第15話
「午後1時から初戦だね」
「うん、トーナメントは4回勝てば良いみたいね」
マモンの言葉に頷いて
「僕はご飯を食べてくるよ」
「あ、私たちも」
「私もそうしようかな」
満場一致したのでログアウトする。そして部屋から出て階段を降りて
「エミもシェリ姉も外出なの?」
「そうよ、だからお昼は3人で」
「休みの日くらい5人で揃って食べたいんだけどね」
お父さんの言葉に苦笑しながらお母さんは料理を作る。そして
「今日はチャレンジしてみましたー!」
「「……」」
「茹で卵を揚げてみました」
「「……」」
「この奇抜な発想、凄いでしょ」
「自分で言わなければね」
僕は少し怯えながら箸でつんつんと突く。しかしコロコロ転がるだけ。
「親父殿、お先にどうぞ」
「いやいや、娘様よ、お先にどうぞ」
「年長者を敬っての発言ですぞ」
「若い者に先に食べさせてあげたいね」
親父殿と私は微笑みながら押し付け合う。そして結局
「茹で卵に衣が着いただけじゃん」
「え、えへへ」
誤魔化すようなお母さんの顔は忘れない。
*****
「うーん、経験値も溜まったしお金もあるから明日の大会が終わったら……」
僕が一番で黒い部屋に戻って来た。今現在の試合を眺めていると魔法使いのみパがバランスパを圧倒している。遠距離に固めて、起伏の激しいフィールドだから出来る荒技だ。
「うん、極端なプレイスタイルは好感が持てるね」
僕ならどう対応するかを考えていると一斉砲火により、バランスパが全滅した。うん、今のは後ろに下がっても無理だからね。僕でも多分危ない。
「よし、回復した」
武器と防具の耐久を回復させて一息吐く。簡易炉では鉄は加工出来ない。どこかで工房を買う必要がある。マモン曰く二つ目の街にもあるらしい。
「まずは拠点を置いてから前線へ進もう。最前線まで行く間に装備を整えておきたいな」
今の装備はバラバラ。素早さに補正をかける防具に連続強化の剣が懐かしい。そこまでとは言わないけど近くまでは行きたい。
「あ、アリア。早いね」
「きりこそ」
僕は思考を一旦中断して
「装備、出して」
「え?」
「耐久を回復させるから」
「あ、ありがとう?」
「鍛冶屋のスキラゲを兼ねているから気にしなくて良い」
僕は出来るだけぶっきらぼうに告げて
「明日の大会が終わったら僕はソロプレイヤーに戻るよ」
「………………え」
きりの驚き、悲しみ、寂しさが混じった表情は何故か僕の胸に何かを突き刺した。
*****
「えーっと……何かあったのかな?」
「マモンか、遅かったね」
「何があったのかな?」
「僕がこの大会が終わったらソロプレイヤーに戻るって言っただけ」
「うん、それは良いんだけど……なるほどね」
マモンは苦笑してきりたち三人組に近づいて
「確かにアリアちゃんと一緒にプレイしていると楽しいけどね、彼女の意志も尊重してあげられないかな?」
説得に入ったマモンを尻目に試合を眺める。剣士と剣士の一騎打ち。しかし初級スキル、アーク、ブラスト、リープしか使っていない。
経験値を使って『星屑』スキルも新しいスキルを習得した。そしてスキルのレベルも少し上げた。これで少し上にいけたはずだ。
今のゆっくりペースじゃ最強には程遠いんだ。
「……アリアちゃん、時間だよ」
「知ってるよ」
「……アリア、ホントにソロプレイヤーに戻るの?」
「うん」
「そっか……」
「現実でも会えるんだから気にする必要は無いと思うけどね」
僕の言葉に反論しようとしたきりたちが光に包まれ、僕も転移した。
本戦ではカウントダウンがあるらしい。予選で無かった理由が知りたい。
『5、4、3、2、1…START!』
その表示と共に地面を蹴る。今回のフィールドは廃墟。壊れたビルだ。とりあえず周囲に誰もいないのを確認して窓の近くまでゆっくり歩く。
すると歩いている方向から足音が。階段を駆け上がるような音に鉄の剣を背中の鞘から抜いていつでも攻撃出来るように構える。しかし
「……あれ」
駆け上がる足音はそのまま通り過ぎ、さらに上に行っちゃった。仕方がないので慎重に移動して窓の外に顔を出すと
「あっ!」
「げ」
最上階か屋上から見下ろしていた魔法使いっぽい奴に見つかった。その場に留まるのが一番危ないから窓の外にある危険極まりない手すり無しの階段を駆け上がる。
「ファイアーボール!」
「危ないなぁ」
階段を一旦降りて手頃な階に降りて一息吐こうとして……反対側から入って来た剣士と目が合った。剣士は慌てて剣を抜いて
「リープスラッシュ!」
「アークスラッシュ!」
飛び込んでからの一撃を一撃で逸らし、二撃で中断させる。スキル硬直の剣士へスキルを放とうとして
「ファイアーランス!」
咄嗟に後ろに飛ぶ。2対1、そう思うと
「やる気になる! アークリープ!」
「ソードリバーサル! が⁉︎」
リープとしての突進からの一撃は流された。しかしアークとしての連続技は流せなかった。その結果、剣士の体力に結構ダメージが通った。
探査スキルを上げていたら派生で鑑定、体力やアイテム、相手の装備が分かるスキルを習得出来た。もっともスキルポイントがごっそり消えた。スキルレベルを上げれば見える範囲が広がるらしい。
「回復を!」
「済まない!」
「早く! ファイアーボール!」
剣士が下がってポーションを取り出して飲んでいる。そして飛んで来た炎の球を懐に飛び込む事で回避。振り下ろされる杖の先を回転する事で逸らして
「スターダストプリズン!」
「な⁉︎」
「エクレトール⁉︎」
4連撃、それもagiを高い僕が放つ。そしてこのスキルの特徴は一撃ごとに微妙な、極僅かに相手を怯ませる。だから反撃出来ずに魔法使いは光になる。一撃目か二撃目で怯まなかったら危なかった。
「く……っ!」
剣士は脇目も振らずに僕に背を向けて駆け出した。それにあっけに取られ、僕は反応出来なかった。そして階段を駆け上がる音でようやく我に返って
「追いかけなきゃ」
慌てて追いかける。下からは物音がしないと思ったら
「7階中の3階……そりゃプレイヤーも上に多くいるよね」
呟きながら階段を駆け上がると見せかけて飛び上がる。そして窓に手をかけて足場に。再び飛び上がって
「ヘブンズスプレッドアロー!」
拡散しながら降り注ぐ矢が放たれた。
*****
「マモン!」
「あ、あはは……ごめんね」
「ホントだよ! ダメージは無いのに矢が刺さったんだよ! ホラーだよ!」
「うーん、見てみたかったかも」
「マモン⁉︎」
僕は頭に刺さった矢を抜いてため息を吐く。
「もう無いよね?」
「うん」
きりたちは相手の魔法使い複数と開幕早々遭遇して魔法の撃ち合いになり、速攻で全滅したらしい。そしてマモンがお返しとばかりに全滅させようとした時に僕が巻き込まれたようだ。
「パーティメンバーにダメージが無くて良かったよ」
「うん、そうだね」
「特に最後のアレ、真上に撃ち上げてから拡散したよね?」
「うん」
「逃げようとしたのを僕が止めなかったらマモンも隙だらけだったよ?」
僕の言葉に下手な口笛を吹いて誤魔化すマモン。まぁ、良いけどね。
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