第24話

「……」


トングをオブジェクト化する。そして鋼鉄インゴットを挟んで炉に突っ込む。そしてタイマーをセットして


「休憩」

「「「早⁉︎」」」

「だってインゴットを加工可能温度まで温めるのに10分もかかるんだもん」


僕はため息を吐きながらアイテムを次々とオブジェクト化する。付与素材にアスタリスクハンマー。そして


「ヴォルケイノドラゴンの素材を使うの?」

「少し考えているだけ。素材の入手はそこまで難しくなかったし」


僕の言葉にマモンは少し首を傾げて


「それなら今日は遅いけど明日、みんなで狩りに行く?」

「……僕は構わないけど」

「俺たちも付いて行っても良いのか?」

「良いなら行くけど」


*****


「ふーん、そんな事になったんだね」

「悪いけどシェリ姉たちは連れて行けないよ」

「やっぱりそうだよね」


私たち5人はあいも変わらず食堂でお昼ご飯を食べている。しかし


「それ、美味しい?」

「うーん、個人によって変わりそうだけどね」


私の食べている様々な物焼き(大蒜醤油味)を見てきりは疑問の声を出す。今食べている肉は牛だと思う。今のところ牛と豚と鳥と猪、羊があった。よくもまあこんなにレパートリーを揃えたものだ。


「様々な物焼きって一部足りとも間違いじゃないんだよね」

「そ、そうなの? どれがまとも?」

「……これが鳥でこれは牛、これは豚」

「アリアちゃん、もう少し女の子らしく説明したらどうかな?」

「え?」

「そんな男らしい言葉じゃなくてさ」


私はため息を吐きながらお茶を飲んで


「シェリ姉みたいに女の子として魅力は無いから良いの」

「何その理論」

「シェリ姉はおっぱい大きいから女の子らしくして良いの」


私の言葉に周囲から視線が集まる。さらに


「私おっぱい大きくないよ?」


シェリ姉の言葉におお! と湧き上がる男共。蹴るよ?


「シェリルさんが言っても説得力がありませんよ……」

「まったくだね」

「そうそう」

「え? そう?」

「この中で一番大きいくせに」


私の言葉に困ったような表情を浮かべるシェリ姉に湧く男共が不快だった。


*****


「リンクイン」


私から僕になり、鍛冶屋兼薬局のカーマインブラックスミスに。すると


「お、早かったな」

「セプトこそ」

「俺は創立記念日だったからな」


セプトはそう言う。つまり学生なんだ。


「アリアも学生だよな?」

「も、って事はセプトもだね」

「雰囲気的に高校……いや、中学生か?」

「正解」


僕の言葉に苦笑するセプト。すると


「お前はこれからのヴォルケイノドラゴンを狩るのに反対は無いのか?」

「え?」

「少なくともお前とマモンの2人はソロで狩ったのだろう? 足手まといを抱えてやれるのか?」

「……」


僕はため息を吐いて


「あまり僕たちを舐めない方が良い」

「……心得ておこう」


すると空間にノイズが奔り


「お、2人だけか」

「シエルか」

「やぁ」

「それでヴォルケイノドラゴンってどんなのなんだ?」

「一応僕の戦闘を録画しているから対策立てよっか」


*****


鋼鉄インゴットを加熱するのはすでに辞めていたけどインベントリには入れていなかった。とりあえず入れて


「それじゃいける?」

「まぁな」

「私の防御力越えられたら辛いけどな」

「私がヘイトコントロールするから多分大丈夫だよ」


火山にあるヴォルケイノドラゴンの巣。そこはかつての戦闘の名残は無い。吐かれた火球に砕かれた壁も修復されている。


「それじゃまた僕は目を、柔らかい場所に一撃を加えるよ」

「6連撃のね」

「……あれか」

「あれだな」


被害者の会が頷きあっている。

240000と表示される体力の膨大さに苦笑しながら


「所定の位置についたよー」

「俺もだ」

「私も」

「なら……スターダストスプラッシュ!」


新たに解放された9連撃。振り下ろしてからの横薙ぎ、左上に上り右上に切る。そこから突き込み、振り上げ、振り下ろし、回転しつつの2連撃。


「スキル硬直!」

「フルバスタァァァァ!」

「デプスインパクト!」


僕のスキル硬直の隙を埋めるために2人はヴォルケイノドラゴンをひるませるためのスキルを放つ。それは目論見通りに動きを止めた。そして


「もう片目、もらうね。スプレッドクラッシュアロー!」


ズタズタに傷ついた両目、それにヴォルケイノドラゴンは悲痛な叫びを上げて暴れ回る。目は見えていないはず。なのにマモンに向けて爪を振り下ろした。


「遅い遅い、スプレッドヘブンズアロー!」

「無視されるのは心外だな! トライインパクト!」

「同感だ! ホームルァァァン!」


え、みんな一言何か言いながら攻撃しないとダメなの?


「僕も無視は嫌いだよ、スターダストリープ!」


突進してぶらぶら揺れながら攻撃を仕掛ける尻尾の付け根を斬りつける。1撃、2撃、3撃と続けざまに放った直後


「っっっ⁉︎」

「アリアちゃん⁉︎」

「アリア⁉︎」

「大丈夫か⁉︎」

「大丈夫だよ!」


体力表示を見れば分かるはずなのに心配してくれる。それがなんだか複雑だ。


「どこかの両手剣使いの真似してポーションを服に付けてたの!」

「あー、あれか」


シエルが苦笑して


「デプスクラッシュ!」

「クワトロスラッシュ!」

「スプレッドパラライズアロー!」


2人の怯ませるためではなく、ダメージ重視のスキルとマモンの状態異常を引き起こすスキル。それによってヴォルケイノドラゴンの体力は半分を切っていた。


「火球を吐く頃だよ!」

「でも麻痺なう。あ、毒らせるの忘れてた。スプレッドポイズンアロー!」

「追撃だ! シールドバッシュ! クワトロスラッシュ!」

「っしゃー! スーパークラッシュ!」

「まったく……スターダストスプラッシュ!」


追撃を加える。ガリガリと削れる体力。そして25パーセントを切った。ここからが苦戦する。翼を落とせば余裕なんだけど


「ホーミングパラライズアロー!」

「「「え」」」


麻痺して即効で地面に落下してきたヴォルケイノドラゴンに僕たちは呆気にとられてしまった。


*****


「良くも悪くもMMOってインフレが激しいからね。いつかヴォルケイノドラゴンも一発で終わったりするんじゃない?」

「かもね」


素材、ドロップの中にはレアドロップと言われる物がある。

ヴォルケイノドラゴンの場合、炎龍の盾、炎龍の剣、炎龍の槍の三種類だ。そして僕が入手したのは炎龍の槍。要らない。だから


「オークションにかけるのは早いと思うけどね?」

「別に良いよ」

「要らない物を即座に金に変えようとするのか……」

「使わない物を加工し直せば使える武具に出来るのにね」

「興味無い」


僕は今度こそ炉から加工可能になった鋼鉄インゴットを取り出す。トングに挟んだまま金床に降ろす。これで要求される回数叩けば両手剣は完成する。

今回はstrを求められているからヴォルケイノドラゴンの素材、炎龍の鱗と炎龍の爪を付与素材にして


「始めるよ」


設定した付与素材が鋼鉄インゴットに重なる。そしてアスタリスクハンマーを振り下ろす。散る火花。それに目を細めながら手を止めない。


初めて仲間のために槌を振るう。初めての経験だけど、利己的な僕にしては何故か悪くないと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る