第32話

「それじゃあ時間だ、行くぞ」


僕たちはメニューの外部リンクをを開き、とあるテレビ局の名前をタップして『移動しますか?』との表示のYesをタップ。そして


「……いつもの場所だね」

「これでいつもと違えばおかしいだろうが」


魔王の言葉に頷いてテレビ局の中を歩く。そして受付に行って魔王が何かを話す。するととある部屋に通された。


「いつもと変わらない部屋だね」

「そうだな」

「そう言えば今日は何のお話をするの?」

「今現在のVRMMOの事や俺たちの現状じゃね?」


ベルの言葉に納得していると


「そう言えばアリア、お前に苦情が何件か届いているぞ」

「え?」

「性能の良い武具を安値で販売するな、と。何故俺が中継役をしないといけないのか分からんけどな」

「そりゃ魔王がそこにいたからっしょ」


レヴィの言葉に魔王は処置無しといったように首を振る。

そして


「ごめーん! 遅れちゃった!」

「いえ、大して待っていませんよ」

「そう言ってくれると助かるよ……9人全員いるね?」

「もちろんです」


慌てて部屋に入って来たのは人気アナウンサー、その容姿と性格から一部人々に好まれている。アバターだからリアルの方では知らないけど。


「それじゃ移動しても良いかな?」


無言の首肯に頷いてアナウンサーは部屋を出る。それについて歩き


「入って入ってぇ〜」

「個人スタジオもらえたんですか?」

「あなたたちが活躍しているから私の立場もうなぎ登りなんだよね」


魔王が代表として話している。これはいつもの事だ。僕たちで何かがある時は彼が代表。


「それにしてもアリアちゃんたちのアバターも少し変化したかな?」

「アリアは変化していませんね。他は少し変えた程度です」

「アリアちゃんっていっつもその容姿だよね」

「そうですね」


僕たちはスタジオの中の椅子を勧められたので座る。最初に後ろを取れば前面には出ない。そう思ったはずなのに


「一列に並んで座ってね」

「分かりました。真ん中はアリアが座れよ」

「嫌だよ⁉︎」

「えー? アイドルが中央の方が良いよね?」

「ああ」

「うん」

「そうね」

「だろ」

「おう」

「もち」

「そうだよ」

「私としてはアリアちゃんの意見を尊重した方が良いと思うけどね」


マモンはそう言って


「アリアちゃんがどこにいるのかをはっきりと知らしめるには中央が良いと思うよ?」

「うぅ……分かったよぉ」


僕は少し悲しいけど頑張る決意をした。そして


「それじゃ撮影に入って良いかな?」

「いつも通り撮ったのを編集してこちらは確認させてもらえるのか?」

「もちのろんよ」


死語だと思うけど……このアナウンサーは何歳なのかな。前はチョベリバとか言ってたし。


「さてと、それじゃまずはアリアちゃんの無骨な格好を可愛くしたいよね?」

「ううん」

「したいよね?」

「嫌」

「し・た・い・よ・ね?」

「……ハイ」


プレッシャーに負けて幾つかのアバター用の服を手渡される。データだからいきなり手元に出せるんだけど


「直接着せたら良いじゃん」

「嫌よそんなの。アリアちゃんが自分で着ないと嫌がらせでしょ?」


今現在のも嫌がらせとは言い辛い。とりあえずアバター用の設定の欄から服装を変更する。

フリフリの着いた白地に黄緑の服だ。


「僕の好み、覚えてたんだ」

「そりゃもちろん出演者の事は中々忘れたりしないよ?」

「そっか」


若干嬉しい。そして


「それじゃ始めても良いよね」

「ああ」


全員が座って撮影が始まった。


*****


「みなさんこんにちは、毎日様々、略してマイザマの時間です」


「今回のゲストは何度かこの番組に出演しているプロゲーマー、通称傘下のみなさんです!」


フリップ『挨拶を』


「「「「「「「「「こんにちはーっ」」」」」」」」」

「みなさん元気が良いですねー。ゲーマーだからって元気が無いなんて思いを払拭してくれますねー」


「さて、今回のお題はこちらになります!」


背後の擬似液晶に『VRMMO』と大きく表示される。


「まずはVRMMOとは何か、軽〜く説明しましょう」


2分後


「そんなVRMMO業界の中でも最新にして人気の高いのが傘下のみなさんがプレイしているこちら(液晶にソーニョ・スキルズ・オンラインと表示される)」


「こちらは一体どのような感じなのか、まずはPVを見てもらいましょう!」


さらに2分後


「やっぱりと言うか景色が綺麗ですね」

「確かに景色は綺麗と言えますね。ですが注目すべきはそこではありませんよ」

「ほほう?」

「アリア、説明を」


アリアに少しズーム。


「そうだね。VRだからこそ出来る風景や現象はもう現実と大して変わらないくらいになっているんだよね」

「確かにさっきの映像だと現実にもありそうだと思えちゃいましたねー」

「だからこそ危険もあるんだけどね」

「大変気になる引きなので突っ込んで行きましょう!」


ここで一旦ルーズに。そしてマモンにズーム。


「マモン」

「そうね、簡単に言ったら現実と変わらないって事は凄いって思っちゃう。だけどそれは逆に危険なのよ」

「つまり?」

「現実と同じように……例えば崖から飛び降りたりするでしょ?」

「ほうほう」

「現実と変わらないなら現実でも同じ事が出来そうにって思っちゃう。それが危険ね」

「現実と変わらないってのも善し悪しなんですねー」


「さて、話は戻りまして今話題のソーニョ・スキルズ・オンラインの話です」


「PVの通り、スキルや武器がやっぱり重要なんでしょうか?」

「ベル」

「そうだな、スキルと一口に言っても多数に別れる。単純にしてもっとも重要と言って過言無いな」

「そうなんですね〜。例えばどんなスキルがあるんでしょうか?」

「戦闘職としては俺の魔法使い、マモンの弓士、アリアの剣士だな」

「名前から想像しやすいですね〜」


アナウンサーとベルにカメラが向く。


「戦闘職以外にはどんなスキルがあるのですか?」

「レヴィ」

「そうねぇ、有名なのを挙げたらアリアの錬金術士と鍛冶屋かしら?」

「錬金術士ってのはどんなのですかね?」

「ポーションを作ったりする……いわばアイテムを作る人ね」

「そうなんですか……いやぁ、奥が深そうですね」


「そう言えば何故みなさんはいつも同じギルド、もしくは団体でいるんでしょうか? 確か今回も魔王の傘下と名乗っていましたよね?」

「そうだね、基本的に僕たち9人はいつも同じギルドに所属しているね」

「どんな理由があるんでしょうか?」

「僕たちは個人だ、だけど個人ではどうにも出来ないものがある」

「あー、ありますねぇ」

「そう言ったもの、最初はとあるクエストだったんだ。受注条件が9人以上って」

「それは集まるのが難しいですね」

「うん、だから僕たちは個人で仲間を、その場のみのパーティ、野良パーティを作ろうとしたんだ」


カメラが全体を映す。


「だけど全員が高望みをしていた。そんなある時、魔王が1人で僕たち一人一人に接触して来たんだ」

「そしてそして?」

「僕たちはそこで初めて出会った」

「ま、みんな有名だったから名前や見かけた事はあったけどな」

「そうして私たちは揃った」

「そして纏まって」

「ギルドになった」

「纏めたのも魔王」

「集めたのも魔王」

「だから僕たちのギルドは魔王の傘下に収まっているんだよ」

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