第43話

「ちゅう吉はひよちゃんに乗って僕がルフに乗る、と」

『ちぃ!』

『ちゅう!』

『うぉん!』


3人の言葉に頷いて


「ルフはまだ小さいから無理だと思うよ」

『うぉん⁉︎』

「大丈夫、大きくなったら乗るから」


僕はルフの毛に指を通す。ふわふわでふかふか。そして


「今日は依頼は無いしポーションにも余裕があるから出かけよっか」


3人の元気な返事を聞きながら地図を出して


「どこに行きたい?」


*****


「あ、アリア」

「きり。今日は1人なの?」

「いつも一緒じゃないんだけど……」


きりは肩を竦めて


「その子たちは?」

「テイムスキルの結果」

『ちぃ!』

『うぉん!』

『ちゅう!』


ひよちゃんとちゅう吉がルフの上に乗っている。ルフは尻尾を立てて歩いているから不満ではなさそうだ。僕が乗らないって言うと不満気だったのに。誰でも良いの?


「ふーん。あ、イベントの事、聞いた?」

「イベント?」

「またPVPの大会と夏休みイベントってのが来るんだってさ」

「ふーん」

「アリアは参加するの?」


うーん、そもそも知らなかったし……そこまで重要だとも思えないしモチベーションが無い。だけど


「ま、ソロの部なら出るかも」

「えー? 一緒にパーティ参加しない?」

「しない。僕は基本的にソロプレイヤーなの」

「それは知ってるけどさ……」


最近はパーティを組む事が多少あったけどね。テイムスキルを習得する時とか素材集めとか。


「テイムモンスターがいるからソロプレイヤーじゃないってのはどう?」

「テイムモンスターはパーティの人数にカウントされないって分かっているから関係無いよ」

「むぅ……」


きりは食い下がる。すると


『ちぃ!』

「わっ⁉︎」


ひよちゃんが翼を広げて威嚇する。きりはビビって下がった。


「僕はソロの部で参加するよ」

「……私はソロで戦えないのに」

「魔法使いはソロで戦える。ベルがそう示している」

「ベルって誰よ」

「僕たちのギルドの仲間だよ」


きりはため息を吐いて


「今からは一緒しても良い?」

「……」

「良いよね?」

「……」

「ありがと」


良いって言わなくてもこれだ。


*****


「アリアは最近何しているの?」

「昨日はみんなのテイムスキル習得を手伝ったね」

「みんな? ギルドの仲間?」

「ううん。僕とマモンとシエルとセプトとリョーマとシェリ姉の6人で」

「……それなら私も手伝ってよ」


む、そうきたか。しかし断る理由も無いから


「どんなモンスターが良いの?」

「へ?」

「だからどんなモンスターをテイムしたいの?」

「うーん……」


きりは虚空を見つめて……何かを思いついたように拳を手のひらにポン、と落として


「かぼちゃかな」

「帰ろっか」

『ちぃ!』

『ちゅう!』

『うぉん!』

「ごめんごめん! 冗談だよ」

「……」

「魔法使いって言ったらコウモリでしょ」

「え、フクロウでしょ」


あの有名なポッターさんを知らないのかな? 1から30年以上経っている今でも有名なアレを。ハリーなポッターが主人公の。


「それにコウモリだと魔女じゃん。きりの胸だと無理だと思うよ」

「……どういう意味?」

「魔女って言ったら露出の多い体のラインが浮き出る服にボインボインだよ? きりの慎ましげなサムシングじゃぁぁぁ⁉︎」

「アリアに言われたくないなー!」


きりは僕の両ほっぺを抓んで引っ張る。地味な衝撃が来る。なので


「にょわっ⁉︎」

「お返(ふぁえ)ふぃ」

「だからっていきなりおっぱい触るか⁉︎」


きりは僕の頬っぺたから手を離して僕の手を払う。


「……目立ってる?」

