一つ、短詠唱のファイアーボールが炉の中に吸い込まれるようにして放たれた。そして薪をしっかり燃やした。すると炉の上に画面が表示された。そこには


「現在温度で溶かせる金属とその時間、加工可能になるまでの時間」

「便利だね」

「……あ」


この炉を使うには鍛冶屋スキルが無いと使えない。良かった。


「でも溶かせる金属は錫と青銅かぁ、錫の剣でも初期武器よりはマシかな」

「そうだね。私たちは見ているからレッツチャレンジ!」


マモンのノリに驚いているきりを他所に。インベントリから錫40個をまず錬金術のスキルで4つのインゴットにする。その際にスキルレベルが上がった気がするけど無視して


「加工出来るまで3分」

「一応メニューの端のタイマーを使ったら?」

「うん、そうする」


僕はメニューの端にある便利機能を開く。電卓、翻訳機能、タイマーにストップウォッチ、目覚まし時計まである。


「さて、微妙な時間が出来たね」


錫インゴットを炉に近づけると『温めますか?』とコンビニの店員ばりに聞かれた。とりあえずYesを押して


「アスタリスクハンマーって加工に使えるの?」

「うーん、ベータの時はハンマー系統なんでもいけたよ。トゲトゲしたモーニングスターでも出来るくらいだよ?」

「それってインゴットを壊そうとしたんじゃないんですか?」

「ううん、加工出来るかの実験。だけどシステムが杜撰なのか回数と使った素材と付加素材、叩いたハンマーだけで出来が決まっちゃうからね」


チーン! と、電子レンジ的な音を立ててタイマーが鳴る。とりあえず炉の画面に触れてインゴットを取り出す。持つとジリジリと熱さを感じた。次回からトングがいるかな。


「板はこれで良いかな?」

「ありがと、マモン」


マモンの錬金術で作った「鋼鉄の板」を借りてその上に赤くなった錫を置く。そしてアスタリスクハンマーを振り上げて……付加素材ってのが少し気になったけど振り下ろした。板の上で少しずれながら平べったく伸びた錫。それを見て


「押さえるから手は叩かないでね」

「きり……ありがと」


剣の打ち方は知らないはずなのに根元から打つのが正解のように感じる。なのでその通りにして


「柄も……ん」


剣身は出来たので脳内イメージと合わせてみる。うん、同じ。

五分後


「完成っ!」

「おおー!」

「おめでと、アリアちゃん、きりちゃん」

「おめでとーアリア!」

「ありがとーきり!」


二人でぎゅっと抱きしめ合う。彼女がいなかったら成功しなかった自信がある。


「アリアちゃん、性能見ても良い?」

「うん」


外見は望んだ通りに鍔を後付け出来るようにした片手長剣。色は錫のままだ。


「攻撃力8、耐久61かぁ。最初にしては良いと思うよ」

「初期武器の4倍の攻撃力だよ、成功と言っても過言じゃない」


僕は鍔となるレアドロップ、蟻の顎を取り付ける。腐食耐性と防御力が2、上がる。


「それよりきり、1人なの?」

「今さら⁉︎」

「ダメかな?」

「ダメじゃないけど……二人とも今日は入れないってメールが来たよ」

「じゃあ今日は三人だね」


マモンが締めた。


*****


「あはははは!」


剣、正式名称は錫の剣と単純な剣を振るう。それだけでゴブリンの腕は跳ね飛ぶ。そのままの勢いで蹴り飛ばして違うゴブリンの脚を切る。斬り落とせなかったけど動きが格段に鈍る。


「あはははは! 遅い!」


振り下ろされた剣をバックステップで回避して地面を踏みしめて突進。腕を刺して柄をくるりと回転させる。肉が抉れて剣が抜きやすくなる。


「あー、良い感じに脳内麻薬出まくってるね」

「アリア……あれって大丈夫なんですか?」

「うーん、多分ね。前のでも同じように世界に入っちゃっても平然と元通りだったし」


「ブラスト!」


単発重攻撃でゴブリンを吹き飛ばす。この辺りのモンスターは僕のレベル16の倍以上、37だ。だから一撃では狩れない。だからこそヒットアンドウェイだ。


「アークスラッシュ!」


3連撃を越える攻撃はその場に留まるのが危険だから使えない。だからアークスラッシュとブラストしか使えない。

片手長剣と連続のスキルレベルが上がるのを無視して切り続ける。最初は10体くらいいたはずのゴブリンも残り2体だ。片方の腕をブラストで切り飛ばして前に跳ぶ。振り下ろされる石斧が僕の頭の上をぶぉん、と音立てて通り過ぎる。


「アークスラッシュ!」


地に倒れ、命を光と散らすのを眺めながら残ったゴブリンの攻撃を掻い潜り


「アーク……ペンタゴン!」


5連撃を叩き込んだ。それで戦闘は終わった。レベルは25と案外伸びていない。もっともスキルは敏捷と剛腕、片手長剣に連続が上がった。それよりも


「あ、落ちてた」


ゴブリンのお腹周りに着けている鎧は鉄製だ。だから倒してドロップしたのを錬金術に使えばいくつか鉄が入手出来るらしい。だからたくさん狩った。


「お疲れー」

「マモンも手伝ってくれても良かったんじゃない?」

「うーん、アリアちゃんがまーた自分の世界に入っちゃいそうだったからね」

「あー、うん。ごめん」


僕は謝る。すると


「パーティ組んでるから楽して経験値とアイテムゲットしたけどね」

「マモン、何か良いの出た?」

「ゴブリンの素材で良いのなら石斧かな?」

「何で?」

「耐久高いし斧と飛道具の両方だからスキラゲに向いているんだよ」

「ふーん」

「ちなみに弓矢の威力って弓スキルと飛道具スキルに影響受けるから持ってたら欲しいなーなんて思ったり」


僕は躊躇なくインベントリの中から6つの石斧を選んでマモンにプレゼントする。するとマモンは感極まったように僕に飛びついて来た。


「重いよ」

「良いのよー」

「僕が良くないんだけど……」


僕は僕の胸に頭をすりすりするマモンの頭を撫でる。すると


「アリアってそんな趣味だったんだ……」


ドン引きされた。

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