第20話

「僕が最強なのは改めて証明する必要無いけどね」

「ふぅん、そうなんだ」


シエルはずっしりと重そうな両手剣を構え直して


「時間切れまで1分も無い。決着を付けよう」

「うん、望むところだよ」


僕も僕で右手に握った鉄の剣を背中に垂直に近い角度になるまで下げる。この構えから放つリープ系スキルは速度が速い。


「……」

「……」


先に動いた方がやられる。だから動かない……と、でも思っているのなら


「大間違いだ! ミーティアスラスト!」

「っ⁉︎ また背後に⁉︎」


一撃を加えた。しかしさすがにおかしい。体力があまり減っていない。さっきまでの攻撃を合わせてようやく半分を過ぎた。


「防御と体力がとてつもなく高い?」

「え」

「そうでなければstrとagiの二極振りの僕の攻撃を受けきれるとは思えない」

「あー、こんなにあっさりバレるとはね!」


踏み込んで振り下ろし。それを横に飛んで回避。そして鉄の剣で


「アークリープスラッシュ!」

「無駄ぁ!」


4連撃を両手剣の腹で受け切り、余波をなんなく受け止めた。シエルは強い。だけど


「最強は僕だ!」

「いや、私だ!」


スキルを使わない斬撃を回避して斬撃を両手剣に止められる。その応酬が続いて


「これが最後になりそうだね」

「うん」

「一撃で決めよう」


お互いに飛び退り


「スターダストブレス!」

「フルバスタァァァァァ!」


正面から激突して


「……」

「……」

「こんな終わり方は嫌だな」

「僕もだよ」


僕は錫の剣を取り出そうとして……彼女に敬意を払う。


「僕には替えの剣がある」

「え」

「だけどあなたに敬意を表してここは引き分けとしよう」


僕の言葉と同時にカウントが無くなる。そして『DRAW!』と、表示された。


「まさか剣がどっちも折れるとはね」

「うん、僕のも鍛冶屋スキルで耐久を高くしたはずなのにね」

「こっちだって鍛冶屋スキル持ちに頼み込んで耐久高い両手剣作ってもらったんだけどね」


僕たちは自然と握手して


「またいつか会おう」

「ならフレンド登録しておこうよ」


今はマモンたち傘下のメンバーときりたち、シェリ姉、セプト。そこに一人追加だ。


「僕は工房が買えるようになったら鍛冶屋を正式に始めるかもしれないから」

「ふーん、始めたらメッセージよろしくね」


そう言ってシエルは転移した。僕も転移して最初の街に。そしてメニューを開いて


「同率1位だけど1Mと20スキルポイントに20ステータスポイント。悪くないね」

「そんなアリアちゃんに私がドーン!」

「ふぁっ⁉︎」

「ちょ、直美⁉︎」

「あ、シェリちゃんダメ! 私はマモン!」


リアルネームを口にして怒られたシェリ姉。とりあえずマモンの下から這い出して


「勝てなかったけど案外楽しかった」

「アリアちゃんも成長したねー」

「アリアちゃん、しっかり見てたよ」

「シェリ姉……」

「凄く強くて頑張ったの、伝わってきたよ」


シェリ姉はそう言って


「それじゃこれからは私もアリアちゃんと一緒に行動するね?」

「ダメ」

「えー?」

「シェリちゃん、アリアちゃんは最初から1人になるつもりだから」


*****


「スターダストスラスト!」


3連撃を放ち、魚人間を倒す。錫の剣だからダメージは少ないと思っていたが案外高い。スキルとステータス補正だろう。

え? ステータスポイントはどうしたのかって? 嫌だなぁ、strに全部ぶったよ。シエルにダメージがろくに通らなかったからね。


「あ、あれが三つ目の街だね」


教えられた通り河沿いに行けばあった。案外大きい。


「うーん、広いけど工房を買えるのはどこなの?」

「お困りかな? お嬢さん」

「うん、お困りな呟きが聞こえて言い出したでしょ?」


振り返って


「ベル」

「へへへ」


ベルフェゴールはニヤリと笑って頷いた。そしてメニューを開いて操作して


「ほれ、旦那からの」

「わ、ありがと」


大会に参加するプレイヤーはトトカルチョに参加出来ない。もっとも公式の、は。非公式、通称プレイヤー運営は賭け金を取られたり八百長もあるらしい。


「しかし自分が優勝に50Kって旦那ですら爆笑していたぞ」

「ふーん。ちなみに他のみんなは?」

「お前に有り金全て」

「⁉︎」


凄く信頼されていた。


「そのおかげで懐が暖かくなって……どうしてリアルのは冷たいんだろうな?」

「知らないよ⁉︎」

「マモンみたいに大学生をエンジョイしたい……」

「幼なじみなら積極的に関われば良いじゃん」

「無理無理、女大生だぞ? 一般大学生がおいそれと近づけるような奴じゃねぇ」


ベルの言葉を聞きながらトレード欄に表示された1500000、1.5Mを受け取る。現在3M以上あるから


「工房を買える場所は分かる?」

「んー、それならもうちょい粘って最先端の街とかが良いんじゃね?」

「ううん、あんまり遠くに行きたくない」

「最強なのに?」

「早めに工房を買って装備を整えたいんだ」

「それなら工房を借りるだけで良くね?」


*****


「そんなシステム知らないよ……」

「使用料金も安いからな。インゴットとハンマーさえあれば作れるんだろ?」

「うん。だけど付与素材によってステータスボーナスが付いたり攻撃力や耐久が高くもなるんだ」

「低くもなると」


僕の言葉にベルは頷いて


「ま、俺にはカンケーねぇな」

「魔法使いだからね」

「ああ。それじゃまた気が向いたら顔を出すかな」

「買うつもりは無いんだけどね」

「どこの街でも工房の補正はねぇよ。好きな立地を選ぶだけだ」


ベルはそう言い残して工房の前から立ち去った。

ここの工房の気になるお値段は1.5M。さっきのトトカルチョの儲け全てが吹き飛ぶ。そう考えると


「うん、別に良いかな」


工房の扉に手を触れると『購入or使用』と、選択肢が表示された。とりあえず購入を選んで金額を確認して購入する。

すると『購入家具を選んでください。1M』と、表示され、他にも色々と表示された。

箪笥、アイテム収納出来る。椅子、座っているとHPMP回復……などの中に『鍛冶屋の炉』と、あったので迷わず購入。しかしメニューから見ても僕の所持金は減っていない。そして1Mと表示されていたのが減っている。なるほどね。


「うん、とりあえずこんな感じかな」


追加購入出来ると言われたので箪笥と鍛冶屋の炉、鍛冶屋の金床だけを買った。残り少ないが気にしない。

そして今さら気付いたけど


「工房じゃなくて民家じゃん!」


内装は鍛冶屋だけど僕は盛大に突っ込んだ。


*****


「……贅沢は言わないけどスキルレベル上げよう……」

『風鉄の剣 攻撃力+52 素早さ+13』

『風鉄の靴 防御力+5 素早さ+12 agi+8』

『風鉄のスカート 防御力+1 素早さ+15 agi+4』

『風鉄のシャツ 素早さ+11 agi+1』

『風鉄のコート agi+3』


手とアクセサリーの指輪とネックレス、ミサンガ以外の防具を整えた。防御力は格段に下がるけど速い方が好きだ。剣は求めていた付与素材が無いので仕方なく作った。


「まさか鍛冶屋スキルレベルを上げたら製品が凄くなる上に素材も少ないなんて!」


僕は少しがっくりきながらログインポイントを変更してログアウトした。

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