第29話

「皆様、こんにちは。今日も愉快にSSOをプレイしていきましょう!」


一息


「今日のゲストはこの方です! どうぞ!」

「どうも、シエルです」

「いやー、いつ見ても立派な剣を背負っていますね」


背中に背負った真っ赤な両手剣。


「どちらで入手されたんでしょうか?」

「ああ、これはあたしの親友が作ってくれたのさ」

「ほほう! 一体全体どんなプレイヤーなのでしょうか?」


*****


「らっしやっせーってセプトか。今日はどうしたの?」

「耐久の回復と防具を作って欲しい」

「ふーん。素材は?」

「俺の持ち物からは鋼鉄くらいしか無いが」

「付与素材は?」

「vitだ」

「なら水系だね」


僕はセプトの注文を書き留めて(メモ機能で)インベントリを覗く。そこには水系のモンスターの素材はある。しかし少ない。


「セプト、水系のモンスターを狩りに行ける?」

「……行けない事も無いが……どこが一番良い素材があるんだ?」

「知らない。掲示板で調べたら?」

「そうだn「ちぃーっす」

「シエルかぁ、今日はどうしたの?」

「こちらのプレイヤーが」


シエルはドアの向こうから一人のプレイヤーを呼ぶ。そのプレイヤーはお世辞にも強そうには思えない。すると


「誰かと思えば愉Sの実況者か」

「セプトの知り合い?」

「いや、彼の動画を見ているだけだ……しかしシエルと知り合いだったのか」

「うんにゃ、この前のイベントでこの両手剣振るっていたら有名人になったっぽくて」

「オファーが来たんだ」


そうそう、と頷くシエル。とりあえず


「君の名前は?」

「セスタス、ピュアソードマンだったか?」

「よく知っているんですね」

「見ているからな」


セプトの言葉に顔を綻ばせるセスタス。すると


「こちらのお店が巷で話題の安いポーション屋さんなんですか?」

「安いのかな?」

「安いな」

「安いだろ」

「そしてシエルさんの両手剣、ヴォルケイノブレイザーを作り上げた現最高の鍛冶屋ですよね?」

「え?」


僕は驚く。なんだか凄い評価をされている。過大評価は身に余る。


「ま、今現在はアリアにしか頼もうとは思えないな」

「同感だ」

「あの『巨剣士』シエルさんと『パーフェクトタンク』セプトさんの信頼をここまで集めているんですか⁉︎」

「何その二つ名。カッコ良いね」


僕の言葉に2人は少し恥ずかしそうだ。すると


「アリアにも確かいくつかあったよな?」

「ああ、聞いただけなら『薬屋』『鍛冶屋』『赤髪ツインの美少女』『一番星』『自称最強』『思い上がりおにゃの子』くらいか?」

「……一番星以外はその通り過ぎて反応に困るよ」

「一番星ってのはベータテスター以外で初めてヴォルケイノドラゴンを倒したから付いたんだろ」


シエルの大雑把な説明に苦笑して


「それでセスタスは何の用? 作成? 強化? 回復? 買い物? 食事?」

「あ、いえ取材と言いますか動画に使わせてもらえないかなーと」

「広告になるくらいの知名度はある」

「なら良いよ」


セプトの言葉に頷いて


*****


「依頼の素材を自分で取りに行く事もあるんですね」

「うん」

「何故ですか?」

「素材の持ち込みを割引きの基準にもしているからね。素材を取りに行くならあまり割引きしないよ?」

「そうですか。ちなみにいつもはソロプレイヤーなんですよね?」

「そうだね」

「この辺りはソロで突破出来るんですか?」


僕はセスタスの言葉に少し考えて


「2人はどう思う?」

「俺には火力が足りない」

「あたしにはスタミナが無い」

「君たちの場合を聞いたんじゃないんだけどね……」


僕は背中の二本の柄に手を触れて


「感知に引っかかった。こっちに来てるよ」

「了解!」

「分かった」

「えっと普段からこんな風にパーティを組んでいるんですか?」

