第6話

「マモンはいつも強いと思うよ?」

「アリアちゃんは最強でしょ? 最強を育てたってドヤ顔したいの」


なるほど。よく分からないけどなるほど。分かっていなくてもなるほどと言えば会話が進む。


「あ、また来るよ」

「また? 蟷螂よりも金属を採りたいんだけど」

「採るだけならここでも出来るけど採取スキル5レベまで上げないと」

「石ころ拾いじゃスキラゲにならないかな?」

「なると思うけど……アリアちゃんにそんな事をさせたくないなぁ」


マモンはそう言うので好意をありがたく受け取り


「進んだら金属落ちてるの?」

「モブドロップだよ」

「ならレベリングついでになるね」


僕は蟷螂のお腹をアークトライで切って頷く。蟷螂はアークスラッシュだと削り切れない。もっともスキルポイント、SPに気をつけないと。それよか同じ名前の物があるってシステムとしてどうなの?


「あ……」

「どうしたの、マモン?」


マモンが何かに気付いたような声を出して


「……ごめん、アリアちゃんってまだ苦手だよね?」

「何が?」

「………………スパイダー」


ばっ、と音がするほどの速度で振り返って全力疾走……しようとしたら捕まった。


「離して」

「アリアちゃん、好き嫌いは良くないよ?」

「好きとか嫌いの次元じゃないの! 見たくも無いよ!」

「大丈夫、このゲームの蜘蛛はリアルじゃないよ?」


五分後


「離してぇぇ!」

「ほら、こっち来てるわよ」

「マモンのばかぁぁぁ!」


私の言葉にマモンは笑顔で弓矢を放つ。逃げようとしたら速攻で回り込まれて捕まえられた。


「うふふ、逃げたければ私を倒して行くが良い……」

「キャラ変わってるよ⁉︎」


相変わらず蜘蛛は私の背後からかさこそかさこそ音を立てて近づいて来る。


「アリアちゃん! 立ち向かわないといつまで経っても強くなれないよ!」

「うっ」

「そんなので最強になれるの⁉︎」


……うん、


「そうだね、それじゃ……ってなるわけないだろ!」

「やっぱり!」

「ここ以外に無いの! 金属を採れるの!」

「え? さっきの場所で石拾い?」


「おお! レベルがさくさく上がるね」

「アリアちゃん。これ多分錫」

「えっと……錫って柔らかく加工しやすいんだっけ?」

「そうそう」


弓矢を壁に向けて放ち、採掘するマモン。ところで


「鍛冶屋スキルってどうすれば使えるの?」


あ、マモンが何も無いのにこけた。そして


「知らないでスキル買ったの⁉︎」

「うん」

「もう……アリアちゃんったら」


マモンは呆れたように首を振って


「簡単に言えば炉、ハンマー、素材、金床ね」

「炉と金床……」

「金床は土を殴って固めても代用出来るよ。もっとも壊れやすいけど」

「炉は?」

「魔法スキル買って炎魔法に派生させる?」

「スロットに余裕が無いし僕が魔法を使わないのは分かってるでしょ?」


私の言葉にそっぽを向いて口笛を吹き出したマモン。忘れてたね?


「多分アイテムで簡易炉とかあるはず。どこかに売ってないかな?」


メニューを開いて掲示板を開く。そして検索ワードに炉、と入れると


「検索結果0……」

「あらま」

「……作るか」

「どうやって?」

「組み立てる」

「それをアイテム化するには錬金術のスキルがいるよ?」


私はその言葉に笑って


「マモン、取ってるでしょ?」

「あ、ばれた」

「だってマモンはいっつも取ってるじゃん」

「ここの錬金術は凄いよ。安っぽい薬草からポーション作れて高値で売れるんだよ。まさしく金を作っているよね〜」


僕はため息を吐きながら壁からこぼれ落ちる岩をインベントリにポイポイ放り込んでいる。初期は30種類しか入らないのが今では42種類、12レベだから1につき1。分かりやすい。それにしても


