第2話

「うん、始めて」

『それではまずメニューの開き方を教えましょう。指を二本揃えて五センチほどゆっくり降ろしてください』


言われた(表示された)通りに指を降ろすと指示を出す画面と同じような物が。

そこには僕のステータスなどが載っている。そして


『無事に開けましたね? それでは使用武器種を選んでください。途中で変更も可能です』


これはいつも変わらないし変えない。項目全てをすっ飛ばして片手長剣を選ぶ。


『OHLSでよろしいでしょうか?』


One hand long swordの略を確認してYesを選ぶ。すると


『それではプレゼントボックスに武器をプレゼントしました。メニューからプレゼントボックスを開いてください』


閉じていなかったメニューの端、クリスマスのプレゼントみたいなアイコンをタップして開く。中には『ソード』が入っていた。初期装備になるのかな?


『それではプレゼントを受け取りましょう!』


タップ。


『それでは受け取った武器をメニューにある装備を開いて装備してください』


僕のステータスの下にある装備アイコンをタップして開くと『武器』『防具』の二種類の項目が。とりあえず武器を開く。どうも盾は武器に入るみたいだ。

装備にソードを選択すると『どこに着けますか』との表示が。背中に着ける。これなら走る際に邪魔にならない。

最後にOKをタップすると背中に軽い、しかし存在感のある重みが出現した。


『それでは戦闘です。まずは武器を構えて攻撃してみましょう』


剣の柄を握ると目の前に案山子が現れた。だから指示通りに剣を抜き様に切りつける。表示される5という数字。ダメージが表示されるんだ。


『しっかりとダメージが通りましたね。しかしダメージは通常攻撃では小さく、時間がかかります。スキルを使ってみましょう』


メニューの中にある『スキル』の文字が輝いた。そこをタップして


『それではスキルにスキルポイントを割り振ってみましょう』


一ポイントでどうしろと。そう思いながら片手長剣の欄を眺める。最初に取れるスキルは二つ。一撃の威力が低い連続攻撃と一撃の威力が高い単発攻撃。もちろん連続攻撃を取る。スキル名アークスラッシュ。


『それでは案山子に向けてスキルを使ってみましょう』


そう言われたので


「……」


スキルを使わずに切りつけてみた。しかしここではスキルは上がらないようだ。ため息を吐いて


「『アークスラッシュ』!」


技名を叫ぶ。魔王からの事前情報で技名を口にしないとスキルを使えない。そのシステムも少し気に入っていた。

果たして斬撃は案山子の右肩から左腰までを切り抜いた。そして体が勝手に動き出す。手首を返し、同じ軌道で切り上げた。そのまま振り返り振り抜く。そして続けざまに表示された8、9。


『お見事です。スキルポイントとステータスポイント、マネーをプレゼントボックスにプレゼントしておきますね』

『ギルドやスキル入手などのチュートリアルはメニューの中に存在しますのでお好きな時にご確認ください』

「うん」

『データを引き継ぎますか?』


僕は頷いてかつてのIDとパスワードを入力する。そして決定をタップして


『プレイヤー名アリアのデータを引き継ぎますか?』


躊躇なくYes。すると画面に『スキルポイント50』『ステータスポイント100』『ポーション100』『マネー 20K』を入手したと表示された。


『それでは良いSSOライフを!』


視界が光に包まれて……見覚えのない街の中に僕は立っていた。ここが始まりの街なのかな?


『最初の街の地図』を入手しました!


「うん、歩いて覚えるからいらないや」


僕は表示された画面を無視して辺りを見回す。建物の上の看板に名前が書いてある。そして僕が立っていたのは広場のようだ。周囲にも今ログインした人の姿もある。


「とりあえず武器を買える店を探さないと」


そう思って今いる広場から東にあるギルドを見る。反対側にはスキル屋。南には最初の草原とある。だから北に向かうと


「武器屋はあったけど……売り物はやっぱり無いんだ」


情報の一つ、店売りの武器は無い。防具も一部無いそうだ。とりあえず武器の耐久値を回復させれる名ばかりの武器屋だ。


『diabolos:アリアー、いる?』

『Alia:いるよ』

『diabolos:街の東のギルドの前に一旦かもーん』


いきなりのチャットに驚きながらもギルドの方向に体を向ける。結局ステータスポイントもスキルポイントも割り振っていない。だけど移動が面倒だから


「これで良し」


プレゼントされたステータスポイントも含めて半分をAGIに割り振る。残りは全てSTRに。そして試しに地面を蹴る。感覚的には前より遅いが今では速い。

中世ヨーロッパのような街を駆け抜けて広場へ。そこには次々とログインしてくるプレイヤーが。間を駆け抜けて


「えー、最強はいますかー? いたら返事してくださーい」


ディアボロスと思しきプレイヤーが声を張り上げていた。その頭上に表示されているプレイヤー名はdiabolos。ディアボロスと読める。


「おおっと、そこなお嬢さん。あなたと似たような外見の少年を知りませんか?」

「……五月蝿いよ!」


僕は魔王の脛を蹴りつける。街の中やダンジョンの一部ではダメージが発生しないエリアがある。しかし分かっていても蹴らずにはいられなかった。


「お? もしかして最強のアリア?」

「そうだよ! 魔王ディアボロス!」

「……女の子?」

「それが?」


僕の外見を不躾に眺める魔王。もう一回蹴ろうかと思ったら


「俺、貧乳には興味無いや」

「っっっ⁉︎」


僕は背中の剣の柄を握る。すると魔王は怖がるように後ろに跳んで


「今のはアレだ⁉︎ ジョークだから!」

「問答無用。切らせてもらうよ」


シャラン、と音を立ててソードを抜く。大した攻撃力は期待出来ない。もっとも初期装備らしく耐久値は案外高い。だから


「折れるまで切り続ける……っ!」

「怖えよ⁉︎」

「覚悟してね」

「ちょちょっと待とう! システムに則って戦おう!」


システムに則って? それは決闘デュエルの事かな?


「決闘、つまりデュエルの説明はいるか?」

「簡潔に」


僕はソードをだらりと下げて頷く。聞いておいて損は無い。


「ま、よくあるように体力の何割を削れば勝ちってだけだけどね」

「うん!分かりやすくて良いじゃん」

「それで? ハンデはどれくらいいるかな?」


僕はその言葉に頰が緩むのを止められなかった。なんて事だ。彼が僕の近くでもっともそれを知っているというのに。


「いらないよ」

「それは何故?」


お膳立てをする魔王。だから


「だって僕が最強なんだから」


その言葉に周囲が騒めく。その喧騒は懐かしくもある。


「あいつ、ベータテスター最強のディアボロスに勝つつもりなのか?」

「あの様々なVRMMOで最強のギルドを創設したディアボロスだよな?」

「スキルはおろかプレイヤースキルも半端ないらしいな」

「しかもテスターはレベルを30まで引き継いでいるんだよな?」

「レベル1のニュービーが勝てる相手じゃないよな?」


「だとよ?」

「だから?」


僕は笑って


最強そこは僕の居場所だよ」

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