「たまにな」

「イベントくらいだが」

「あとは初心者育成かな」


僕たちは会話をしながら武器をそれぞれ構える。そして


「この先に待ち構えているみたいだな」

「それなら対策を講じて「必要無いよね?」

「ああ」

「いつも通りだ」

「え⁉︎」


僕たちは同時に地面を蹴る。agiの差で僕が先頭になって


「ダブルラッシュ!」


二刀流突進系スキルを放つ。二刀流だとどんなスキルでも連続だ。

ここは湖の下の洞窟。水系のモンスターが多数出現、なおかつ現在では水系最高難度。だけど


「ホリゾンタルスライサー!」

「デプスインパクト!」


2人の追撃に待ち構えていた多数の半魚人が逃走を開始する。だけど


「遅いよ、スターダストスプラッシュ!」


ターゲットを替えつつの9連撃は確実に一体も逃さない。


「すっ」

「「「すっ?」」」

「すっげぇぇぇ⁉︎」


セスタスがいきなり叫ぶ。そして


「あの圧倒的な数に躊躇無く飛び込み、なおかつ無傷⁉︎」

「普通だよね?」

「一発くらい被弾するとは思ったがな」

「ま、3人でこれならリョーマたちがいたら」

「瞬殺だな」

「今のは瞬殺じゃないと⁉︎」

「だよな?」

「ああ」

「当然」

「それより素材は満足するくらい集まったけど?」


*****


「遅いね! スターダストエンプティー!」


斬撃が真空を生む。そんな15連撃を放つ。飛び散る血のエフェクト、残光に目を細めながら


「ダブルクライミング!」


二本の剣を回転しながら振るい、相手の体を越える。そして宙で態勢を整えて


「ダブルトルネード!」


突進しながらの8連撃は巨大な亀の体力を削り切った。


「この程度じゃアリアの実力は測れないな」

「実際に戦ってみれば分かるぜ……って言いたいけどセスタスはなー」

「僕の立つ場所は最強(あそこ)しか無いんだから追いつくのは今の内だね」


*****


「え、こんな物をもらっても良いんですか⁉︎」

「要らないの?」

「い、いえ、ありがたいんですけど……」

「セスタス、アリアはお前を広告塔として活躍してもらいたいからその片手長剣(シャークファング)を渡すんだ」


僕の言いたい事をセプトが言う。

シャークファングの素材は鋼鉄インゴットとビックジョーズの牙だ。その名の通り鮫の牙。ステータスは攻撃力+120 vit+48とバカにならない性能だ。


「メンテナンスや強化は僕の店でやってよね?」

「もちろんです!」

「それじゃあセスタス、またいつか会おう」

「はい! 本日はありがとうございました!」


礼儀正しくセスタスは店から出て行った。とりあえず


「セプトの防具はこんなので良いかな?」

『タートルシェルアーマー 防御力+47 vit+68』

「……高いだろう?」

「うーん、相変わらず鋼鉄インゴットとボスの素材だからそんなに高くは無いよ」

「そうか……10Mくらいで良いか?」

「それで良いなら良いけど」


トレード完了。すると


「見事にあたしたちのステータスって違うよな」

「僕はストラギだけど?」

「あたしはストだけだ」

「俺はバイストだ」

「全員ストはあるじゃん」

「確かに」


言い出しっぺのシエルは苦笑して


「それじゃ私は落ちるよ」

「そうか、またな」

「僕はメッセージさえ送れば店にいるからまたね」


*****


『アリアちゃん可愛いよ』『赤髪ツインは至高』『ツルペタも評価出来る』『しかもボクっ娘』『あんな子が料理するんだぞ、エプロン姿が見たいぜ』『は? エプロンとか邪道だろ』『ここは一周回って私服だろ』『私服で料理……閃いた』『←通報した』


僕はとある動画投稿サイトのコメントを見て少し呆れた。

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