第31話

「興味無い……だと」

「僕はすでにギルドに所属しているのに勧誘するなんておかしいしね」

「あの小説に興味無いというのか!」

「そっちじゃないよ⁉︎」


僕は慌てて否定して


「なんで僕を勧誘するのさ?」

「……あなたのギルド、『魔王の傘下』であなたは立場が低い。俺たちのギルドならば上の立場に立てるから」

「気遣いはありがたいけどね、今の立場も気に入っているんだよ」


のんびりとお店をするのも前線に潜るのも。

そう言えば


「最近ちょくちょく勧誘されているんだけど理由くらい話してくれないと困るんだよね」


僕の言葉にそのプレイヤーは顔を引き攣らせた。


*****


「そんな事があったんだな」

「うん、どうにか出来ないかな?」

「……いつものテレビ局からお呼びがかかった。出演依頼だな」

「個人?」

「いや」


それはつまり


「僕たち9人全員?」

「ああ。日付の調整さえ出来ればお前がどこに所属しているのかを知らしめて勧誘も減るだろう」

「それもそうだね……いつもの方法?」

「ああ。予定が決まり次第連絡する」


そしてその日のログアウト寸前に次の日曜の夕方からとのメッセージが送られて来た。ちなみに今日は水曜日だ。


*****


「スターダストエンプティー!」


星屑スキルの最後は15連撃だ。それはとてつもない威力の上にエフェクトが派手で気に入っている。ゲージをごっそり持っていかれるけど。


「でも上級スキルの解放はアップデートをお待ちくださいってのは驚いたよ」


ミスリルの数を数えながらミスリル鉱山を進む。今日は素材ではなくレベリングだ。


「……!」

「……!」

「…………!」

「後ろが騒がしいなぁ」


僕は進むか戻るかを考えて


「そんなに急ぎの理由も無いし……!」


元来た通路を駆け抜けて少し広い場所に出る。するとそこには


「この前の勧誘して来た……」

「あっ⁉︎ あんたは⁉︎」


面倒な事になりそうだと思ったら片方が僕に向けて武器を構えた。僕も背中の二本に手を伸ばして


「やるなら殺るけど?」

「っ⁉︎ どっちもやめろよ!」

「君、現状の説明をしてくれるかな?」


僕は警戒を解かずに慌てて止めようとしているプレイヤーに呼びかける。そっち側もリーダーが慌てているだけで後ろは警戒している。いつでも戦えるように、と。


「少し長くなるけどよ……」

「良いさ、僕は待てるから」

「……最初は俺たちがここに潜っていたんだ。だけど適正レベルに満たないのかあっさり壊滅しかけてよ……」

「確かに装備も整っていないね」

「五月蝿いやい……んでもって敗走and逃走していたらそこなパーティに助けられたんだけどよ……」


それでどうしたらこの険悪な雰囲気になれるのか知りたい。


「その途中でたまたま発見したレアドロップである高純度ミスリル大量ドロップポイントの事を知られて……」

「場所を教えろよ、と。分かりやすくて良いけど独占するのもおかしいと思うよ?」

「なっ⁉︎」

「例えどんな理由があっても失われる物はある」


僕は警戒を解かずに彼を見つめる。すると


「……あんた、あのアリアか?」

「どんな噂があるのか聞いても良いかな?」

「腕の良い鍛冶屋だと」

「お世辞だと分かっても嬉しいものだね」


剣の柄から手を離した男に頷いて


「双方、引けるかな?」

「だが!」

「こちらは、な」

「……妥協点を作ろう」


僕は険しい顔の勧誘者と涼しい顔のお世辞男を見て


「どっちにも武器を一つずつ、作って進呈する。それで妥協してくれないかな?」

「ほう」

「なにっ⁉︎」

「もちろん全員に……と、言ってもここの……10人?」

「こちらは5人であちらも5人だな」


僕は頷いて


「その高純度ミスリル? の出る場所に連れて行ってくれ。それを素材に作れる限りの一品を作り上げるよ」


*****


「うーん、付与素材販売までは無料じゃダメだね」

「そうだろうな」

「って事で無料でなら付与素材は自力で集めるか無しでね」


1人目のお世辞男の剣を作り上げる。dexを高めるにはモンスターの目の素材や針素材が必要だった。しかし


「イメージではレイピアに近い感じだね」

「まぁな」

「って事で完成したよ」

「済まんな……ところで本当に良かったのか」

「良いよ、これくらい」


僕の言葉に目を細めて


「何が良いんだ?」

「そりゃもちろん高純度ミスリルを大量に手に入れたしあそこに行けばまた手に入るからね」

「情報として、か」

「情報は時として家よりも高いからね」


僕の言葉に苦笑してレイピアを鞘に収める男。

鞘は武器を作製したら自動で出現する。威力も耐久も無い上にそれを握って戦うことは叶わない。見た目重視だ。嫌いじゃないけど。


「……300Mくらいは行くんじゃないのか」

「そうかもね」

「本当に良かったのか?」

「くどいよ……にしてもインフレが激しいね」


話題を変える。すると


「次の位、Gを超えると単位が円から変わると噂はされているな」

「信憑性はあるの?」

「あるはずが無い。噂は噂だ」


男はレイピアを見下ろして


「メンテナンスと強化はここに来れば良いんだな?」

「ついでにポーション買っても良いし料理スキルを上げているから食べて行っても良いよ」


最近では自分しか食べてないけどね。そのおかげで料理スキルの熟練度も高くなったよ。


「ちなみにあのロックバレーたちとは知り合いなのか?」

「勧誘されただけだよ。僕はすでに傘下に入っているってのにね」

「ふ、たまにそんな迷惑なプレイヤーもいるさ」


そう言って男は部屋から出ると思いきや


「アーク、次はお前だ」


と、仲間を呼び出して僕の鍛冶を眺めていた。なんなのこいつ。緊張するんだけど。


*****


アリアというプレイヤーは否応が無しに有名になった。

なってしまったのだ。


「だから僕はソロプレイヤーなんだけど?」

「そこをなんとか!」

「お願いします!」


2人のプレイヤーからパーティ勧誘される。


「どうしてマイナーな僕なのさ、マモンとか他の人に頼みなよ」

「そのマモンさんがあなたを勧めてきたんです!」

「お願いします!」

「いーやーだ!」


僕は逃げるように(実際逃げてる)街の中を駆け抜けてカーマインブラックスミスの中に逃げ込む。そして扉を内側から抑える。


「何をしているんだ?」

「魔王も手伝って!」

「何かあったの?」

「君(マモン)のせいで追われているの!」

「それはドンマイとしか言いようがないな」

「ベルも手伝ってよ!」


僕は店内の傘下のメンバーに手伝いを要請してバリケードを作る。そして一息ついて


「サタンとレヴィとブブとルシファーとアスモは?」

「奥の部屋にいるぞ」

「いくら僕しか設備を使えないって言ってもね……」


僕は奥の部屋に入る。するとそこで飲み物を飲んで雑談しているみんなが。


「さてと、一旦全員落ち着いてくれ」


魔王の言葉に三々五々に座ったり壁に寄りかかって


「予定時間は2時間後、会場入りは早めに、と言われている」

「いつもの場所だよな?」

「ああ、いつものオンラインテレビ局だ」

「なら30分くらいしたら行けば良くね?」


アスモ(チャラ男)の言葉に魔王は頷く。そして


「それでみんなは問題無いな?」


一斉に頷く。それに魔王も満足気に頷くと


「アリア、何か食べれる物を作ってくれ」

「今言う⁉︎」

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