第30話

「きり、今日はご飯を食べないの?」

「金欠なのさ〜」


机に突っ伏したきりはか細い声を出す。私はため息を吐いて


「今はきりたちはどんな感じ?」

「空腹で倒れそうな私に今聞く⁉︎」


*****


「ごめんね、奢ってもらっちゃって」

「ちゃんと返してよね」

「分かってるよ……それで今の私たちの状況?」

「うん」

「ようやく3人だけで二つ目の街は行けるようになったね。このまま3つ目に行って追いつくから」


すでに最前線の街まで行ったなんて言えない。


「それにしてもあの動画を見たよ」

「動画?」

「アリアの店に取材が来てたあれ」

「あー、セスタスの」

「めっちゃ有名になってたよ」

「そのせいでポーション作るのが間に合わないんだよね」

「そうなの?」

「だから昨日は休店にしてポーションを量産したの」


ポーション100スタック、ハイポーション500スタック、MPポーション100スタック、ハイMPポーション500スタックと多めに作った。すでに予約で半分以上飛ぶけどね。

今日入ってポーションを再び量産しないといけないレベルだ。


「あれね、有名ってのもあったけどポーション類がとっても安いって。そして武具の性能がパナいってさ」

「そうかな?」

「有名なプレイヤーだったらリョーマだったりセプトだったりシエルだったり傘下のメンバーでしょ。そこの全員がアリアに武具を作ってもらって最前線にいるんだもん」


確かにそれは有名になっても仕方ないね。しかし


「シエルたちは有名なんだ」

「知らなかったんだ」

「うん」

「シエルは一撃が強くてセプトは安定して、リョーマは……侍して」


侍が動詞となった瞬間だった。そして


「アリアは最近はどんな感じなの?」

「さっきも言ったけどポーションの量産かな。それと今日からはミスリル鉱山を攻めるつもり」

「ミスリル⁉︎」

「これで作れる武具の性能がぐんと上がるよ」


*****


「大口叩いた割にはっ! ダブルサークル!」

『アークスラッシュ!』


二本の剣の交差点への一撃、そしてそのまま振り切ってからの切り上げ。それを続く2連閃で弾く。態勢を崩すスケルトンソードマン。


「スターダストリープ!」

『ぐっ⁉︎』


打ち上げてからの2連撃でギリギリ削り切ったけど


「確かに最前線だよ……レベルも足りてないし装備も充実していないのに来るのは間違いだよ」


そう思いながらもこのダンジョンに潜り続ける。理由はあってないようなものだ。強くなるための手段の一つだから。


『リープスラスト!』

「く、ソードリバーサル! アークスラッシュ!」

『ソードパリィ!』


一撃は防がれたけどこれは2連撃のスキル。確実にダメージを通して


「メテオスラスト!」


ぶっ飛ばした。それで体力全損したようなので


「壁を掘り掘り〜♪」


鼻歌を歌いながら壁に向けて二本の剣を振るう。ボロボロと崩れる壁。これも時間経過で治るのだ。

崩れた壁の中からキラリと光る鉱石を拾う。ミスリルや黒曜石、鋼鉄に銀と様々な鉱石だ。とりあえずたくさん拾ってたくさん掘り掘りして


「メテオスラスト! ミーティアリープ!」

『ぐぎゃ⁉︎』


吹き飛ばしたスケルトンソードマンに追いついて切り倒して


「うわわわわ⁉︎」

『『『『『ぐぎゃーっ!』』』』』


多数のスケルトンソードマンに囲まれかけて必死で逃げて


「こなくそっ!」

『アークスラッシュ!』

「アークスラッシュ!」


正面から迎え撃って


「……ポーションが無ければ即死だった」


残り体力を見て驚いて


「やたっ、ミスリルインゴットがたくさん作れた!」


いつの間にか錬金術のスキル熟練度が上がっていてインゴット作製に必要数が減っていた。

多分ポーションを量産した時だ。とりあえず一旦店に帰る。すると


「あ!」

「アリアが来たぞ!」

「武器を作ってくれ!」

「俺にも!」

「私には防具を!」

「可愛い装備を!」

「エロ装備を!」

「「「⁉︎」」」


1人勇者がいた。とりあえず


「ここに名前と武器の種類、素材をどうするかを書いて」


行列の出来る鍛冶屋兼ポーション屋。それが今のカーマインブラックスミスの現状だ。料理もしているがそれを知らない人の方が多い。


「……うん」


僕は連動しているそれと見比べる。今現在急いで作るべき武器は魔王のナイフ。もっとも2日後に取りに来るそうだ。これはミスリルインゴットを使ってふんだくる。


「他は結構余裕があるね」


僕は頷いて


「最初のアリエル、こっちに来て」

「はいっ!」


記入された最初のプレイヤーを伴って奥の部屋に。

このゲームでは例え勇者だろうと他人の家に許可無く入れず、箪笥を開けられない。だから安心だ。


「武器種は片手長剣、素材は鉄鉱石10個、付与素材は火炎草に火炎茸で間違い無い?」

「はいっ!」


僕はアスタリスクハンマーを取り出して炉を加熱させる。そして素材を受け取り、鉄インゴットを作製、加熱。


「君は今はどの辺りにいるの?」

「え?」

「進捗度かな。言いたくないなら言わなくても良いよ」

「あ、今日初めてこの街に来たんです」

「なるほどね……あ、武器の外見のイメージってある?」

「はい!」

「データ化して見せて」


アリエルは手元を操作して


「ふんふん、速度優先なんだね」

「これで二刀流のスキルを習得したいんです」

「ロマン?」

「はいっ! あの小説を読んだらつい……」

「分かるよ、僕もそう思った事も少なくないからね」


その小説の名前はソードアクションオンライン、通称SAOだ。かつては空想の産物であるVRMMOを題材とした小説、発売から20年経っても人気のある小説だ。


「さてと」


トングを使って鉄インゴットを取り出して送られてきたイメージjpgを使用する。そして付与素材を選択して


*****


『火炎剣 攻撃力+49 str+19』

「ありがとうございます!」

「料金は10K、大丈夫?」

「はい! 問題ありません!」


トレードを完了して


「ありがとうございましたーっ」


そう言ってアリエルは出て行ったけど


「それ……店員のセリフ」


僕はため息を吐いて再びリストを眺める。素材持ち込みの人が楽だ。だから


「エルステラ、こっちに」

「おう!」

「武器種は両手槍、素材持ち込みは鋼鉄だけで良いんだね?」

「おうよ!」


僕のSSOライフはこんな感じで充実していた。


*****


『Aria:こんなので良い? ヴァーミリアンミスリルのナイフ 攻撃力+195 str+79』

『diabolos:凄い性能だな。今から取りに行っても良いか?』

『Aria:うん。料金は500M、払える?』

『diabolos:当然だ』


ナイフは基本的に攻撃力が低い。それなのにシエルの炎龍の巨剣を超えるステータスなのはミスリルのおかげだろう。いずれあの剣もミスリルで強化したい。


「それで何の用かな?」

「俺たちのギルドに入ってくれないか」


僕はポーションを量産するために川と庭で作業していた。そこに庭の外から話しかけてきた。


「名前は」

「ロックバレー」

「ロックバレー?」


直訳で岩の谷……まさか


「盾の勇者の……」

「その通りだ」

「なら僕を勧誘する必要無いよね?」

「ふ、別に名乗る必要は無い」


僕はため息を吐いて


「興味無いよ」

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