第36話

「ひよちゃんの経験値を割り振るけど良いかな?」

『ちぃ!』


僕はステータス画面の中にある『テイム』をタップ。そして表示されるひよちゃんをタップして


「……ひよちゃんの適性って回復と水?」

『ちぃ!』

「うーん……」


サポート役として連れて行く、そう思うと回復タイプにするべきだ。でもひよちゃんが水魔法を習得したいなら……


「ひよちゃん、回復と水魔法のどっちが良い?」

『ちぃ?』

「回復が良かったら2回鳴いて」

『ちぃちぃ!』

「水魔法が『ちぃちぃ!』

「両方なの⁉︎」

『ちぃ!』


困った。どっちのスキルを習得するべきか。

すでに習得しているスキルは『突く』『蹴る』のアクティブスキルの2つ。さすがにバランスが悪い。


「……ま、経験値なら僕と一緒に行けばたくさん稼げるから両方にする?」

『ちぃ!』


頷いて経験値を振り分ける。水魔法と回復魔法の2つのスキルが解放されるけど


「ヒールとウォーターボールかぁ……ちょっと振り分けるには不満が残るね」

『ちぃ?』


このままだと経験値を溜め込んでレベルアップが出来ない。だから


「敏捷と知識も取った方が良いと思うよ?」

『ちぃ?』

「うーん……速〜くなって頭が良くなるの?」

「アバウトな説明だな……」

『ちぃ!』

「セプト。今日はどうしたの?」

「この前ダンジョンに潜っていたら奇抜なプレイヤーがいたんだ」


それがここに来る理由なのかな?


「そのプレイヤーの武器は飛び道具と盾だ」

「珍しいプレイスタイルだね」

「それだけなら俺も同意見だ……そのプレイヤーの飛び道具がカードだったんだが」

「……」

「そして盾が某カードアニメに出て来るアレのようだったんだが」

「あ、あはは、ユニークな武器じゃないか」

「お前が作ったんだってな」


ばれた。ついついノリノリの依頼人にノリノリで答えた結果だ。


「飛び道具を投げて、それを拾うのは良かった。その後のカードは拾ったと宣言するのが五月蝿かったな」

「……僕が作ったからってプレイヤーまでは責任持てないんだけど?」

「俺が頼みたいのはそんなロマン武器を作って欲しい」


ロマン武器を?


「まぁ、冗談なんだが……なんだその意外そうな顔は」

「何人かロマンを求めて来たからね……」

「例えば?」

「高防御力のメイド服に棍棒としての箒、盾としての塵取り?」

「メイド……だと」


セプトが愕然と呟いた。すると


『ちぃ!』

「ひよちゃん?」

『ちぃちぃ!』

「お出かけしたいの? どこに行く?」


僕はフィールドマップを取り出してひよちゃんに見せる。するとひよちゃんはそれをじっと見つめて


『ちぃ!』


トコトコ歩いて1箇所を、氷山エリアに止まった。


*****


「思ったんだけどね、水魔法は炎系のモンスターに効くし回復魔法はダメージを受けないと作用しないから店で僕を的にした方が良かったんじゃないかな?」

『ちぃ⁉︎』

「さすがにそれはお勧め出来んな……」

「冗談……だと良いなぁ」

「断言でもなく希望的観測か……」


呆れるセプトはひよちゃんを見て


「モンスターテイムか。俺も何かテイムしてみたいものだ」

「ひよちゃんは引っこ抜いただけだよね?」

『ちぃ!』


トコトコと歩いているひよちゃんが振り返って


『ちぃ(ウォーターボール)!』

「ひよちゃん、フロストウルフなら魔法を使わなくてもんだよ?」

「スキラゲをしているのではないか?」


セプトも腰の斧をいつでも使えるようにしているが


「俺は見守るつもりだ。幸い俺なら壁になれる」

「それならひよちゃんは迷わずにやっちゃって……って、あ」


ステータスを見るとMPゲージがすっからかんだ。なので


「一回倒して休憩しよっか」

『ちぃ……』


不甲斐なさを悔やむような鳴き声に僕は苦笑して


「ひよちゃん、大丈夫だよ」


無言でミーティアメテオを放ち、フロストウルフを倒す。


「レベル1なんだから普通だよ」


今の戦闘で上がったスキル熟練度を確認して


「一旦ウオータースラッシュをとっとこうか」

『ちぃ!』


そしてそのまま速攻でスキルレベルをマックスに。これでレベルが一気に上がって


『進化しますか?』


と、表示された……進化?


「……進化先はアイスバードとヒールバード?」

「何⁉︎ 進化があるのか⁉︎」

「みたい」


僕はその二体の名前からイメージして


「しない」


と、決めた。すると何故かひよちゃんは嬉しそうにトコトコ走り回る。そして翼を広げてバタバタさせた。


「あのね、ひよちゃん。ひよちゃんは多分飛べないよ?」

『ちぃ⁉︎』


愕然とした様子でひよちゃんは僕を見つめる。そんな目で見られたら……


「大丈夫、いつか飛べるよ」

『ちぃ!』

「……正直は美徳とも限らんか……」


セプトの呟きなんて聞こえなかった。


「ひよちゃんは飛びたいのか……」

『ちぃ!』

「だったら進化させるべきかな?」

「そこで俺に振るな……ひょっとしたらレベルをさらに上げれば進化先が増えるんじゃないか?」


セプトの言葉にひよちゃんがピョコンと跳んだ。なんでいきなり?


「ひよちゃんはもう少し可愛いままでいて欲しいなぁ」

「悠長な事を言っている場合か?」


セプトの言葉にひよちゃんを眺めるのを止めると


「わぉ」

「フロストレックスだな。勝てるが……ひよちゃんを守り抜けるか分からんな」

「ひよちゃんは僕が守りながらスキラゲさせるよ」


僕は言い放ち、地面を蹴る。二足歩行のティラノサウルスっぽいフロストレックスの頭が振り下ろされるのを回避して


『ちぃ(ウオータースラッシュ)!』

『ぐ?』


体力は少ししか減らない。だけどレベルの上がったひよちゃんのMPは初期の6倍くらいある。魔法の適性が高いんだろう。

とりあえず


「スターダストスラスト!」

『ちぃ(ウオータースラッシュ)!』


同じスキルを連発するひよちゃんのMPはまだ余裕がある。だから威力のさほど高くないスキルでチクチクする。一応このエリアのランダムポップボスだしひよちゃんに任せっきりは嫌だ。


「ひよちゃん! 下がるよ!」

『ちぃ!』


MPが切れそうなので一旦下がってMPポーションで回復させようとする。しかしフロストレックスはその口を大きく開く。そしてその喉の奥から青白い光が顔を出した。


「パーフェクトタンクの名にかけてやらせるわけにはいかんな」

「由来が気になるけどお願い!」

「当然だ。ブレスシールド!」


吐かれた青白いブレスはセプトの構える盾に激突して辺りに衝撃を奔らせる。そして反射された。


「こんな場所で衝撃を奔らせたら雪崩が起きそうだね」

『ちぃ(ウオータースラッシュ)!』


ひよちゃんのスキルは幾度となくフロストレックスに地味なダメージを与える。そして


「水魔法のスキル熟練度がマックスになった」

「なら倒すか?」

「うん。ひよちゃんは少し離れてて」


僕はひよちゃんを手から降ろしてトコトコ歩くのにほっこりして


「スターダストエンプティー!」

「ふ、クリムゾンインパクト!」


15連撃と重攻撃によって体力全損。ドロップアイテムの牙や爪は氷武器を作るのに使える。それはさておき


「水魔法の派生から氷魔法なんだ」

「なんだ、知らなかったのか」


セプトはそう言うけど反応出来ない。

その、新たに表示された進化先『アイスチック』が


「チックってどういう意味なの⁉︎」

「いきなりどうした」

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