第14話 ユキとのおでかけ
寒さが深まる中、咲子さんが「ユキと一緒にまたどこかに出かけてみたい」とぽつりと話してくれたのは、カフェでのいつもの集まりの時だった。彼女が自分からそんな提案をしてくれたことに、私も美香さんも少し驚いたが、それ以上に嬉しかった。
「いいね、それ!」と美香さんがすぐに賛成して、「どこに行こうか?この間の公園も良かったけど、今回は室内の方が暖かいし、落ち着ける場所がいいかも」と提案した。私はそれに頷きながら、「どこか静かで、安心して過ごせる場所がいいね」と加えた。
しばらく相談した結果、私たちは近くの図書館の小さなカフェスペースに行くことにした。そこは人が多すぎず、静かで落ち着いた雰囲気があり、咲子さんも少し安心できるだろうと考えたからだ。
週末、私たちは図書館で待ち合わせた。咲子さんは白いクマのぬいぐるみ「ユキ」を小さなトートバッグに入れて持ってきていた。それを大事そうに抱える姿が微笑ましくて、私と美香さんは思わず顔を見合わせて微笑んだ。
カフェスペースに席を取ると、咲子さんが「ここ、すごく静かでいいね」と小さな声で言った。彼女が少しリラックスしている様子を見て、私たちはほっとした。
美香さんが「ユキも一緒に写真撮ろうよ!」と提案し、咲子さんは最初は少し戸惑っていたものの、「じゃあ……」とユキをテーブルに座らせるように置いた。その姿がとても可愛らしく、私たちは思わずスマートフォンを取り出して写真を撮り始めた。
「ユキ、いい感じだね」と美香さんが笑い、咲子さんも「本当に……ユキがいると、少しだけ落ち着ける気がする」と小さく笑った。その笑顔は、私たちにとってとても特別なものだった。
しばらくして、図書館内を少し散策することにした。咲子さんはユキを抱えながら、興味深そうに本棚を眺めていた。美香さんは何か面白そうな本を見つけては、「これどう?読んでみたい?」と話しかけ、私も「これ、良さそうだよ」と本を差し出してみた。
咲子さんは、最初は少し控えめだったが、だんだんと自分から「これ、気になるかも」と本を選び始めた。その姿を見て、私たちは彼女が少しずつ新しいことに挑戦しているのを感じた。
帰り道、咲子さんがふと、「今日は……楽しかった」とぽつりとつぶやいた。「図書館の静かな空間も良かったし、ユキと一緒だったから少し安心できたかも」と続ける彼女の言葉には、確かな喜びが込められていた。
「また行こうね」と美香さんが言い、私も「次はどこに行くか、また考えよう」と声をかけた。咲子さんは少し恥ずかしそうに「うん」と答えた。
ユキとのおでかけは、ただの小さな一歩かもしれない。それでも、咲子さんにとっては大きな意味を持つ時間だった。私たち三人の絆もまた、少しずつ深まっていくような気がしていた。
冷たい風の中で、私たちの心には静かで温かな光が灯り続けていた。それは、これからも消えることのない、私たちの大切な絆の象徴だった。
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