第3話

「手加減だ、五回までスキルか攻撃して良いよ」

「連続攻撃は?」

「……五セットと言い換えるよ」


僕は魔王の言葉に頷いてソードを構える。そして口から音を発する。


「アークスラッシュ!」


高速の二連閃は装備されている黒い長いコートを切りつけた。そして無情にも表示される二つの1。だけど視界の端での表示に頰を緩める。

メニューを開いて……よし


「二回目、行くよ」

「宣言する必要は無いんだけどね」


ソードを右に伸ばして


「アークトライ!」

「え⁉︎」


袈裟懸け、横薙ぎ、切り上げの三連閃はやはり1ダメージずつしか与えない。だけど僕の狙いはそこじゃない。再び視界の端を確認してメニューを操作して


「アークサークル!」


四閃。さすがにそろそろ防御を貫通して2、3とダメージが通った。

そして何かに気づいたのか魔王の顔色が変わった。すると


「俺を使ってスキラゲかよ⁉︎」

「ばれたか」


だけどまだ二回ある。今度はスキルは上がらなかった。だから


「アークサークル!」


踏み込んで一閃。さらに回転して一閃。もう一回転して一閃。逆周りに一閃して四連。確実にダメージが通ったというように7、8、5、9と表示された。そしてスキルレベルが上がって解放されたスキルを使えるようにスキルポイントを使って


「最後、行くよ」

「そろそろまともにダメージ通ってくるから止めて欲しいけど……続けるの?」

「当然。スキラゲの機会は逃さない」

「それが友人に対する言葉かよ⁉︎」

「魔王だって僕をPKしようとする集団をけしかけたりしたくせに」


僕の言葉に魔王はやれやれ、と首を振った。だから


「アークペンタゴン!」


袈裟懸け、逆袈裟、斜め切り、横薙ぎ、斜め切り上げの五連撃は確実にダメージを与えた。確認する余裕が無かったけど全て二桁のダメージだった。それより


「っ⁉︎」

「えっさっほい!」


僕はギリギリで振られたナイフを避ける。AGIに多く割り振っていて正解だったみたいだ。


「AGIにどれくらい振った?」

「半分」

「……数値は?」

「60」


僕の言葉に目を見開く魔王。周囲も再び騒めき出した。そして


「これくらいで許すけど次に言ったら……分かるよね?」

「いや、デュエルってどっちかの体力が半分にならないと終わらない設定なんだけど」


……


「君の体力で良いよね」

「いや、お前の方が早い」


僕たちは一瞬、睨み合って


「っ!」

「ふっ!」


同時に地面を蹴った。

僕の速度は彼よりも遅い。だから予測して動く。彼ならこの軌道でナイフを振る。その確信を基にソードを立てる。果たして散る火花が僕の視界に飛び込む。無事に受け止めれた。


「STRにも大分振ったな?」

「残り半分」

「馬鹿じゃねぇの⁉︎」


周囲の騒めきも大きくなる。そして


「前のような装備を整えるまでは極端な振り方をするなよ……」

「ナンセンス、極端かどうかは僕が決める」

「重課金勢かよ?」


僕は最近読んだWeb小説のセリフを引用して少し笑う。

そしてソードで切り掛かり、ナイフで防がれる。その応酬が二、三度続いた。焦れた僕は


「アークスラッシュ!」


スキルを放った。しかし二回の斬撃は持っているナイフに逸らされて


「バーストナイフ」


反応出来ないタイミングで突き出されたナイフから炎が吹き出す。そしてその刃は僕の胸の辺りを切る。初期装備の耐久値とHPが削られて


『終了! 勝者diabolos』

「って事で終了っと」

「むぅ」


僕は地面に倒れた状態から立ち上がって埃を払う。付いていないと分かっていてもこの動作はやめられない。


「装備を整えるには宝箱かドロップ、クエストだけだっけ?」

「いーや、プレイヤーメイドがある」

「なるほどね」


僕はソードを鞘に収めて


「で? 呼び出した理由は?」

「あー、それなんだが」


魔王は指差す。その方向には三人の少女が。


「前ので最後お前が目をかけていた奴ら」

「……きりひなたち?」

「ああ」


*****


パワーレベリング。それは安全かつ凄まじい速度でレベルを上げる手段の一つ。それを提案して来た魔王の言葉を断る。魔王はさもありなんといった表情で笑った。


「アリアさん、どうして断ったですか?」

「何を?」

「レベリングですよ」


きりひな(kirihina)の言葉に頷いて


「2人もそう思うの?」

「いえ、私は楽しめれば良いですよ」

「そそ、きりが気にしすぎなだけ」


アカネ(akane)と鳥人(bird girl)が頷く。皆同じクラスの女子らしい。名前もリアルネームを少し弄ったとかなんとか。


「それで今はどこに?」

「最初の草原。感覚に慣れないと」

「ついでにレベリングを?」

「うん、スキラゲも」


僕たちは街から出て草原に。風が吹き抜けるのも現実と大差ない。草の擦れる音も。雑草の花の色も現実だ。


「うん、綺麗だね」

「そうですね」

「そう言えばアリアさんって女の方なんですよね?」

「それが?」


鳥人の言葉に疑問を感じると


「前にお会いした時は男のアバターだったので」

「うん、そうだったね」

「何故ですか?」

「うーん、たまには違う自分ってのを演じてみたかったんだ」


僕の言葉に鳥人は頷く。そして


「あ、ちょっと離れた所にモンスターがいるね」


探査スキルの効果で見つけたのは大型の蟻。それに三人は少し引いていた。


「虫は苦手かな?」

「アリアさんは大丈夫なんですか?」


僕はメニューからスキルを装着する。レベルの低い今はスロットは3個しかない。だから『片手長剣』『探査』『空きスロット』がパッシブスキル。アクティブスキルは『片手長剣・連続』『空きスロット』『空きスロット』だ。


「僕がやろうか?」

「あ、その前にパーティを組みませんか?」

「そうですよ、アリアさん」

「そうしましょうよ」


『きりひなからパーティ勧誘が届きました』


効率が上がるなら良いかな、と思いながらYesをタップして


「クエストナンバー1、蟻の群れ退治か。手慣らしにもならないや」


地面を蹴った。


*****


『abc:さっきのデュエル見た?』

『J:見たよー』

『gamer:ベータテスター最強と思い上がりおにゃの子のでしょ?』

『key:詳細キボンヌ』

『abc:だが断る』

『cat love:魔王って名乗ったプレイヤーだよね?』

『diabolos:その通り』

『J:本人ktkr!』

『diabolos:思い上がりおにゃの子ってネーミングセンス凄いなw』

『cat love:ちゃお、魔王』

『diabolos:あれ? もしかして猫耳?』

『abc:知り合いかね?』

『diabolos:そそそ、前ので知り合い』

『diabolos:それと思い上がりおにゃの子ってアリアってプレイヤーね』

『cat love:ちょい待って! アリアってあの?』

『abc:あの?』

『J:あの?』

『key:あの?』

『gamer:どの?』

『diabolos:じゃ、またいずれ』

『cat love:ほいほーい』

『key:乙』

『J:乙』

『gamer:アリアって誰だーっ⁉︎』


*****


「アリアさん、そろそろ落ちますか?」

「うん、僕も学校があるからね」

「それでは失礼しますね。また明日もログインしますか?」


僕は少し悩んで


「明日はソロプレイしてみるかな?」


全員順調にレベル5まで育ったから。


「レベルはまだ低いんですよ」

「大丈夫だよ。だって僕が最強なんだから」

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