第33話
「そう言えばアリア」
「どうしたの?」
シエルの剣の耐久の回復と材質強化の手を止めて顔を上げる。すると
「お前の作品がバランスを崩しかけているって知っているか?」
「あー、うん。聞いたよ」
「それで何か対策は考えているのか?」
「うーん……割引の価格を下げたりかな。でもそうしたら不満が出るじゃん。どうしたら良いかな?」
シエルはうーん、と唸って
「ごめんなさいビデオを撮ろう」
「は?」
*****
説明しよう!
ごめんなさいビデオとは唐突な変化などを周囲に告げる、いわば告知状なのだ!
基本的には謝る内容を文章として流すのだ!
「説明のテンションおかしくない?」
「しっ、静かに」
つまり、何を伝えるか、そして映像として何を使うかがもっとも重要視されるのだ! 引用:俺の知識より
パチパチとおざなりな拍手……おなざり? をして
「それにしてもセプトがそんなにノリノリで解説してくれるとは思わなかったよ」
「あたしもだ」
「ふ、大学生だからな」
「意味分からん」
「俺もだ」
シエルがセプトの応えに苦笑して
「それで僕を素材に動画を作るの?」
「ああ」
「僕たちで?」
「そうなるね」
「僕が文章考えるから他は任せても良い?」
僕の言葉に2人は少し話し合って
「お前の日常的なのを撮ってバックグラウンドで流せば良いと思うが?」
*****
「アリアちゃんいるー? ってセプトたちもいるんだ」
「やぁ、マモン」
「よう」
「今日はどうしたの?」
「製菓スキルが育ってきたから食べない?」
「……レパートリーは?」
「結構あるよ?」
「……イチゴパフェって出来る?」
「うん」
「出来んのかよ……」
シエルの呆れたような声を聞きながらマモンはアイテムをオブジェクト化、そして
「2人は?」
「俺もか?」
「そうそう。みんなで食べた方が良いでしょ?」
「なら私はクレープ的なのを」
「はいはーい。セプトは? 和風洋風までなら大体いけるよー?」
「む……なら鯛焼きを」
「はーい」
そんなのあるんだ、と驚いていると金型が出てきた。そしてフライパンも。
「アリアちゃんのは盛り付けるだけだからちょっと後回しにするね?」
「うん、見ておくからちょうど良かったよ」
「……ゲームの中での作り方がリアルで使えるか分からないよ?」
マモンは困ったような表情でボウルを取り出してその中に……白い粉と何かの卵、牛乳っぽいのを入れてかき混ぜる。
「食材系の素材は料理スキルを習得していないとドロップしないんだったな」
「そうだねー。同じように鍛冶屋も金属素材はドロップしないし」
「錬金術は基礎素材だったか?」
「うーん、錬金術が無くても手に入る物もあるからねー」
マモンとセプトが会話をしている。僕はその手元を眺める。
程よく混ざったそれを金型に流し込む。そしてその上に餡子っぽい何かを落として蓋を嵌めた。そのまま蓋に空いた穴に生地を流し込んで
「次はクレープね」
「頼んどいてなんだが製菓スキルでは何があるんだ?」
「んーと、一時的なステータスブースト?」
「どうして疑問系なの?」
「死にスキルだから検証されてないんだ」
「マモンって前から死にスキルばっかり取っていたもんね」
「ソロプレイヤーの弓使いってだけで否定されるならいっそとことんやっちゃおうって思ったんだもーん」
マモンはそう言いながら焼けた生地の上にイチゴを乗せて生クリームっぽいのをチューブから出す。製菓スキル……取る価値があるのかも。
「それにしてもアリアが鼻歌を歌うのは意外だったな」
「え?」
「アリアちゃんは昔っからテンションが高いと鼻歌だよ?」
僕は自分の表情が青ざめるのを実感した。
*****
「んーっ! 美味しかったよ!」
「ありがとうね」
「……素材ゲット」
「ん? セプト、何か言った?」
「気のせいじゃないか?」
うーん、確かに何か聞こえたんだけど……ま、セプトが言いたくないなら良いや。
「それよりもここの料金ってどんな風に決めているんだ?」
「あ、それはあたしも気になるな」
「そうね、ここらで一回公表しておかないと」
マモンの言葉に少し疑問を感じながら
「そうだね……まずは素材だね。基本的に全部持ち込みなら100K、10万だね」
「プレイヤーメイドにしては少し高いかな?」
「その分実績があるからな……続けてくれ」
「うん、そこから素材を取りに行く場合はマージン×1K」
「ミスリル鉱山のマージンは確か120くらいだったか?」
「150だね」
マモンの言葉に頷いて
「だから150K!それが素材の一つね」
「ふむふむ」
「でもってインゴットにするための必要個数、今だと8個をかけて……えっと」
「1200」
「1200K、そこに付与素材と性能、手数料かな」
「付与素材は同じなのか?」
「うん。セプトの時もそうだったでしょ?」
「ああ」
手数料は基本的に1Kと安くしている。
「性能ってのは良く出来たら高くして悪けりゃ安く?」
「そうだね」
「でもそれでバランス崩しているんでしょ?」
「そこなんだよねー」
僕はカーマインブラックスミスのカウンターに頭を載せて
「何か良いアイデアあるかな?」
「性能の値段を10倍」
「素材料金10倍?」
「全て10倍」
「打ち合わせでもしたの⁉︎」
あまりの驚きに椅子から落ちそうになった。そう言えば
「ポーションの方は大丈夫なんだよね?」
「そっちは情報公開があんまりされていないからね」
「どうして?」
「みんな自分の分のポーションが売り切れるのが怖いのよ」
なるほどね。
*****
「と、いうわけで軽く作ってみた。一応誰も見ていないから」
「そうなんだ」
「肖像権を主張するとは思わないが……一応な」
セプトの言葉に納得して送られて来たmp4ファイルを開く。そして『この度はカーマインブラックスミスの値上げもとい値段修正を行い、当方、誠に申し訳なく存じております。現在、当方の作品がバランスを崩しているとの事への処置となります』、と要約した文章が。うん、良い出来だ。だけど
「どうして僕がイチゴパフェを食べているシーンがあるの⁉︎ しかも鼻歌を歌っているのもあるし!」
「これには厳密な理由があるんだ」
「……聞こうか」
「まず男への媚を売る……睨むな、説明するから」
「……」
「基本的に男というのは女、お前の場合美少女を至高の逸品とする」
そんな男だらけなら日本は終わりだと思う。
「そんな美少女の可愛い映像があれば……な?」
「な? じゃないよね……それで?」
「もう一つはアリア、というプレイヤーがどんなプレイヤーなのかを知らしめるための日常的な映像を見せるという事だ」
「……確かにセプトの言う事は理解したよ」
でもね
「どっちにしろ肖像権の侵害だぁっ!」
僕の言葉にバツの悪そうな表情でセプトは頷いた。
*****
まぁ、出来は凄かったのでそのままネットに、動画投稿サイトにアップした。しかし
「アリアちゃん! この花束を受け取ってください!」
「アリアちゃん、この服を!」
「アリア様! 握手を!」
「こっちを向いてください!」
アイドルのような扱いを受けたのは何故だろう。
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