第48話

「ひよちゃんたちは少しここで待っててね」


僕は3人にポーションの量産をさせる。そして店内に戻ると


「魔王?」

「夏休みの前に一度予定を聞いておこうと思ってな」

「やっほー」

「よう」

「チッス」

「……とりあえず座ってよ」


僕は驚きながら全員に頼んで


「全員いるの?」

「ああ。もっともマモンが何人か推薦して来たプレイヤーを連れて来るかで悩んだがな」

「推薦?」

「そそ、セプトたちも来ない? って勧誘したの。シェリちゃんもシエルも、ね」


*****


「まずは傘下の方針としては別に構わない。俺たち全員ソロプレイヤーで強ければ文句は言わない」

「そうなんだ」

「方針ってあったのか?」

「とりあえず強くなるって思ってた」

「同じく」

「ミートゥー」


カーマインブラックスミスの中で僕たちはそれぞれ適当に座る。そして


「それで新規メンバーが増えるのに賛成の奴はどれくらいいるんだ?」

「はいはーいってええ!? 私だけ?」

「マモンだけか。反対の奴は?」


誰も手を上げない。だから


「1対0で多数決か……選挙でもここまでじゃないだろ」

「逆にどうしてマモンはあの3人を勧誘したのさ」

「んー、今はただ最強のギルドなだけ出しこれからも最強であり続けるでしょ?」

「当然だな」

「そうだね」

「いつも通りだろ」

「いつだってそうだった」

「これからもそうに違いないわね」


マモンはみんなの言葉に頷いて


「でもそれじゃ常に最強って言えるか分からない。環境は常に変動する、知ってるでしょ?」

「確かにな」

「それじゃ3人が変えられると思うのぉ?」

「レヴィ、忘れているかもしれないけどね、私たちだってだったの9人なんだよ?」


マモンのその言葉にみんなが今さらながら驚く。僕も驚いた。そう言えばそうだった。


「あまりにも普通過ぎて忘れてたな」

「僕もだよ」

「そういやそうだったな」

「だからいつまでもこの9人だけじゃなくて新しい風を吹かせようって思ったの」


*****


「……緊張しているの?」

「だってこんなに注目されているんだよ?」

「さすがに緊張するな」

「まったくだ」


僕の言葉に3人は微妙に反応する。すると


「ほら、飲め」

「え、それ酒でしょ?」

「この中だとフワフワするだけのな」


魔王は3人にコップに注いだ酒を渡す。そして自分も飲む。


「と、言うわけで俺たち魔王の傘下はお前ら3人を歓迎する」

「本当に良いのかよ?」

「そもそも条件なんて強い事だ。アリアとそこそこやれるなら強いんだろ」

「今の状態なら魔王とアリアちゃんはどっちが強いのかな?」


マモンは平然と爆弾を投げ込んだ。その10分後、街の中央で


「さあさあみなさん、どっちが勝つか賭けようじゃないか!」

「私はアリアちゃんに賭けるね」

「俺も」

「私も」

「あたしも」

「俺もそうするか」

「私も〜」

「俺に賭ける奴はいないのか……」


魔王はため息を吐く。街の中にいた他のプレイヤーたちも見て賭けに参加している。


「テイムモンスターを使っても良いぜ?」

「そう。ならおいで!」


僕の呼び声に庭で薬草を収穫しているはずの3人がやって来る。さらに進化して大きくなったひよちゃんの上に大きくなったルフ、その上で帽子を被ったちゅう吉の3人だ。


「やっぱりお前がテイムスキルの最高峰だな」

「おだてたって手加減はしないよ」

「期待していない」


魔王はかつて僕が作ったナイフ、彼曰くスカーレット。真紅だ。


「それじゃ始まる前の結果はアリア8に魔王2、随分と別れたな」


ブブの言葉に魔王は悲しそうだ。


「俺って存外人望無いんだな」

「だって僕たちが最強なんだからね」

「それじゃ始まるぜ! 追加の賭けも受け付けるぜ!」


僕は背中の二本の剣を抜く。そしてスカーレットを構える魔王。


「開始っ!」

「クワトロスラスト!」

「スターダストプリズン!」


同時の4連撃。お互いに衝撃を打ち消しあって


『ちぃ(アイスフォール)!』

「く、トリプルスラスト!」


落ちる氷塊をナイフで砕き切る。そして


「ダブルテンペスト!」

「パラライズダガー! ナイフオブエンペラー!」


麻痺属性付与スキルからの偉そうなナイフスキル。それをなんとか相殺して一旦離れる。


『ちゅう(エアーランス)!』

『うぉん(ビッグクロス)!』

「実質4対1か! 燃えるな!」


魔王は2人の攻撃を華麗に回避して


「スローイングナイフ!」

「え⁉︎」


虚を突かれたのと驚きに動きが止まる。そして胸に一撃受けて吹き飛ぶ。


『ちぃ!』

「助かったよ、ひよちゃん」


そんな僕を背中に乗せて飛翔するひよちゃん。すると


「ラーミ○再現か! 燃えるなぁ!」

「望み通り燃やしちゃって! ルフ!」

『うぉん(ブレイズクロス)!』

「当たるかよ!」


魔王は燃えるルフの爪を回避してスキルを使わずに2閃。ルフは驚いてきゃん⁉︎ と叫んで下がる。その間にちゅう吉は大気魔法を放つ。


「ひよちゃん、隙を作って」

『ちぃ!』


僕はひよちゃんの上から飛ぶ。ひよちゃんは落下する僕より速く飛び、魔王に向かって突進する。


「ナイフオブプリエステス!」

『ちぃ!』

「なに⁉︎」


振られるナイフの直前での宙返り。そして背を向けて飛ぶ。魔王に隙が生まれる。だから


「ダブルサイクロン!」

「な⁉︎」


叩き込む25連撃。それを何発も止める魔王。しかし全ては受け切れない。


「ミーティアメテオ!」


止めの一撃。それは魔王を吹き飛ばしたが体力全損はしていない。


「やっぱり僕の作った防具は高性能でしょ?」

「ああ、斬撃耐性に救われたぜ」


魔王は苦笑して


「最後、決着といこうぜ」

「そうだね。でも僕たちが最強だから負けるのは魔王だ」

「魔王を倒すのは勇者の業務だぜ?」

「僕が勇者だとしてもそれより先に最強だ」


そして


「かつての敗北、やり返させてもらうよ!」

「来いよ! 最強!」


同時に地面を蹴る。

魔王の体力は残り2割も無い。対して僕の体力は7割弱。スカーレットの特性、過熱のせいだ。ナイフから漏れ出す熱によるダメージ。不可視だからダメージに気付き辛い。


「ナイフオブプレジデントォォ!」

「アークスラッシュ!」


振り上げられたナイフよりも速く、ずっと速い2連撃。それは腕に二本の赤いダメージエフェクトを残す。腕防具の斬撃耐性も高いからなぁ。


「これで、終わりだ!」

「それはどうかな?」

「なに⁉︎」

「アークスラッシュ!」

「は⁉︎」


クールタイムは最速、スキル硬直も最速のスキルだ。魔王の放ったスキルは一瞬の溜め動作がいる。その隙に二回もスキルを放てるほどに。


「強いスキルを使い続けるより弱いスキルも鍛えるべきだと僕は思うよ」


僕は目の前に表示された『winner!』と、いう文字を見ながら言う。そして湧き上がる歓声。そして


「私の賭け金が……」

「魔王てめぇ!」

「勝てよ!」


そんな言葉とともに投げつけられる小瓶。それは魔王にぶつかって砕け、体力を回復した。ポーションだ。


「いやー、すまん。負けた」


一瞬の静寂、直後


「あいつをやれ!」

「俺が一番乗りじゃ!」

「ファイアーボール!」

「ちょお前ら止め


ぷちっ、と物理的に魔王は踏み潰された。

魔王のさっきの言葉を考えるとあれ全員が勇者だ。

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