第35話

「ひよちゃんぴよぴよぴよこっこ」

「何その歌」

「ひよちゃんの歌」


僕の言葉にシェリ姉は苦笑して


「でもひよちゃんも大きくなるんじゃないのかな?」

「ううん。テイムスキルの情報を提供したら検証されたから」

「どんな?」

「食べさせたアイテムによって進化するって」

「大きくなるよね?」

「可愛いから良いの」


僕はシェリ姉の困ったような顔を見て


「今日はメンテナンス?」

「ううん。ご飯食べに来たの」

「りょうかーい。何を食べる?」

「オススメを食べたいな」


オススメ、そう言われて頭に浮かぶのは


「ならカレーだね」

「作れるの?」

「うん」


アイテム欄からスピアバードのもも肉、ジャイアントポテト、ソードキャロットを取り出す。そして包丁を装備して切る。

包丁は特殊武器というカテゴリーだ。特殊武器は他に縫い針と鍛治槌があるらしい。アスタリスクハンマーは槌だけど鍛治槌ではない。使えるけど。


「おお、手際よく切れているね」

「うん、慣れて来たからね」

『ちぃ! ちぃ!』

「ご飯?」

『ちぃ!』


頭の上でこくこくと頷くのが目に浮かぶ。なのでひよちゃんのご飯を用意する。すると


「それ……何?」

「え、ひよちゃんのご飯だけど」

「……薬草とブルーベリーとポーションじゃない?」

「うん」

「商品なのに……」


シェリ姉は呆れたようにカウンターに突っ伏した。それに苦笑して


「ところでシェリ姉はどの辺りに行ったの?」

「あ、そうそう。あのヴォルケイノドラゴンを見つけたよ」

「火山の辺りかな?」

「そそ、それで見てたんだけど1人で挑むのって無謀だよね」

「?」

「さっくりやられちゃっていたよ?」


材料を切り終わったから鍋を取り出してコンロに火をつけて鍋に材料を入れる。

ちなみにポーションの味は普通の水と変わらない。つまり


「え、ポーションを料理に使うの?」

「こうしたら野菜の風味が効いて美味しいって思ったよ」

「実体験済みかぁ……」


コトコト煮詰めていると


「ひよちゃんお眠?」

『ちぃ……』

「じゃお布団で寝ないとね……」


僕は頭の上から転げ落ちそうになるひよちゃんの小さな体を手の平に乗せて


「ちょっと寝かせてくるね」

「はいはい」


呆れたような声を聞きながら僕は地下の扉を開く。そして階段を降りてひよちゃん専用ベッドに乗せる。


「お休み」

『ちぃ……』


目を薄っすらと開けて囀ったひよちゃんはすぅすぅと寝息を立てて眠りについた。とりあえず階段を上って奥の部屋から出る。すると


「お客さんだよー」

「あ、この前の」

「はい、こんにちは」

「頼まれていた素材はすべて揃ったよ。あとは裁縫スキルを上げるだけ」

「あ、それなんですけど」


そう言ってシェリ姉を少し見る依頼人。僕は頷いて


「大丈夫、リアルの姉だよ」

「え⁉︎」

「それで?」

「あ、裁縫スキルを上げる効率の良い方法と……これを」


そう言って差し出されたのは


「何これ?」

「特殊武器の縫い針です!」

「へぇ……これが。それと方法って?」

「えっとですね、毛皮ってありますよね?」

「うん」

「それを縫い合わせてランクを上げると熟練度の上がり方が高くなりますよね?」


強い相手と戦えばスキルの熟練度が高くなるのと同じだ。しかし


「その際に違う素材を縫い合わせると熟練度が一気に高くなるそうです」


*****


確かに一気に熟練度が高くなった。そして僕がその依頼人の求める服を作れるようになった。


「こんなフリフリの服を作ってどうするの? 贈り物?」

「はい」

「そっか。彼女でもいるの?」

「い、いえ! そんな恐れ多い!」