「全アイテム99で1スタックね」

「覚えやすいでしょ?」

「そうだけどどうしてマモンがドヤ顔するの?」


うふふ、と笑って誤魔化したマモン。

すると視界の端で採取スキルレベルが5になりました、との表示が。頷いて地面を見るとなんという事でしょう。地面に落ちていた石が金属に見えて来た。


「マモン、多分これが金属だって」

「分かってるよ?」

「マモンも採取取ってたんだ」


僕は話しながらどんどん錫を拾ってインベントリに放り込んでいく。石はそろそろ40を越える。錫は反面10も無い。だけど


「……ん?」


一つ、輝きの違う金属を見つけた。それをインベントリに入れて名称を確認すると


『鉄』

「鉄さんゲットだぜ!」


肩に黄色い雷鼠を乗っけたマサラな少年と似た台詞を言ってしまった。すると何故かマモンが拍手していた。


「おめでとー」

「ありがとー」

「鉄は初期の最高の金属だよ」

「おお!」

「まぁ、次の街では鉄製品も売られるようになるけどね」

「ちくしょー!」

「それに10個集めてインゴットに加工しないと意味無いよ」

「ちっくしょーぉ!」


私の叫びにマモンは笑う。ムカついたので壁に向けて


「アークスラッシュ!」


スキルがを打ってみた。すると思いの外壁が大きく崩れて


「わ、鉄がたくさん」

「ほら、早く集めてどんどん掘るよ」


マモンの言う通り、金属だけを取ってインベントリに入れる。そして


「あ、片手長剣のスキルが上がった」

「え? スキラゲ出来るの?」


マモンの目がキラリと光って


「マモンは掘って。僕は拾うから」

「オッケー!」


壁に向けて弓矢が飛ぶ。そして


「ボムアロー!」


そのスキルは壁に当たると同時に爆発して


「あ」

「マモンのばかぁぁぁ!」


天井が崩壊し始めた。慌てて逃げようとすると


「ふふふ、私の真の力を見せよう!」

「え?」

「見ててね、アリアちゃん。私の最高のスキべっ⁉︎」


あ、カッコつけたマモンの頭の上から岩が激突。痛そう。


「マモン、一回出て掘り返す?」

「ううん、もうすぐ収まる……ほらね?」


確かに言葉通り収まった。収まったが


「マモン、埋まってるよね?」

「うん、アリアちゃん、助けて」

「はいはい」


僕は落ちて来た岩を登って声の方向に歩く。すると器用に岩が重なった中から聞こえていた。うん、


「無理だね」

「諦めないで⁉︎」


仕方がないのでソードを抜いて


「アークスラッシュ!」


レベル5まで上げたアークスラッシュは岩を容易く切り裂くと見せかけて砕け散った……砕け散った?


「ええぇぇぇぇぇ⁉︎」

「え⁉︎ アリアちゃんどうしたの⁉︎ まさか蜘蛛⁉︎」


その言葉に冷静になって


「剣が折れた。ハンマー使うけど遅くなるかも」

「良いよ、こっちは身動き出来ないくらいだから」


その言葉に頷きながらハンマーを装備して振りかぶって……気付いた。ハンマーの振方ってどうするの? 今まで剣のように使ったけど多分間違っているし。……そうだ、


「野球をしよう」

「チーム名は、リトルバス◯ーズだ!」

「一人でチーム⁉︎」


岩の中に閉じ込められているのにマイペースなマモンにため息を吐いて


「えいっ!」


ハンマーを振るった。


*****


「ハンマースキルも少し上がったね」

「その恩恵のstrアップが嬉しいね」


僕は時間を確認して


「明日も学校あるから僕は落ちるね」

「私もそうしよっかな」

「合わせる必要は無いけど?」

「ううん、私も学校あるから」


マモンはそう言って手を挙げた。


「ほら、アリアちゃんも」

「うん」

ぱしっ

「また明日ね」

「あ、また明日」


ハイタッチとは予想外だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る