第13話
「うん、そろそろ日を跨ぐね」
「僕たちは学校があるから落ちるよ」
「私も学校だから落ちるね」
各々学校なのでログアウトして……ベッドに寝っ転がった状態で現実に帰って来る。とりあえず起き上がって学校の用意をして
「明日、体育か……」
憂鬱な気分になる。
*****
「アリアー、一緒にキャッチボールしようよ」
「え、私と?」
きりが憂鬱な私に笑顔で頷く。私のやる気の無さが分からないのか。今なら好きな家庭科の授業すら憂鬱って言えるぐらい……何を考えているのか分からなくなるくらい憂鬱だ。
「朝日は他としているし……私は壁とキャッチボールするから「さりげなく先生から見えない場所でグローブを枕にしているのに?」
「……むぅ」
さてさて、面倒な事になった……と、思ったらきりも日陰に入って来て地面に座る。
「今日はどうするの?」
「明日に向けてポーションを量産しつつスキラゲ、そしてお金稼ぎかな」
「なんでそんなにお金が必要なの?」
「金属インゴットを買って武器や防具を作るから」
私の説明にほほう、と頷くきり。そう言えば
「名前の由来が率直だね」
きりなんとかひななんとかだからきりひな、単純だ。
「アリアがそれを言う?」
「え?」
「本名じゃん」
「捻りがあると見せかけて本名、それに日本人らしくないからちょうど良いの」
きりが変な顔をするのを無視して体育倉庫に寄りかかるようにして目を閉じる。すると
「あ、やば」
「ん?」
「こるぁ! 二階堂!」
「うげ」
先生に見つかった。そしていつの間にかきりは逃げていた。
*****
「私は今日はバイトだから先に帰るね」
「はいはい」
「それじゃお母さんたちによろしくね」
校門をくぐってシェリ姉は私たちの家とは違う方向に足を進める。
シェリ姉はまだ中学三年生。だけど私たちの中学は珍しくバイトが可能だ。それというのも創始者が中学生を雇うバイトは無いと高をくくったから。あったけどね。
「今が5時半かぁ……素直に帰るかどこかで寄り道するか……」
「それなら一緒にどこかに行かない?」
いきなり後ろから抱き着いてからの声に驚きながら
「行かないよ」
「えー? 寄り道するって言ってなかった?」
「山とか図書館とか海とか一人になれる場所だよ」
「それなら私とアリアが一人ずつで一緒に行けば良いじゃん」
意味が分からない。とりあえずスマホで時間を確認して
「それならさっさと入ってポーションを量産するか」
「なら私も手伝うよ」
*****
きりの真意が読めない。それが少しだけ怖かった。しかし
「おお! こうして見るといっぱい生えているね」
「そうだね」
探査スキルを取って薬草を見つけていく姿からは邪気が一切感じられなかった。……アレ?
「鳥とアカネの二人は?」
「部活だよ、剣道と空手やっているんだ」
「それで剣士と拳士なんだね」
「両方音が同じで分かり辛いね」
「そうだね」
互いに苦笑して薬草をどんどん拾って……
「そういえば錬金術のスキルレベルが地味に上がったなぁ」
「そうなの?」
「普通のポーションはレベル1からでも作れてほぼ成功するけどそれ以上の物を作るのならレベルを上げないとレパートリーが無いんだよ」
「ふむふむ……そう言えば生産系スキル二つも取って大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
「どうして?」
「だって僕が最強なんだから」
僕の言葉にきりが呆れたようなため息を吐く。別に分かってもらうつもりは無い。
「その最強っての言い訳に便利だね」
「うん、僕もそう思うよ」
「皮肉だよ」
「分かってる」
薬草を採って川の水を木の器に汲む。そしてアイテムとしての水を薬草と一緒に錬金術にかけて
「うん、今日もたくさん作った作った!」
「さすがにオークションで稼いだお金を半分使ってポーションを量産するのはどうかと思うよ?」
30分かかったけど40スタックだ。問題無い。
「さてと、これからどうする?」
「んー、私の家はご飯の時間が決まってるけど余裕はあるよ」
「僕も」
再ログインする予定の10時に落札するようにオークションを開催する。すると開始5秒で入札が。この時点で5桁。
「それなら2人で少し冒険しない?」
「……そうだね、レベリングとスキラゲしよっか」
「うん」
2人でマップを見て
「こっちの山に行こっか」
「そうだね」
「あ、それとエンチャントかけても良い?」
「良いけど?」
「エンチャントも魔法スキルだからスキラゲにちょうど良いの」
ふーん、と思いながら頷いた。
*****
「アークブラスト!」
2連撃は狼男の体を吹き飛ばす。そして一瞬のスキル硬直を耐えて
「アークスラッシュ!」
2連撃。それで狼男は倒れ去った。
「この辺りは一撃じゃないね」
「前線に近いんだから仕方ないよ」
「僕は最強なんだからこんなの一撃じゃないとダメなんだけどね」
僕の言葉に目を丸くするきり。何かおかしな事を言っただろうか?
「ん、アークペンタゴン!」
「あ、エンチャント・ストレングス!」
体に赤い光が纏わりつく。そして力が増したような感覚での5連撃。表示される78、82、69、75、108のダメージが地味にアピールしている。
「うん、やっぱり連撃系のスキルは気持ちが良いね」
「スターバースト?」
「ストリーム……ま、あれほどの連撃があるか分からないけどね」
「多分二刀流が無いとダメだと思うよ」
だろうね、と思いながら剣をしまう。経験値も大分溜まったけど使っていない。だからメニューからスキルを開いて
「新しく派生スキルを習得しよ……うかな?」
「どうしたの?」
「いや……連撃スキルは大半習得したんだけどさらに派生がある」
「え」
「片手長剣の派生の派生ね……面白いや」
『星屑』というスキルだ。前のVRMMOでも多用していた『スターダスト』と同じようなものだろう。とりあえず習得すると
「あ、素早さに凄いボーナスかかった」
「え?」
「ん、これ多分倍率だ」
「ええ?」
「単純に1.2倍くらいかな?」
204だったのが250くらいになった。とりあえず喜んで
「最初のスキルは」
「アリア、的が来たよ」
「ありがと、きり」
言われた通りに顔を上げるとキョロキョロしながら歩いて来た狼男の姿が。それは僕を見つけて警戒しながら近付いて来た。だけどね
「遅い! スターダストスラスト!」
一瞬の間に叩き込まれた3連撃は狼男の体力を散らす。
「凄⁉︎」
「いや、それ私の感想だから」
「だって今の見た?」
「うん、見ない方が難しいから」
「えへへ、凄かったよね? 凄かったよね?」
僕は気分が良い。クルクルと回りながらえへらえへらと頰が緩むのを止められない。
「うふふー」
「アリア? 大丈夫?」
「ダイジョーブダイジョーブ」
「あ、これトリップしちゃってる」
その後、ご飯の時間のアラームが鳴るまで僕はずっと笑っていた。そして
「あれ? アリアちゃん、今日良い事でもあったの?」
「うん」
「なに?」
お母さんは遅くなるから、とエミの作ったご飯を食べながらもずっと私は上機嫌だった。
しかし
「やっぱりアリアちゃんよりもエミの方が料理が出来るね」
「うん!」
2人のやり取りに少し練習しようかな、と思ったのは内緒。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます