第9話 それぞれの一歩
咲子さんのプレゼンが無事に終わった後、私たちはカフェでささやかな「お疲れさま会」を開くことにした。咲子さんが見せた勇気と成長をお祝いしつつ、私たちもお互いのこれからのことについて話し合いたい気持ちがあった。
カフェの席につくと、美香さんが嬉しそうに「咲子さん、本当にすごかったね!」と声をかけた。咲子さんは少し照れくさそうに微笑みながら、「皆が支えてくれたおかげで、最後までやり切れたよ」と小さな声で答えた。その言葉には、私たちへの感謝が込められていて、私も美香さんも温かい気持ちになった。
それからしばらくの間、私たちは思い思いに近況を話し合った。自然な会話の中で、美香さんがふと自分の夢を語り始めた。「実は私、将来いつか、チック症の人たちが気兼ねなく集まれる場所を作りたいと思ってるんだ。自分もそういう場所があったら、もっと楽に生きられたんじゃないかなって思って……」
美香さんの真剣な表情に、私は驚きと感動を覚えた。彼女は、明るく周りを和ませる存在だが、その裏には自分の障害と真摯に向き合い、未来のために何かをしたいという強い意志があるのだと感じた。
咲子さんも、少しずつ夢を語り始めた。「私は……まだ具体的なことはわからないけれど、自分みたいに話すのが苦手な人が、少しでも安心していられる場所を作れたらいいなって思ってるの。今の自分じゃまだ遠い話だけど……」
その言葉に、私は静かにうなずいた。咲子さんがこうして将来について考え始めていること自体、彼女が大きく成長している証だと思えた。
そして、二人の話を聞いているうちに、私もまた自分の思いを伝えたくなった。「僕も、いつか障害を抱える人が集まってお互いを支え合える場を作りたい。自分もそういう場で救われたから……。そして、もしできるなら、こうして出会えた仲間と一緒に、それぞれが無理なく過ごせる居場所を作れたらと思ってる。」
三人で語り合った未来は、まだ遠いかもしれない。でも、こうしてそれぞれの夢や思いを共有し合えたことで、私たちはまた一歩前進したような気がした。お互いに支え合い、励まし合う中で、それぞれが少しずつ自分の居場所を見つけつつあるのだ。
その日、カフェを出る頃には、空が夕焼けで染まり始めていた。暖かな色に包まれた街を眺めながら、私たちはそれぞれの一歩を踏みしめ、また新たな日々へと向かっていく決意を固めていた。
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