僕は付与素材のおかげで薄緑色に染まった布をチクチクと縫う。それにしてもフリルをドロップするフリルバタフライってモンスターは逃げ足が速かった。


「フリルを縫い合わせて……スカートは一枚布なんだ」

「はい」

「裾にフリルを付けた単純かつ可愛い服だね」


依頼人と雑談しながら作るのは僕のスタイルだ。嫌な客もいた。だけど話した。


「完成!」

「おおー!」

「見れば見るほど可愛いなぁ……」


僕は依頼人に手渡す。そして


「頑張ってね」

「……はい」


そう言って無言でその服を僕に向けて突き出した。えっと……?


「アリアさんにプレゼントです!」

「……⁉︎」

「どうか受け取ってください!」

「……⁉︎ え⁉︎ どうしてそんな事になったの⁉︎」


僕は慌てて壁際まで下がる。それに依頼人は真剣な表情で見つめてくる。


「……理由はあるの?」

「僕がアリアさんのファンだからです!」

「……なるほど」


過去にも数度あったアイドル扱いなんだ。そう思うと頭が覚めた。だから


「ありがたくもらうよ。室内着にしても良いかな?」

「はい!」


*****


「店にいられなくなった?」

「うん」


僕はたまたま付与素材として風系のアイテムを取りに森に来ていた。するとそこでたまたまシエルと出会った。しかし


「ひよちゃんはそのにいてね」

『ちぃ!』


胸ポケットの中でひよちゃんは高らかに叫ぶ。すると


「ウィンドラプトルだな……どうする?」

「僕一人でやっても良いけど?」

「なら久々に手を組むか」


シエルは彼女の代名詞であり、二つ名でもあるヴォルケイノブレイザーを構える。堂々たるその姿に威圧されたようにウィンドラプトルたちは顔を見合わせる。


「下策だっつーの」

「ダブルラッシュ!」

「バーティカルスライサー!」


突進して連続切り。そして一瞬のスキル硬直後


「ダブルサークル!」


一体を確実に全損させて他のを怯ませる。そしてスキル硬直が解けると


「アークスラッシュ! ミーティアメテオ!」


片手で最速の2連撃を放ち、もう片手で突進して吹き飛ばす。そして


「もう終わりかよ」

「あっけないね」

「ま、あたしらなら余裕でヴォルケイノドラゴンソロ狩りいけるからな」


シエルはニヤリと笑って


「1狩りどうだ?」


*****


どうせならそこにいる野良パーティを手伝うみたいな結論に至った。そして


「ひよちゃんの経験値は後で振り分けるね」

『ちぃ!』

「良い子良い子」


その小さな頭を撫でて


「作戦を立てましょう」

「その必要があるで御座るか?」

「無いよ」

「いらねーだろ」


3人が絶句する。それに僕とシエル、そしてたまたまソロだったリョーマは立ち上がって


「僕たちの誰がラストアタックを取るか競争する?」

「あたしだろ」

「拙者で御座るな」

「僕だよね」


全員の意見が一致したので


「やれる?」

「は、はい!」

「なら行くよ」


僕は空を見上げる。すると火口の辺りから飛び上がったヴォルケイノドラゴンが目に入った。


「遠距離だね」

「追いかけるか?」

「その必要はありませんよ! アイスランス!」

「ん」

「む」

「2人は素早さ高いからな……」


僕とリョーマが駆け出すと同時に氷の槍がヴォルケイノドラゴンを狙って飛ぶ。そして攻撃に気づいたのかヴォルケイノドラゴンが吠えて突撃して来た。


「リョーマ」

「承知」


僕とリョーマは示し合わせたように左右に散開して


「ダブルグリザイユ!」

「居合・天閃!」


僕たち2人の放ったスキルはヴォルケイノドラゴンの体力をほんの少しだけ残して


「あ⁉︎」

「ぬ⁉︎」


アイスランスがその体力を全損させた。

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