第10話 小さな光

紅葉が散り始め、街に少しずつ冬の冷たい空気が漂い始めた頃、私たちはまたいつものカフェに集まった。この日、美香さんが「面白い話があるの!」と少しワクワクした様子でカフェにやってきた。


「聞いてよ、昨日ね、バスで隣に座ったおじいさんが突然、『君は元気そうだね』って話しかけてきたの!」と、美香さんは楽しげに話し始めた。「私が『はい、元気です!』って答えたら、すっごく嬉しそうに笑ってくれてさ。なんだか、それだけでいい日になった気がするんだよね。」


彼女の明るい声に、咲子さんも私も自然と笑顔になった。その話は何気ない日常の一コマだけれど、美香さんの明るさと人懐っこさが伝わってくるもので、私たちの心も少し温かくなった。


その後、話題は自然と咲子さんの近況に移った。「最近、職場で少しずつ周りの人に話しかけられるようになったんだ」と咲子さんが小さな声で話し始めた。


「前は声をかけられるだけで緊張してたけど、少しずつ慣れてきたみたいで……なんだか自分でも驚いてる。でも、まだ人が多い場所だと怖くなることもあるけどね。」


咲子さんが自分の気持ちを言葉にして話してくれることが、私たちにとっては大きな進歩に思えた。美香さんも、「それって本当にすごいことだよ!少しずつでいいんだから、咲子さんのペースで進めば大丈夫」と励ましていた。


その時、私も自分のことを少し話してみようと思った。「僕も、この間職場で少し前向きなことがあったんだ。時々、自分が何をしているのか混乱することがあるけど、この間は上司が『よく頑張ってるね』って言ってくれて。それがすごく嬉しくて……もっと自分を信じてみようかなって思えた。」


その話を聞いて、美香さんは明るく「それってすごくいいじゃん!」と言い、咲子さんも静かにうなずいてくれた。


私たちはそれぞれ小さな成功や前進を感じつつあった。それは誰かに自慢するような大きなものではないかもしれないけれど、私たちにとっては確かな一歩だった。こうして話し合う中で、お互いの存在がその一歩を支えてくれていることを強く実感した。


カフェを出ると、冷たい風が頬をなでた。美香さんが空を見上げて、「もうすぐ冬だね。でも、この冬はなんだか楽しくなりそう」と言った。その言葉に、私も咲子さんも笑顔でうなずいた。


私たちはそれぞれに違う困難を抱えながらも、こうして少しずつ未来に向かって進んでいる。その足元には、小さな光が確かに灯っていた。それはまだかすかなものかもしれないけれど、私たち三人が支え合うことで、その光はこれからも消えることなく、ずっと続いていくように思えた。

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