「そりゃあんなに騒げばね」


5個目の街の中央付近、最前線ではないとはいえプレイヤーがいないわけじゃない。


「それじゃ行こうか」

「え、コウモリってどこで出るか知ってるの?」

「山や洞窟で出るから」


*****


「そもそもきりはどうやってあの街まで来たのさ」

「野良パに混ぜてもらって」

「ふーん」


賢者スキルを習得しているかは知らないけど魔法と回復の両方は貴重だろう。ひよちゃんもそうだけどね。


「あ、ルフとちゅう吉は辺りの警戒をお願い」

『うぉん!』

『ちゅう!』


2人は返事してちゅう吉は杖を構える。この杖は僕の作品だ。耳掻きほどの大きさだけどちゅう吉にはちょうど良いサイズ。


『ちゅう(ウィンドランス)! ちゅう(ウィンドボム)!』

『うぉん(フレイムクロー)!』


2人が蹴散らしているモンスターを無視して歩いていると


『ちぃ!』

「いたってさ」

「みたいね……ってか私何もしてないのに経験値が溜まっていくんだけど」

「だから?」

「罪悪感が湧くなぁ」


きりはぼやきながら歩いてひよちゃんのところに行く。ひよちゃんはすでに氷の中にコウモリを閉じ込めていた。

氷魔法束縛系、アイシクルプリズンだ。


「さて、それじゃ行こうか」

『ちぃ!』


僕は鷹狩のように手を伸ばす。そこにひよちゃんが留まる。背後からも2人が駆ける。だから


「アリアっ⁉︎」


きりの声を無視してそれに向けて駆け抜ける。途中で攻撃しようとするモンスターは3人の手により撃沈する。そして


『ちぃ!』

「グッジョブ!」


ひよちゃんは羽ばたいてそれの意識を逸らす。それは3つある首でひよちゃんを追う。それは下策だ……シエルがよく下策って言ってるけど口にしてみるとかっこよく感じるね。


『ちぃ(アイスボム)!』

『ーーーー!』


犬のような顔がひよちゃんを襲うも避けられている。隙だらけだ。


「ダブルサイクロン!」


二刀流連続の最高スキル。その剣撃は25にも及ぶ。そして


「耐えるんだ」

『ーーーーっ⁉︎』


吐かれる炎と風を跳躍回避して壁に着地する。そして飛び上がって


『ちぃ(アイスボム)!』

「ありがと」


ひよちゃんの爆風に乗ってふわーりと浮かんで


「メテオインパクト!」


落下速度が増す。そしてケルベロスの胴体に白い線が引かれ、直後光となって消えた。


「ボスもこの程度か」

『ちぃ(ハイヒール)!』

「別に大してダメージ受けてないんだけどね」


ひよちゃんの魔法での地味ーなダメージ、それを気にするひよちゃんの頭を撫でて


「ちゅう吉、ルフ。終わったよ」

『ちゅう!』

『うぉん!』

「帰るよ」

「待てい!」


背後から伸びてきた手を回避して


「どうしたの?」

「どうしていきなりボス戦やってんの⁉︎」

「だってここはダンジョンだよ?」

「知らねーよ! せめて一言言ってよ! 驚いたよ!」

「ドッキリ大成功!」


僕の言葉にきりはorzする。そして


「せめて……一言」

「以後気をつけます」

「それつけないフラグ」


*****


「ふかふか〜」

『うぉん』

『ちゅう』

『ちぃ』


僕は3人と一緒にベッドに入った。そしてひよちゃんを抱きしめてちゅう吉がお腹に乗る。ルフは右側にいる。


「イベント、出る?」

『ちぃ?』

『ちゅう?』

『うぉん!』


ルフがやる気を見せたので


「それじゃあまた僕が最強だって証明しに行こっか」

『ちぃ⁉︎』

『ちゅう⁉︎』

『うぉん⁉︎』

「あ、ごめんごめん。僕じゃなかったね」


「僕たちが最強だって証明しに行こっか」

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